日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感①

先般(2019年101日)、消費税率が10%に引き上がりました。増税の主な目的は、社会保障財源の確保と財政再建ですが、日銀の異次元緩和で低金利が続く中で、財政赤字を容認する意見もあります。

このような状況の中、日経新聞の経済教室が「財政赤字拡大容認論を問う」という特集で、財政赤字容認の賛否につき、3つの論考を掲載しています。論考は以下で、①は財政赤字を容認、②・③は否定的な立場です。

① 財政赤字拡大容認論を問う(上)債務、コスト限定的で効果大 ピーターソン国際経済研究所 田代毅・客員研究員 オリビエ・ブランシャール・シニア・フェロー
② 財政赤字拡大容認論を問う(中) 超低金利下でも維持不可能 星岳雄・東京大学教授
③ 財政赤字拡大容認論を問う(下)既に債務危機と現状認識を 植田健一・東京大学准教授

順番に簡単なコメントをしたいと思います。

まず、最初は①で、実際の論考は以下になります。

論考①の執筆者のピーターソン国際経済研究所 田代毅・客員研究員は経産省の現役幹部(2019年10月時点のポストは、経済産業省 通商政策局 企画調査室長)ですが、①の論考のうち考察が甘いのは以下の記述部分で、この記述は間違いです。

日本政府は基礎的財政収支で2.5%近い赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる計算だ。現在の日本のように赤字が2.5%をやや上回る場合には、債務残高GDP比はいくらか上昇するが、爆発的に膨張することはない。

詳しい説明は省きますが、「債務残高GDP比」の動学方程式は以下に従います。

債務残高GDP比の変化 = 基礎的財政収支の赤字(対GDP)+(名目金利-名目成長率)×前期の債務残高GDP比      (1式)

この式のうち、「基礎的財政収支の赤字(対GDP)+名目金利×前期の債務残高GDP比」は「財政赤字(対GDP)」に等しく、「債務残高GDP比の変化」は「今期の債務残高GDP比-前期の債務残高GDP比」に等しくなります。このため、(1式)は以下に変形できます。

今期の債務残高GDP比 = 財政赤字(対GDP)+(1-名目成長率)×前期の債務残高GDP比      (2式)

さて、基礎的財政収支の赤字(対GDP)が2.5%のとき、ピーターソン国際経済研究所 田代毅・客員研究員の記述に関する妥当性を確認するため、極論ですが、未来永劫、名目金利がゼロとしましょう。

このとき、「財政赤字(対GDP)=基礎的財政収支の赤字(対GDP)+名目金利×前期の債務残高GDP比」なので、「財政赤字(対GDP)=2.5%」になります。また、名目成長率が一定のgとすると、(2式)は以下に変形できます。

今期の債務残高GDP比 - 2.5/g = (1-g)×(前期の債務残高GDP比 - 2.5/g)      (3式)

この式は、高校数学で習う数列で、「債務残高GDP比 - 2.5/g」に関する「等比数列」を表すものになっています。

いま、g>0のとき、債務残高GDP比は「 2.5/g」に収束しますが、名目成長率が0.5%で、g=0.05のとき、「 2.5/g=500」ですから、これは債務残高GDP比の収束値が500%になることを意味します(注:1995年度から2018年度までの名目GDP成長率の平均は年率0.39%しかない状況です)。つまり、ピーターソン国際経済研究所 田代毅・客員研究員(経済産業省通商政策局企画調査室長)の記述は完全な間違いなのです。

なお、理系ならば直ぐに分かるはずですが、名目成長率がマイナスで、g<0のとき、(3式)の数列の収束値は発散しますから、債務残高GDP比の収束値は無限大になります。

画像2

<続き>

日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感②

日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感③

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