29.分岐点は君がため③

 元カノ・Kちゃんとのお話。
    [前話:28.分岐点は君がため②

 Kちゃんと付き合うことになった俺は、とりあえず近畿で転職活動することに決めた。しかし、まったく進んでいなかった。“人に迷惑をかけない”そんな俺に、そもそも目標や夢なんてない。特にやりたいこともない。
 人の役に立つことがしたいという気持ちは漠然とあった。人の役に立つとは、どういうことなんだろう。人の手助けを必要としているのは、どんな人たちだろう。病人・ケガ人、障害者、高齢者、子ども、被災者……考え出すとキリがない。
 ――俺は何がしたいんだろう。
 あれこれ考えるだけで、何も行動には移せていなかった。「まぁまだ期間あるし」「なんとかなるやろ」「まぁさいあく地元に帰ればええか」と、ちゃらんぽらんな考えがぼんやりと居座っていた。

 そんなある日、彼女から電話が――
『転職活動進んでる?』
「うん、まぁ、ぼちぼち」俺は嘘をつく。
『合ってそうな仕事考えてピックアップしてみたんやけど』
 様々な求人リストがLINEで送られてきた。
 ――まじか! やべっ! 
 寝転がって電話していた俺は、思わず飛び上がって頭を掻きむしった。
 いよいよあせった俺は、これをキッカケに転職活動を始めた。

“四国に帰ることは、それだけはアタシが阻止するわ”

 以前に彼女が言ったセリフ。疑っていたわけではなかったが、その気持ちは十分過ぎるほど伝わっていた――。

 とりあえず、やってみたい仕事のジャンルをざっくり2つに絞った。「リハビリ関連」と「小児関連」だ。漠然と考えたなかで、比較的興味があった2つだが具体性はない。それに、彼女がピックアップして勧めてくれた職種にはそういったものが大半を占めた。その影響は大きかった。客観的に見て向いていると思ってくれたわけだし。
 ハローワークでそれらの求人を見ると、有資格業がほとんどだが、無資格で可能なものもあるにはある。今から学校に通って資格を取るなんて気持ちはないし、とりあえずそれでいいかな……。ということでハローワークのおっちゃんと面談。
 記入用紙の[希望職種]の欄、[第一希望:リハビリ関係][第二希望:小児施設]と記入して提出した。
 それを見たおっちゃんが口を開く。
「これらの何か資格は持ってる?」
「いや、ないです」
「今は転職したいっていう気持ちが強いから、実際こういう仕事に転職しても最初は良いって思うかもしれん。でも10年後とか考えたときにどうやろ。資格がない状態で10年後を考えときどう思うやろ」
「!」
 予期せぬ発言に、俺は息を呑んだ。
「……そうですね」
「じっくり考えてみて。資格なしでもいいなら求人紹介するよ」
「はい……ありがとうございます」
 俺はすぐさま帰路についた。

 ――先のことなんて全然考えてなかったなぁ。

 帰り道、思いふけながら彼女との電話でのやりとりを思い返す――
『理学療法士すごく合ってると思うんやけどなぁ。職場でも理学療法士さん見てるけど、患者さんに寄り添う仕事やし向いてると思うんやけどなぁ。理学療法士どう?』
 彼女は、特に理学療法士を俺に推していた。そこには、なってほしいという願望も含まれているような気がした。
 以前から理学療法士という職業には、ほんの少し興味はあった。でも、今から資格を取るために学校に行くなんてめんどくさいし、お金もないし、勉強なんてほとんど頑張ってこなかった俺には無理。そんなふうに思っていたが――。

 ――俺は、資格を取ることを決心した。

 奇しくも、ハローワークのおっちゃんの言葉が俺の背中を後押しする結果になった。もしもあのとき、あのおっちゃんの助言がなければ、すぐさま求人を紹介されていたならば、その決心はできなかったかもしれない。まさに金言だったな。
 最終的に『理学療法士』『保育士』どちらにするか悩んだ末、元々運動が好きだったことや、野球部、専門学校、仕事、これまでの経験も活かせると思い、理学療法士に決めた。
 なにより、彼女が勧めてくれたから。なってほしいという彼女の思いもみ取ったうえでの決心だ。

