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ステーブルコイン市場の現在地──2025年はさらなる本格化の年へ

前回の記事では、2025年の注目テーマの一つとして「クリプト×AIエージェント」の可能性を考察しました。AIエージェントが自らウォレットを持ち、トークンを用いて購買や取引を行うーーそんな未来は、AIとweb3が進化する中で着実に現実味を帯びていくでしょう。しかし、一般社会から見れば、まだまだ遠い先の話に思えるかもしれません。

そこで今回は、より現実的な視点に立ち返り、クリプトの決済インフラとして機能する「ステーブルコイン」の現状を洞察します。AIエージェントが現実の経済圏とつながり、取引を成立させるためには、ステーブルコイン決済の普及が不可欠です。

ステーブルコイン市場は相場上昇とともに拡大

図1:暗号資産市場全体とステーブルコインの時価総額推移

まず、ステーブルコイン市場の動向を概観します。2024年、ビットコインは節目となる10万ドル(約1,500万円)を突破し、暗号資産市場全体の時価総額は3兆ドル(約450兆円)を突破しました。その背後では、ステーブルコインの発行が急増し、全体の時価総額は2,000億ドル(約30兆円)を超えて過去最高水準に達しました(図1)。

日本ではステーブルコインが依然として本格流通していないため、法定通貨建ての暗号資産取引が主流ですが、海外ではステーブルコインを基軸とした取引が広く定着しています。特に、テザー社が発行するUSDTは、取引ボリュームでビットコインを凌駕し、分散型金融(DeFi)においても流動性の中核を担っています。

こうした市場環境のもと、相場の上昇局面では、取引高の増加とともに決済通貨としてのステーブルコイン需要が急拡大します。特に、大口のOTC取引に加え、レバレッジ取引やアービトラージを目的とした高速取引もステーブルコインを介して活発化します。また、これらの需要に対応するため、取引所はマーケットメイカーや発行体を通じたステーブルコインの調達を強化し、市場の流動性を維持します。

図2:ステーブルコインドミナンスとBTC価格の推移

さらに、強気相場では、投資家がステーブルコインをビットコインやアルトコインの購入に充てるため、市場全体に占めるステーブルコインの時価総額割合(ドミナンス)は低下する傾向があります。実際、2024年のQ1とQ4には、ステーブルコインドミナンスが5%付近まで低下し、ビットコインの大幅な上昇と一致しました。(図2)。

図3:BTC【オレンジ】とUSDT【緑】の取引所残高の推移(Glassnode)

これに関連して、ビットコインが急騰した2024年11月以降、取引所のステーブルコイン残高が増加する一方で、ビットコイン残高は減少傾向にあります(図3)。この動きは、ステーブルコインの発行増加に伴い、取引所へ新規資金が流入し、ビットコインの買い圧力が高まっていることを示唆しています。特に、機関投資家がビットコインを取得した後、資産を取引所から外部のカストディへ移動している可能性が高く、長期保有の姿勢が強まっていることがうかがえます。

このように、ステーブルコインは暗号資産市場における決済手段であると同時に、金融市場のマネーサプライに類似する指標として、市場動向の分析にも活用できます。今後、ステーブルコイン市場がさらに拡大すれば、暗号資産市場への資金流入が加速し、ビットコインやアルトコインの成長を一層後押しする可能性が高まるでしょう。

ステーブルコイン市場では新興勢力が台頭

図3:ステーブルコインの時価総額シェア(DeFiLlama)

ステーブルコイン市場は、その99%が米ドル建てで構成されており、なかでも先述のUSDT(テザー)とサークル社が発行するUSDCが、時価総額の約9割を占めています。しかし、2024年以降、この市場に大きな変化が生じています。

特に、バイナンスのBUSD(Binance USD)が市場から撤退したことは、ステーブルコイン市場の再編を加速させる要因となりました。BUSDはかつてUSDT、USDCに次ぐシェアを誇っていましたが、米国規制当局の介入により新規発行が停止され、2024年初頭には市場から完全に姿を消しました。

この空白を埋める形で、既存のUSDT・USDCの支配力が強まる一方、新興のステーブルコインが次々と登場し、従来のモデルにはない独自の仕組みを採用することで、市場から大きな注目を集めています。以下では、特に注目すべきステーブルコインプロジェクトについて紹介します。

DAI (MakerDAO→Sky)

Skyホームページ

DAIは、DeFiにおける代表的なステーブルコイン(USD)であり、長年にわたり一定の市場シェアを維持しています。イーサリアム上のスマートコントラクトによって運用され、暗号資産を担保とする分散型の仕組みに基づき発行される点が特徴です。しかし、2024年以降、USDTとUSDCの寡占化が進む中で、DAIの市場シェアは相対的に低下し、第3のステーブルコインとしての地位が揺らぎつつあります。一方で、競争力強化のためにレンディングプロトコル「Spark Protocol」の導入や、「Sky」へのリブランディング など、コミュニティ主導の取り組みが進められています。

