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AIとメディカルサイエンスで更年期女性を支える。YStoryが目指す世界とは

2023年1月に創業した株式会社YStoryは、最先端のAIテクノロジーとメディカルサイエンスの活用を通じて、女性の更年期症状に対するデジタルヘルス分野での研究開発と医学的エビデンスに基づく事業展開を行っています。
今回、共同創業者であるJanet YuさんとSherry Shiさんに起業の経緯から更年期症状をとりまく社会環境などのお話を伺いました。

<プロフィール>
株式会社YStory Co-Founder & 代表取締役社長
Janet Yu
京都大学MBA卒業。戦略コンサルティングファームArthur D Littleヘルスケアチームにて、経営コンサルタントとして国内外の製薬・MedTech・消費財など企業に対して経営戦略、新規事業、デジタル戦略、BDDなど全般を支援。以前には、IBM Advanced Analytics Center of Competencyチームでデータサイエンティストとして保険など業界でデータマイニング、機械学習、アルゴリズム開発、アプリ開発等も行う。2023年株式会社YStory設立。

株式会社YStory Co-Founder
Sherry Shi
南洋理工大学(シンガポール)応用数学博士、戦略コンサルティングファームRoland Bergerにて、プリンシパルとして海外市場戦略、新規事業開発のグローバル案件に従事。2023年株式会社YStory設立。

女性の更年期症状にまつわる研究は世界的にもまだ少ない

──YStoryの事業について教えてください。

Janet:2023年1月に創業し、現在2つの事業を行っています。1つ目は更年期のセルフケアアプリ「JoyHer」の運用・開発、2つ目は京都大学と共同で取り組んでいるデジタル治療(以下、DTx)の開発です。

2023年4月にDEEPCOREなどからシード資金を調達し、その後7月に「JoyHer」のiOS版をリリースしました。12月にはAndroid版もリリースし、現在、アプリダウンロード数は3万人に達しています。DTx事業では、新しい治療法としての効果や安全性を確認するための臨床試験を昨年10月から京都大学大学院医学研究科と開始しました。

──どのような経緯で起業に至ったのでしょうか?

Sherry:この領域に注目した最初のきっかけは、コンサルティング会社に勤めていた時、ストレスで眠れなくなって生理も止まり、30代半ばで早期更年期の可能性を指摘されたことです。結果的に問題なかったのですが、当時は誰に話せばいいのかわからず、孤独を感じていました。その後、女性向けのサプリや商品に携わる中で、更年期の悩みを解決したいと思うようになりクライアントに提案しましたが、「本当に市場があるのか?」と懐疑的な意見があり、実現しませんでした。
こうした経験から、自分たちのバックグラウンドを活かして、個々にパーソナライズされたプランを提供することで更年期の女性を取り巻く課題を解決したいと考え、起業を決意したのです。

──「JoyHer」は日本で初めての更年期セルフケアアプリですが、更年期の女性を取り巻く社会にはどのような課題がありますか?

Sherry:更年期の症状はPMSや不妊治療と比べてもわかりにくく、複雑です。一般的な解決策がないため、多くの女性が試行錯誤を繰り返しています。婦人科でも更年期を専門的に扱えるクリニックは全体の20〜30%程度しかなく、他の病気の可能性も含めて診断する必要があり、正確な診断に時間がかかります。そのため、多くの女性が診断途中で諦めてしまっているのが現状です。

Janet:自分の症状が更年期によるものかどうか判断できず、他人にも言えない状態に陥りやすいのです。それに加え、更年期のステージに入ると仕事や家庭での責任を抱えながら、自身の健康問題に直面します。ユーザーインタビューからも、管理職をしながら身体の不調と闘っている女性や、子どもの学校行事に参加するときに不調が出て自分を責めてしまう女性の話を聞きました。40代から50代にかけて、こうした課題が仕事や子育てに影響を及ぼすことが多いと感じています。

──その上で、事業としての難しさはどういったところにありますか?

Janet:更年期に関する医学的な研究が少ないため、未開拓な部分が多く、研究開発を自ら進める必要があります。国際論文のデータベースを見ても、更年期に関する研究は少なく、創薬も他の疾患領域に比べて進んでいないと感じています。また、社会的にも更年期の症状が大きな問題とされていない状況です。だからこそ、チャレンジする価値がありますね。

AIテクノロジーとメディカルサイエンスの融合。確かなニーズを感じる実績も

──「JoyHer」ではどのようにAIテクノロジーとメディカルサイエンスを組み合わせて、更年期女性の抱える課題を解決しているのでしょうか?