 俺の決心を彼女に伝えた。

「ほんまに!? いいやん!! 絶対合ってると思う。アタシも応援するし、支えるわ」


   *  *  *


 俺は理学療法士になることを決心した。
 それはもちろん自分のためだが、彼女のためでもある。彼女がいなければ、理学療法士になるという選択も決心もなかったと断言できる。彼女が理学療法士を勧めてくれた。四国の田舎に帰る可能性があった俺を彼女が引きめた。
 応援してくれると言ってくれた彼女。支えてくれると言ってくれた彼女。俺を引き留めた彼女。不安はあったが彼女がいるから大丈夫。彼女の存在が俺の心を強くした。

 ――そんなある日。デートの帰り道、彼女からあることを告げられる。

「伝えたときたいことがあってな」
「ん?」
「実はずっと連絡取ってる人がおんねやんか」
「?」
「元カレやねん」
「・・・・・・」
「元カレやねんけど、そんなんじゃないねん」
「・・・・・・」
「今は関東に住んでてな」
「・・・・・・」
「この人とだけは連絡続けさせてほしいんねん」
「・・・・・・」
「そんなんじゃなくて、生存確認の意味でな連絡取ってるだけやねん」
「ごめんけど、それは無理やわ」
 その一言だけ。さらなる弁解も、談合も封じるように俺は言った。
 ――なんでわざわざ言うん。言わずに勝手にしといたらええやん。彼女なりの正義感なんかもしれんけど、言わんといてほしかった。そう思ういっぽうで、それを許することができない自己嫌悪で気分が悪くなった。世の中の彼氏はこれを許すのだろうか……。

「……わかった」
 そう言う彼女は、眉間にシワを寄せ、口を結んでいた。

 翌日、彼女からLINEが届く。
《昨日言ったこと忘れて!》
《その人にな、彼氏にあかんって言われたこと伝えたんやんか。そしたらな、「そうかぁ。実は俺も彼女おるんやけどね!」って言われてん》
《はぁ?ってなって、ほんま殺意湧いたわ》
《だからもういいから、昨日言ったこと気にしないで》

 忘れて? 気にしないで?
“元カレやねんけど、そんなんじゃないねん”
 そんなんじゃない人に、彼女がいたことにそんなに腹が立つ?
 そうやったんや、おめでとう。でいいんちゃうの?
 報告がなかったことに怒ってんのか?
 っていうかその人もなぜ彼女がいること隠してたん?
 そんなんじゃないねん??

《そうなんや! りょーかい!》俺はLINEを返した。

 ――それから1ヶ月、彼女はうちに来なかった。

 LINEでのやりとりは続けていたが、会おうとする気配はなかった。
 俺も彼女に対し、これまでとは違った感情が芽生えていたが、芽が育たぬよう必死に押し殺しながら過ごした――。

 付き合った当初、旅行の計画を立てた。
 それは、俺の地元に行ってみたいという彼女の希望だった。旅行の予定は3ヶ月後に決まった。
 ――3ヶ月後。
 およそ1ヶ月ぶりに会う彼女と、予定通り2泊3日の旅行へ。待望の――そんな感情はなかった。この旅行の発起人である彼女はどんな心持ちだろうか――想像しないようにした。
 俺の思い込みのせいなのか、歩くときの距離感、会話のやりとり、話すときの視線、1ヶ月前とは明らかに違って見えた。ふたりの間を吹き抜ける晩秋の風がやけに冷たく感じた。
 2日目には俺の故郷に足を運び、うちの両親とも顔を合わせた。うちの両親にもぜんとした態度で明るく気丈に振る舞う彼女の姿は頼もしく感じたが、同時に悲痛な思いに襲われた。そんな彼女のことを、うちの両親も気に入ったようだった。それがまた俺の心を痛めた。

