見出し画像

コミュニティを訪ねる旅 / 新米猟師兼ライター 畠山千春 reasons why we travel


誰かと一緒に行く旅が好きだ。

学生の頃は一人であちこち飛び回り、自分は身軽な一人旅が好きなんだと思っていた。けれど、美味しい食べものや美しい景色と出会った喜びを誰かと分かち合えないことが寂しかった。私は、本当は誰かと旅をするのが好きなんだ。そう気がついた。

だから今は、もっぱら夫との二人旅。美味しい食べものを求めて、面白いコミュニティを作る人たちを求めて、国内外問わず旅を重ねている。

私たち夫婦は、福岡県糸島市で「食べもの・お金・エネルギーをつくる」というコンセプトの「いとしまシェアハウス」を運営している。田んぼや畑をやっているので、長期に渡って家を空けるのは難しい。でも、新鮮な水や適度な風通しが稲を大きく育てるように、この家を豊かな場所にするためには新しい出会いや刺激が欠かせない。田んぼだってコミュニティだって、変化がなければ空気や水が澱んで弱くなるものだ。

そこで、田植えの後の少しだけ手の空くタイミングを狙って、弾丸の旅に出かける。

旅先での出会いや発見を分かち合うことは、夫婦の未来を考えるには絶好のチャンスだ。一人で旅をして帰ってから旅で見たものの話をするのでは全然足りない。現場の体験をリアルタイムで共有するところに意味がある。だから、面白そうな予感がする旅には、できる限り二人で出かけるようにしている。

素晴らしい旅から帰ると、そのインスピレーションで暮らしも自然にパワーアップする。旅は、私たちのエネルギー源なのだ。

今年の春は、シェアメイトたちも加わってみんなで旅をした。私たちがいいなと思う暮らしの形を仲間たちとシェアするのが目的だった。

中部地方からスタートして福岡へ向かうというルートで、コミュニティづくりをする仲間を各地で訪ねた。

鳥取の浜村温泉では、理容室とスナックを改修して作った「喫茶ミラクル」へ。ここは、改修物件に住み込んで毎日パーティーをしながら空き家改修をする「パーリー建築」というチームの宮原翔太郎くんたちが運営している。「パーティーをすれば食べものが集まるから食いっぱぐれない!」というのが彼の考え方なのだが、最高にぶっ飛んでいて楽しい。

全国を飛び回る自由な彼から「ついに定住したよ!」と連絡が来たのがこの土地からだった。いったいどんな場所か気になっていた。訪ねた日、店では朝市が行われていて、溢れんばかりの人で賑わっていた。その光景に、数年でこれだけ濃密なコミュニティを作り上げていたのかと驚いた。

D.I.Y.イベントの企画や物々交換システムの導入などユニークな実験を繰り返し、今は地域の人たちが気軽に寄れるオープンな場所となっているみたいだ。すごい。彼のことは同志のように思っているので、頑張っている姿を見られて嬉しくなった。

そのあとは、同じく鳥取の智頭町で開かれているパン屋「タルマーリー」へ。この店を運営する渡邉格さん・麻里子さん夫妻は、福岡へ移住する前の暮らしの場だった千葉のいすみに暮らしていた頃のご近所さんだ。彼らはここへ移住し、野生の菌で醸したパン屋と野生酵母ビールも提供するカフェ運営している。お店も、古材を使って自分たちでリノベーションしたというこだわりっぷりだ。

格さんは空間に漂う野生の菌を呼び寄せてパンやビールを作る。既製の菌を使うパン作りと比べると、効率面でも利益率の面でもチャレンジングな手法だ。彼らはそれでも働き方・暮らし方ともに「発酵・循環」の信念を貫く、すごい夫婦なのだ。心から尊敬している。

格さん曰く、菌の状態は今の自分たちの心身の状態をそのまま表しているという。たとえば青カビが出たときは、人間関係がうまくいっていないときだと言う。実際に青カビが出たと思ったらスタッフが辞めてしまったこともあるそうで、それに気がついてからは菌を参考に職場の状態を把握したりするのだとか。まるで、お粥に生えたカビで1年の運勢を占う神事「お粥占い」みたいだけど、味噌や納豆などの発酵食品を家で作ると、作る人によって大きく味が変わること思うと、人の気持ちと菌が深くリンクしていると言われて不思議な納得感があった。その場の関係性が菌によって露わにされてしまうというのは少し怖い気もするけれど、菌の状態を見て暮らしや働き方を見つめ直したり、場を整える指標にする、という視点は新鮮で面白い。良い菌が集まる場は、人にとっても過ごしやすい場所なのだろう。また一つ、暮らしづくりのヒントが得られたような気がした。

旅から帰って来た今は、この旅での刺激をモチベーションに日々の暮らしを頑張っている。稲刈りが迫っているからしばらく旅は難しそうだけど、なにも場所を移動することだけが旅じゃない。我が家にはいろんな人が訪ねて来てくれるから、彼らと話をすることもまた新しい世界を知る旅のひとつのように感じる。

しばらくはこの“旅するような暮らし”を楽しみつつ、稲刈りがひと段落したらまた、旅に出たい。


【プロフィール】

畠山千春
新米猟師兼ライター
3.11をきっかけに「自分の暮らしを作る」活動をスタート。2011年から動物の解体を学び、鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得。現在は福岡県にて食べもの、お金、エネルギーを自分たちで作る「いとしまシェアハウス」を運営。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。TEDxTokyoyz、TEDxKagoshimaにて登壇。

ブログ:ちはるの森  
twitter: @chiharuh 
instagram: @chiharuh 
いとしまシェアハウス
著書:『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎) 
瀬戸内への旅の玄関口
福山駅前のまちやど「AREA INN FUSHIMICHO FUKUYAMA CASTLE SIDE」
公式Webサイト
Facebook
Instagram
住所:伏見町4-33 FUJIMOTO BLDG. 1F(RECEPTION)

AREA INN FUSHIMICHOは、まち全体をひとつの「宿」と見立てた「まちやど」です。泊まる、食べる、くつろぐ、学ぶ、遊ぶ、さまざまな要素がまちのなかに散りばめられています。チェックインを済ませたら、伏見町、そして福山のまちから瀬戸内への旅へ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?