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デレラの読書録:伊藤亜紗『体はゆく』

『体はゆく』
伊藤亜紗,2022年,文藝春秋


美学者・伊藤亜紗と科学者たちの対話をまとめたテクノロジーと身体の関係を解きほぐすエッセイ。

体はゆく、テクノロジーとゆく。でも、どこへ? 

わたしなりに換言すれば、ゆき先は「できる」と「できない」の彼岸。

それを様々な実験と言葉で表現する本作。

「できる」と「できない」の二項対立、あるいは能力主義的な価値判断とは別の仕方で考える。

二項対立の向こう側、「できる」と「できない」の彼岸は、本文中では、様々なキーワードで語られる。

「グレーゾーン」
「探索」
「変動の中の再現性」
「暗黙知」
「フレームの外」
「現象の背後にあるからくり」

その彼岸は、わたしたちの意識の外側にある。

その領域にテクノロジーは介入し、わたしたちの意識できない「体性感覚のイメージ」を可視化する。

ピアニストの手の動きを再現するエクソスケルトン、目にも止まらぬ速さを撮るハイスピードカメラ、見えないものを合成する画像処理、脳波を計測するHMD。

わたしたちは「できる」と「できない」の領域を横断する。

そのとき「できるから良い」「できないから悪い」を飛び越えて、善悪の彼岸に立っている。

彼岸から持ち帰った意識を超えた体性感覚のイメージが、体を通じてわたしの意識の中に流入するとき、初めてわたしたちは「できる」を体感する。

テクノロジーはそれを高度に可視化する。

おそらくそれに比べれば小さなレベルではあるが、きっとわたしたちの生活のなかにも彼岸に行くチャンスは転がっているだろう。

彼岸はすぐ近くにある。身体を動かす、さすれば体はゆく、意識を置き去って、意識の、善悪の、できるとできないの彼岸へ。

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