 それはきっと彼女も――。

 この旅行が「終わる」こと。
 それが何を意味するのか、俺は分かっていた。分かっていたが考えないようにした。そうならないことを切に願った。このまま波風を立てずに、ただ旅行を消化しようかとも思った。

 それでも――

 この旅行ではっきりさせたかった――

 旅行の最終日。
 旅館に泊まった翌朝、俺は意を決し、彼女にキスをした。

「!」

 彼女が、めいっぱいの力で口をつぐみ、歯を食いしばっているのが口唇越しに伝わった。そして、彼女は俺を振りほどき、ベッドから下りて逃げるように洗面所へ向かった――。

 ――そっか。

 なんとなく分かってた。覚悟もしてた。
 それでも――痛い。
 真新しい傷を虚勢で応急処置をして彼女の後を追った。そこには、両手で顔を覆い泣いている彼女の姿があった。
「もう好きじゃないってことを実感して……ごめんね」
 彼女の涙。そこにはどんな想いが入り混じっているんだろう――。この1ヶ月、この旅行中、何を想いながら過ごしていたんだろう――。想像すると傷がうずいた。俺と付き合わなければ、俺と出会わなければ、流すことのなかった涙と、らぬ感情。彼女の涙が、応急処置をしたはずの傷にみてジワジワと痛みを増していった。

 彼女はきっと熱しやすく、冷めやすい人だったのだろう。
 元カレに足りないものを俺が、俺に足りないものを元カレが、それぞれ補い合っていたのかもしれない。その均衡が崩れ始め、止めることも、修繕もできないまま崩れていった。その崩れを修繕できるのは、俺ではなく、きっと元カレで、元カレがいる状態でないと俺とは成り立たなかったんだと思う。
 振り返ってみれば、彼女は俺のために悩み、俺のために考え、俺のために行動してくれていた。“迷惑をかけたくない”そんな俺を支えてくれていた。それなのに俺は、彼女のために何もしてこなかった。『相手に合わせる』という役割の果て、俺は、ただ支えられるだけの自分になっていたんだ――。
 こんな俺なんて――。  

 以前、彼女は言った。

“あのとき、この人なら安心して一緒にいられるかなって思ってん”

 俺があんな浅はかなことをしなければ、俺に期待することもなかったんだ。俺があんなことしたから――。
 俺があんなことしなければその涙も――。
 こんな俺なんて――。

「まだ別れたくない」
「もう少し時間ちょうだい」

 それでも

 望み薄と分かっていても

 俺は必死に抵抗した

 だって――。


 出会って5ヶ月、付き合って3ヶ月、たったそれだけの月日だが、俺にとって人生の大きな分岐点だった。その分岐点には君がいた。そして、その分岐点の道筋をつくったのは君だった。
 君が勧めてくれたから、君が引き留めたから、君がいたから、俺は理学療法士を目指すことを、そしてこっちに残ることを決めた。別れるなら、理学療法士になる意味も、こっちに残る意味もない。

 俺はまだ進学先に決めた専門学校に願書を出していなかった。

 俺はどうすればいい――。


   *  *  *


 ――Kちゃんと別れて1年が経った。

 俺は理学療法士の資格を取るために、夜間の専門学校に通っていた。勤労学生というやつだ。

 そんなある日、LINEが届く。
《090―××××―×××× 電話番号変わりました。登録お願いします》
《久しぶり! 元気してる?》
《いま、どうしてんの?》
 元カノ・Kちゃんからだった。
 別れて以降、連絡を取り合ったことはなかった。当然、俺の近況についても知らないまま。俺はいま理学療法士になるために、夜間の専門学校に通っていることを伝えた。