Janet:「JoyHer」では、AIテクノロジーとメディカルサイエンスを組み合わせることで、個々のユーザーにパーソナライズされたヘルスケアを提供しています。具体的には、3万人のユーザーの症状や改善方法のデータを収集し、それをアルゴリズムに変換してAIがパーソナライズします。アプリ内には日々の症状管理機能があり、ユーザーが自分の症状を入力すると、国際論文からテキスト解析を行い、京都大学の先生の監修の下、有効性の高いヘルスケアプログラムを提案してくれます。
また、情報交換や体験談の共有を行えるコミュニティ機能も人気ですし、自分の症状を詳細に記録したものを医師に見せることで、疾患の早期発見に繋がったケースもあります。

──ユーザーの反応はいかがでしょうか?

Janet:アプリ内で求められる症状の入力の項目が多いため、離脱者も多いのではと思っていましたが、実際にはアクティブ率が高く、自由入力のメモ機能にもニーズがあることがわかりました。毎月実施しているユーザーインタビューからも、この領域での自己管理や症状の記録に対するハードルは低いと感じています。

臨床試験では対象者の方に6ヶ月間アプリを使用してもらったのですが、脱落した人はほとんどおらず、継続率は99%と非常に良い結果でした。UIデザインや記録項目はユーザーに合わせて都度最適化しているのも、高いリテンション率を維持している要因だと思います。

ローンチする前は1年でユーザー数は2,000人くらいだと想定していましたが、実際に1年経過したいま、ダウンロード数は3万を超えました。この市場には確実にニーズがあることを証明できたと思います。まだ改善の余地があるので、さらに高いレベルでサービスを展開したいと思っています。

──昨年6月にDEEPCOREからのシード調達を実施されています。DEEPCOREとの出会いのきっかけや、事業展開に役立った印象的なエピソードがあれば教えてください。

Janet:DEEPCOREとの出会いはコールドメールで、最初にキャピタリストの三宅さんと面談を行いました。投資準備についてわからない私たちを丁寧にサポートしてくれました。その後、2〜3ヶ月間定期的に話を続けて出資が決まりました。
2022年にはDEEPCORE主催のアクセラレータープログラム「KERNEL Global Startup Camp」にも参加しています。プログラムの中でアプリの成長に必要なKPI設定など細かい部分までアドバイスを受けたほか、グローバルな投資家の視点を聞くことができ、事業の進展にも大きく役立ちました。

三宅さんは投資家であり、メンターでもあり、友達のような存在です。私たちのやりたいことに共感してくれた上で、建設的なアドバイスをもらえるのでとても信頼しています。

「女性を支える」を一番の軸に。身体から心までサポートできるアプリを目指す。

──「JoyHer」を通じて社会に起こしたい変化はなんでしょうか?

Janet:女性が40代、50代になっても自信を持って仕事を続け、家族を支えられる社会を作っていきたいです。女性は誰かの娘から始まり、誰かの恋人、誰かの妻、と社会の中で女性としての役割を期待されやすく、40〜50代でようやく自分のステージに立てる側面があります。しかし、そこで更年期が来てしまうとそのステージに立てなくなってしまう。そんな女性たちをサポートできる社会を私たちは目指しています。

Sherry:ヘルスリテラシーを高め、誰もが通る道である更年期を恥ずかしいことだと思わず、共に乗り越えようというポジティブな世界を作りたいです。男性側にも更年期の理解促進が進むことで「更年期は怖くない、大丈夫」と、堂々と更年期を迎える準備ができる世界にしたいですね。

──最後に今後の事業の目標を教えてください。

Janet:DTx事業の研究開発ではよい結果が出てきていますので、引き続きエビデンスの高さを継続していきたいですね。

ユーザー基盤も拡大しているので、より良いアプリにブラッシュアップし、日本だけでなく他のアジア地域やアメリカへの展開も考えています。将来的にはユニコーン企業に成長することが目標です。

Sherry:更年期の悩みは多くの女性に共通しています。身体的なサポートはもちろん、心の中の孤独感までもサポートし、更年期を一緒に乗り越えられるお友達のような存在になりたいです。誰かを支えるという些細な夢から始まった取り組みを、大きな事業にしていくことを目指しています。

──ありがとうございました!

■会社概要
会社名:株式会社YStory
設立:2023年1月
コーポレートサイト:https://www.ystoryfemtech.com/


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