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沢野ひとし【食べたり、書いたり、恋したり。】第4回 佐野洋子さんのイス

 佐野洋子さんと親しくなったのは、彼女が多摩市連光寺に新築を建てた頃である。家の隣が桜ヶ丘公園で、春は花の雲が空一面に広がっている。
 私の住む町田から車で二十分の距離と近い。絵本の出版社こぐま社を退職してフリーになった四十歳の頃で、阿呆に付ける薬はなしといった状態で、毎日街や山で遊びまわっていた。

 洋子さんの家は山小屋のように至ってシンプルな造りで、私は友人を誘い酒ばかりごちそうになっていた。洋子さんは料理もとてもうまかった。しかしこれでは申し訳がないので、早目に行ってはガラス磨きや部屋の掃除を率先して手伝っていた。

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