《今度近くのホテルに泊まる予定があるんやけど、ご飯行かへん?》

 ――およそ1年ぶりにKちゃんと再会した。

「久しぶり」
 ロングヘアーだったKちゃんは、髪をバッサリ切りショートボブになっていた。一瞬分からなかったが髪型以外変わりのない姿を見て、すぐに記憶の中のKちゃんと合致した。不思議と恋愛感情らしきものは湧かなかった。1年前はあんなに必死だったのになぁ、恋の魔法にかかってただけやったんかなぁ、なんて思ったり。
「この辺で美味しい店知ってる?」
「いや、知らん」
「相変わらずだのぉ」
 俺は四国の田舎から大阪に出てきたけど、都会ならではの美味しい店とか、オシャレな店に興味がない。Kちゃんと付き合っていたとき「せっかく大阪住んでるのにもっと興味持ちぃや、もったいない」そんなことを口すっぱく言われていたのを思い出した。懐かしい。
 テキトーにその辺の居酒屋に入り、カウンター席でお互いビールとテキトーにアテを注文した。
 聞くところによると、Kちゃんは何やらゴタゴタがあったようで、スマホを一度解約したらしい。新たにスマホを契約をしたことで、今回の電話番号変更のLINEが送られてきたようだった。
 俺はひとつ暴露してみたいことがあった。
「そういえばさぁ、付き合ってたとき求人リスト送ってくれたときあったやん? あのとき、転職活動してるって俺言ったけど、ほんとは全然してなかったんよ」
「そんなん分かってたわ」
「えっ……」
 俺は目を丸くして黙りこくった。まさに何も言えねぇ状態。この人にはかないませんわ。

「まだはっきりと決まってないんやけど、関東に引っ越そうかなって思ってんねん。関東に友達もおってな」
 関東の友達ねぇ……。以前、Kちゃんの口から「関東」というワードを聞いたのは一度だけ。わざわざ引っ越しまでするなんて、まぁきっと……思うところはあったが口には出さず飲み込んだ。
「学校はどう?」
「まぁ大変っちゃ大変やけど、充実してるわ」
「そっか」
 Kちゃんは口を結び、眉間にシワを寄せてビールの入ったグラスを見つめている。
「責任感じてたりする?」
「うん。アタシがこっちに引き留めたし、アタシが理学療法士勧めたから」
 そう言うKちゃんの表情は変わらないまま。
「まぁ確かに、Kちゃんが勧めてくれんかったら理学療法士目指してなかったやろね。でも、理学療法士になるって決めたのは自分のためやから。Kちゃんはキッカケをつくってくれただけよ。キッカケつくってくれて感謝してる」
「でも、地元に帰るって選択もあったのに、そっちのほうが良かったかもしれへん……」
「いま、理学療法士になるって目標ができて充実感感じてるよ。もし、理学療法士になること勧めてくれてなかったら今もダラダラ生きてたと思うし、地元に帰っても目標もなくダラダラ生きてただけやったと思うわ。それに、“これで良かった”って思える人生にするわ」
 そう言うと、Kちゃんはふぅ〜と息を吐きながら肩を下ろし、ほがらかな笑顔を見せた。
「アタシもまだこっちにおるから関東行くまでにまたご飯いこ」
 Kちゃんはそう言ってくれた。

 気にかけてくれていること、また会ってくれること、素直に嬉しかった。
 そして、責任を感じていたKちゃん。Kちゃんが責任を感じる必要はないけど、逆の立場なら俺も責任を感じていたと思う。

 無事に理学療法士になれたとき、報告と、改めて感謝を伝えようと心に誓った。


 ――しかし、ふたりが再び会うことはなかった。


   *  *  *

 ノートパソコンを買った。
 授業や実習でレポートの作成が必要なためパソコンは必須だった。自分でパソコンを買うのは初めてだった。俺は機械類に弱い。自分の持ち物をどう扱い、どうなろうが人に迷惑はかけないので、とりあえず触りながら覚えようとするタイプの俺。
 とりあえず、あれこれパソコンを触っているとパソコンでもLINEができることを知った。わざわざパソコンでLINEをすることなんてないけど、なんとなくLINEをインストールし、スマホの電話番号とパスワードを入力して新規登録・新規アカウントを作成した。

