クロネコがよこ切ったあと(1600字小説)
中2になった圭太は、野球のジュニアリーグの練習に急いでいた。
「大変だ、コーチに怒られる!」
道具を持って、急いで石段を下りる。
黒猫が横切る。
「ちぇっ、こんなときに、邪魔なやつだ」
圭太は、小学校のころ、クラスメートの古川のいってたことを思い出した。
「黒猫が前を横切ると、不吉なことがおこるんだってぇ」
圭太は科学的根拠のない迷信みたいなはなしはあんまり好きではなかったが
実際に目の前を黒猫に横切られると
すこし心配になってくる。
「迷信だろ!迷信、うにゃ、迷信に決まってる」
と強く打ち消す。
早くいかなきゃ、あの鬼野郎が……
練習が始まる。
内野のノックが始まる。
三遊間にきつい打球が飛んでくる。
あわてて取ろうとしたが
打球はレフト前に抜ける
「飛びついて取れよ、この根性なし!」
コーチの怒声が響く
鬼(コーチ)は50をすぎていたが
昭和野郎はいちいちムカつく
もう一本厳しい打球が飛んできた。
怒声を浴びたくないので、飛びついて取ろうとした
「あ、いて、」
打球はグラブからポロポロ転がっていく
ツキ指をしてしまった。
腫れあがっている。
その日の練習は免除されたが
帰り道、あのクロ猫を思い出していた。
「古川の言ってたことは、本当だったのかなぁ」
一週間後のことだった
学校へ行くとき、またあのクロ猫がよこぎった。
「また、なんかあるのか?」
その日、クラブ活動(部活ではない)で、発表会があった。
圭太はよりによって、グループでつくった、みんなで模造紙に書いた研究を家に忘れてきてしまった。
「圭太ぁ~、どうすんだよ、おめぇ」
みんなからブーイングだ。
家にとりに帰れば、往復30分はかかってしまう。
今日の授業は、オレらのグループの発表がメインだったのに
先生の機転で、発表はとりやめ
研究室にあるスライドを見ることになった。
「あ~、やっぱりクロ猫のはなしは本当なのかも」
それから、三週間くらい経った日曜日のこと
公園の前を通ると、ベンチにオジイさんが座っていて
目の前にクロ猫がいる。
気になったので、そばに寄ってみる。
お爺さんは、ネコにスルメを与えているようだった。
クロ猫は、それをハフハフ食べている。
「その猫好きなんですか?」
圭太は聞いてみる。
「まぁ、ひとり身じゃから、かわいいやつじゃよ」
「でも、クロ猫って不吉と言われてますよね」
「不吉なんかじゃないよ、この猫は、わしにとって神みたいなものじゃ」
「神?」
「そうじゃ、わしにとっては神じゃ、いや、神の使いじゃ」
クロ猫は相変わらず、スルメをハフハフ食べている。
圭太はまだ何か言おうとしたが、とりあえずだまって
その猫を眺めた。
圭太はクロ猫が不吉の予兆なのか、それともお爺さんの言うように神なのかよく分からなくなった。
その一週間後
親に頼まれて、コンビニに食パンを買いに行くことになった。
「あっ、」
石段のところにまたあの猫がいる。
黒いずんぐりむっくりした身体をうずくまらせて
栗色の瞳でこっちを見ている。
まさか……
こともあろうに、また、自分の前をいそいそとよこ切った。
「不吉か、神か、不吉か、神か?」
「またなんかあんのかなぁ~」
コンビニにつくと、自分のイチ推しの美玖がいる。
コンビニにはバレンタインのコーナーが設けてあり
少し高めのチョコも置いてある。
圭太は2番目に高いチョコをさっととり、会計をすます。
デザートを眺めてた美玖に渡す。
「はい、上げる」
「何、?」
「バレンタインだよ」
「えっ、明日だよバレンタイン」
「こういうのもありじゃないかと思って」
「(ふふっ)、面白いヤツだね、圭太って、ありがと」と嬉しそうに顔が崩れる。
「じゃあね」
圭太は、食パンを持って足早にコンビニを出る。
それから、圭太と美玖はラインを交換しつき合うことになった。
クロ猫は神か不吉か、不吉か神か?
圭太はどうも、あのお爺さんが言ってたとおり、クロ猫は神のような気がしてきた。
それから、圭太はあのクロ猫とお爺さんをふたたび見ることがなかった。
───(END)───
(あとがき)
午前中に買い物に出かけたら(コンビニですけど)帰り道にクロ猫と目が合いました。
前を横切られたわけではないのですが、じつは10年以上前から、その場所で3度くらいクロ猫に横切られてるんですけど(必ずその場所なんです、不思議なことに)
不吉なことは一回も起こりませんでした。
そこであるアイデアがうかび
サッと形にしてみました。
もちろん、2月22日と関連した、ハッシュタグ企画も念頭にありました。
前回の投稿とあまりに世界がちがうため、少しとっておいてもっとあとに出そうとも考えましたが、すぐ出すことにしました。
よかったら、是非「スキ」して下さいね。
御一読どうもでした。
(製作データー)
書き始め:2022年2月11日午前10時50分
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