出来上がったわ。
母から電話がきた。
「出来がったわ。たった今ね。」
陶芸作家である母と、会えない日々が続いていた。
秋の展覧会に向け、根を詰めている様子だった。
アイデアが浮かばないと気弱な時もあった。
そんな姿を感じる時にはこう言ってきた。
「今回の作品に、どんな思いを込めたいのかな?」
「これまでも、完成させてきたから大丈夫。」
「気に入ってる部分を教えて欲しいな。」
絶対に信じている。
母は、動きのあるとても魅力的な波を
作品の上に描く。
2019年に制作した陶器は、いま我が家のリビングに
静かに飾られている。
それを見ていると
潮の香りがしてくる気がする。
産みの苦しみ。。
創作活動には、
どうしても立ち止まってしまって進めない時もあるからね。
完成した時に電話をくれたことが、何よりも嬉しい。
これでOKと区切りをつける、潔い瞬間を一緒に感じる。
なんて気持ちのいいことなのかと思う。
目の前にいたらはぐ!したい。
嬉しいことを一緒にお祝いした相手には、
特別な信頼感が湧いて
次に、例えば困った時とかに
相談したくなるリストの上位に入れるらしい。
そしてタイミングよく
母の元にシャインマスカットが届いた。
私がいつも行く八百屋さんに頼み込んで、
市場で質のいいものが出た時に仕入れてもらい、送るようにした。
完成の日に届いたのは、本当に偶然。
でも、もしかしたら必然だったのかもしれない。
出来上がった大壺を眺めながら、
パクパクっとほうばる母の姿を想像してみる。
よかった、送っておいて。
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