「えっ……!?」

 俺は分かっていなかった。

 パソコンで新規登録したLINE。すると、スマホのLINEがパソコン側と同期されてしまい、友達リストやトーク履歴などのすべてが初期化され消え去った……。
 いろいろと触ってみたが、どうにもならなかった。

 ――やってもうた……。

 無知で不用意な俺のミスだった。そして、重大なことに気づく。

 ――Kちゃん。

 Kちゃんとの出会いはチャットアプリ、共通の知り合いはいない。
 少し前に電話番号が変わったとLINEが届いていたが、俺はその電話番号を登録するのを忘れていた。既存の電話番号に電話を掛けてみたが、『お掛けになった電話番号は――』もちろん繋がらない。
 メルアドは知らない。SNSをやっていた印象はなかった。各SNSで検索してみたがやっぱり見つからなかった。

 Kちゃんとの連絡手段は完全に途絶えた。まさかこんなかたちで――。

 一生の不覚。

 もしや、いつの日かKちゃんから電話が掛かってくるのでは……と、淡い期待を抱いたが掛かってくることはなかった。そもそも俺の電話番号を登録しているかも定かではない。スマホを一度解約したと言っていたし、別れてから消されていても不思議ではない。それに、突然LINEで連絡が取れなくなったのだから、「絶縁された」と思われても不思議ではない。

 もう連絡することはできない。
 奇跡的なことが起きない限り会えることもない。
 ドラマや漫画ならば奇跡的に再会を果たすなんていう展開になるんだろうけど。――そんな奇跡は今日まで起きず。

 元カノ・Kちゃん
 俺の人生の道筋をつくってくれた人
 俺の人生を変えてくれた人
 無事に理学療法士になれたとき、感謝を伝えようと心に誓った人との別れ――


『 元気ですか?
     俺はなんだかんだ元気でやってます。

     いきなり連絡とれなくなってごめん!
     俺の身に何かあったわけでも
     絶縁しようとしたわけでもなくて
     ただの俺のミスでした……。
     まぁ、俺らしいっちゃ俺らしいけど(笑)
     もし心配したならごめん!
     心配してなかったかもやけど。

     俺、無事に理学療法士になったわ。
     夜間で4年間、しんどいときや
     苦しいときもあったけど
     なんとか乗り切ったわ。
     そうそう! 付き合ってたとき、
     家計簿つけてくれたときあったやん?
     あのときに節約頑張らせてくれたおかげで
     節約すること覚えて、夜間通いながら
     なんとか節約やっていけたわ!
     節約できんかったらマジで
     生活ヤバかったと思うから
     通う前にあれやっといてほんまよかったわ。
     あのときの経験が活きました。ありがとう! 笑

     Kちゃんは、大したことしてないって
     思ってるかもしれんね。
     これまでのエッセイにも書いたように
  「人に迷惑をかけない」「迷惑をかけたくない」
     そればっかりを考えてた俺。
     俺がそんな心持ちでいることや
     過去のことを話したことはなかったけど
     Kちゃんと出会って以降
     俺の人生は大きく変わった気がする。

     あの頃は、こっちで仲いい友達って
     できんかったし、自分の悩みや考えを
     打ち明けられるような友達って
     ほぼいなかった。通った学校では
     たくさんの仲間や友達ができて
     自分の悩みや考えを打ち明けられるような
     親友もできたわ。
     青春って思えるぐらい濃い4年間でした。
     今でもその人たちと一緒に語り合ったり、
     酒飲んでバカやったり、おかげさまで今も
     楽しく過ごせています。

     Kちゃんと出会う前の俺は、
     自分の目標なんてなかった。そんな俺が
     自分の目標に向かって取り組むことができた。
     不安やったけど目標のために
     生活をルーティン化したり
     コツコツ勉強したり
     自分なりに頑張ることができた。
     その甲斐もあって、わりと成績もよかった。
     目標のために励めば、ここまで出来る自分に
     気づくことができた。

