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下手が落ち着く。

ヘタじゃあない、シモテである。こんな画数の少ない漢字にルビなんかふってられるかい。ああ日本語はめんどくさい。

小学1年生の時だったと思う。学芸会で「浦島太郎」をやることになった。こういう時、主役の浦島太郎と相手役の乙姫様はクラスでも級長や副級長をやっていそうな2人が選ばれて、他は浦島を竜宮城に連れて行く亀くらいであとはひたすら舞い踊る鯛や鮃のモブたちなのだ。今考えるとクラス全員で作り上げるものとしては甚だ不適な気もするけれど、まあいいや。とにかく鯛や鮃になってわけのわからないクネクネ動きを延々とさせられることを考えると全く気乗りがしなかった。

キャストが決まっていく。さもありなんな浦島と乙姫役、亀さんも決まる。やれやれと思っていると「サザエはシズがいい」と多数決(多分)で指名された。「え、そんな役あったっけ」という位外野の人になっていた。何するの?

クラスで作った海の底の書き割りを背に浦島太郎の物語が繰り広げられる。書き割りの一つにサザエがあって、それは幕が上がってからずっと下手にある。貝だから基本的に動かない。物語も佳境、竜宮城で賑やかな宴が繰り広げられたその後で、やおらサザエから人が出てきて伸びをしながら言う台詞が一言「うるさいなあ、眠っていられないじゃないか」舞台は暗転・・・。

台詞のキャッチボールもいらないし、何より短い。ほんの一瞬とはいえ、スポットが当たるのは自分だけ。その時をしゃがんでじっと待たなくてはならないことを除けばこれはオイシイ。そうか、こういうポジションが自分には向いているのかも知れないとその当時はもちろん思っていない。

高学年になると、たびたびクラス委員に選ばれるようになった。その時かなりの頻度で選ばれていたのが書記というポジション。壁新聞の係だったこともあるかも知れないが、間違っても級長とかには推挙されない。このポジションがまた居心地がいい。中央に級長と副級長、書記の席は教壇に向かって左手、つまりは下手に机と椅子がおかれて議事録を作る。時々は意見も求められるのだが、主たる業務はソコではないので何だか野次馬気分なのだ。だんだん、リーダーシップはとりたくない、もしくはヒエラルキーの外にいて、だけどいることだけは認知してという都合のいい自分像が出来ていく。

ベースを始めて高校の文化祭でユーミンをやった時も立ち位置は下手。バンドというのはなぜかベースが下手にいることが比較的多いのだが、これにはドラムとのコミュニケーション説や、ビートルズ起源説など諸説ある。人の目線は右にまず行くので花形であるギターは右なのよという話もあるが、案外そんなところじゃないかという気がする。芝居でもワルモノや道化は下手から、ヒーローは上手からというパターンが多い。

だからお前は下手の横好きなのか?いやいやソレはただのヘタと、お後を汚して申し訳ございません。見出しのイラストは「しまこねこ」さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。


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