     正直、本当にやりたいことは
     まだ見つかってないなって気持ちもあるけど
     理学療法士を目指して
     理学療法士になって
     いろんな人たちと関わって
     いろんな経験ができて
     たくさんの気づきがあった。
     知らなかった自分に気づくこともできた。
     嬉しくて嬉しくて
     やりがいを感じることもあった。
     理学療法士になってみて
     よかったって思えてる。
     まだまだこの先どうなるか分からんけど
     この先もっと
 
      “あれがあって良かった”
      “これで良かった”

     そう思える人生にするわ。

     Kちゃんと出会ってなかったら、
     出会えなかった人たち、仲間、友達、親友。
     Kちゃんと出会ってなかったら、
     できなかった経験。
     それらは今も、これからも、俺の財産です。
     そんな『今』と『財産』を
     これからも大切にできる自分でいようと
     思います。

     もしも違う道だったら……なんていう
  「もしも」を言い出したらキリがないし、 
     俺にとっては今がすべてなわけで。
     あなたと出会い
     人生の分岐点だったあのときにあなたがいて
     あなたがつくってくれた道筋のおかげで
     今があります。

     ありがとう。

  「人に迷惑をかけない」「迷惑をかけたくない」
     そんな俺をKちゃんが支えてくれたように
     俺もそういった何かしらの苦悩を
     抱えている人たちの励みになれたら……
     なんて思ったり、思わなかったり。
     全員に……なんて、そんな大それたこと
     できるわけないので、できる範囲でね、
     人の励みになれたらなぁって思ったりします。

     Kちゃんはもう俺のこと忘れてるかもね
     思い出すこともないぐらいに。
     でも、もし少しでも思い出すことがあって
     責任を感じることがあるなら
     気にしなくて大丈夫です。
     感謝してます。

     ありがとう。

     これだけいろいろ言ってるけど
     未練があるとか、恋愛感情があるとか、
     そういうことじゃないよ(笑)
     まぁ思わんやろうけど(笑) 

     感謝を伝えれなかったことが
     ずっと心残りやってね。

     ありがとうございました。
     お元気で!                                        』


  ――いつか届きますように。


 今もスマホの電話帳には、Kちゃんの名前と、繋がることのない電話番号が登録されたまま残っている。LINEでの連絡が主である俺は、電話帳を触ることなんて滅多にない。残す必要もないけど、わざわざ消す必要もない。ただそれだけの理由。

 久しぶりに電話掛けてみようかな
 どうせ繋がらんけど――















       ありがとう。















       分岐点は俺のため





                   《完》

エッセイ

  作成中。不定期で更新。

〈目次〉
1.俺のプロローグ 〜迷惑をかけない〜
2.迷惑をかけないは迷惑をかけた
3.俺はそんなヤツじゃない①
4.部活の話 〜俺はキャプテン向いてない〜
5.上阪での失敗
6.今の自分は好きですか?
7.砕け散った好奇心
8.もしも俺が魚だったら
9.普通名詞の関係
10.何が迷惑になるか分からないから
11.初めての本気土下座
12.青鬼になろう
13.俺はそんなヤツじゃない②
14.教師にしばかれた話
15.初めての就職①  迷惑をかけないの力
16.初めての就職②  仕事を辞めれない俺が
                               店長になった
17.初めての就職③  スタッフからの手紙
18.初めての就職④  俺って
19.部活の話 〜悪い魔法使い〜
20.人類にラッコの本能を
21.失敗は成功の素(チャラ男風味)
22.勤労学生な生活①  不安
23.勤労学生な生活②  ルーティン
24.苦手は苦手でいい
25.勤労学生な生活③  4年間のあれこれ
26.やりがいを感じた話 〜残される側の悔い〜
27.分岐点は君がため①
28.分岐点は君がため②
29.分岐点は君がため③


 順番どおりに見てもらえると嬉しいです。

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