FDUSD (First Digital)

First Digitalホームページ

FDUSDは、香港の規制下で発行されるステーブルコイン(USD)であり、法的な透明性と安定性を強みとしています。First Digitalが発行し、香港の信託会社が準備資産を管理する仕組みを採用している点が特徴です。2024年以降、バイナンスがFDUSDの取引ペアを積極的に推奨したことで、BUSD撤退後の主要な代替ステーブルコインとして急速に市場シェアを拡大しています。香港を拠点とすることから、アジア市場全体での採用が進む可能性があり、特に規制準拠を重視する投資家にとって有力な選択肢となることが期待されています。

USDe (Ethena)

Ethenaホームページ

USDeは、Ethenaが発行する利回り付きのステーブルコイン(USD)であり、デリバティブ市場を活用した独自の収益モデルを採用しています。具体的には、ビットコインやイーサリアムの無期限先物市場でデルタニュートラル戦略(※)を用い、ファンディングレートの差から利回りを獲得しています。2024年の発行以来、一時20%を超える高利回りの提供で市場シェアを急速に拡大しています。しかし、その収益構造はデリバティブ市場の資金調達率に依存しており、持続可能性が懸念されています。また、USDeは米ドルや米国債を担保資産として持たず、規制の枠組みが不透明である点もリスク要因の一つとされています。

※現物資産のロング(買い)とデリバティブのショート(売り)を組み合わせることで価格変動リスクを抑えながら利益を狙う投資手法

USDtb (Ethena)

USDtbホームページ

USDtbはUSDeと同じくEthenaが発行する利回り付きステーブルコインです。ブラックロックが提供するMMFトークン「BUIDL」を主な担保資産とすることで、USDeよりも安定性を重視した利回り設計となっています。BUIDLは主に短期の米国債や現金同等物に投資しており、これらの資産から生じる利息収入がUSDtbの利回りの源泉となっています。2024年12月に発行が開始されたものの、市場シェアの成長は限定的です。しかし、価値の安定した現実資産(RWA)トークンを裏付けとするステーブルコインとしての特性から、今後は同様の仕組みが市場に広がり、機関投資家を含む幅広い投資家層に受け入れられる可能性があります。

このように、新興のステーブルコインでは、利回り提供型の仕組みや、RWAトークンを裏付け資産とするモデルが新たに採用されています。また、2024年末にはリップル社が独自のステーブルコイン「RLUSD」を発行し、ステーブルコイン関連のスタートアップによる資金調達も活発化しています。2025年は、米国の規制整備が進む中で、さらに多くの企業やプロジェクトがステーブルコイン市場に参入することが期待されます。

ステーブルコイン市場では決済分野での実用化も進む

近年、ステーブルコインは投資やトレード用途にとどまらず、決済手段としての実需が拡大しています。特に、大手決済企業や金融機関が積極的に導入を進めており、消費者や企業の間での利用が現実のものとなりつつあります。

PayPalは、独自の米ドル連動ステーブルコイン「PayPal USD(PYUSD)」を発行し、個人間送金やオンライン決済の手段として統合しています。 米国のPayPalユーザーは、PYUSDを用いた支払いやウォレット間の送金が可能となり、暗号資産の利用範囲が広がっています。特に、従来のカード決済と比較して、即時決済が可能で、手数料を抑えられる点が特徴です。

また、ShopifyもUSDCを決済手段として導入し、オンラインストアにおけるステーブルコイン決済の普及を促進しています。 越境ECでは、銀行を経由した決済の手数料が高額になるケースが多く、ステーブルコインを活用することで、より低コストかつ迅速な取引が可能になります。これにより、オンライン事業者にとって新たな決済手段としての選択肢が広がっています。

企業間決済の分野では、VisaとMastercardがステーブルコインの活用を積極的に検討しています。 Visaは、USDCを用いたクロスボーダー決済の実証実験を実施し、加盟店向けの支払いオプションとしての可能性を探っています。 また、Mastercardも、JPモルガンと提携し、24時間365日リアルタイムでのB2B決済の実現に向けた取り組みを加速しています。

このように、ステーブルコインの決済分野での実用化は着実に進展しており、2025年には個人消費から法人決済まで、さらに広範な領域での普及が期待されます。 投資の面では、暗号資産が「デジタル資産」として金融市場に受け入れられつつありますが、決済の面でもステーブルコインの活用が拡大し、従来の銀行システムと並ぶ新たな決済インフラとして発展していく可能性があります。

さいごに:日本のステーブルコイン市場

最後に、日本のステーブルコイン市場について簡単に述べます。日本では、2023年6月に海外に先駆けてステーブルコイン規制が施行され、銀行・信託会社・資金移動業者にのみ発行を認める厳格な制度を採用しています。その後、2024年10月には、日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)がステーブルコインの自主規制団体として正式に認定され、国内での発行・流通に向けた環境が整いつつあります。

このような動きを受け、SBI VCトレードは2025年1-3月にUSDCの取扱いを開始する計画を発表し、早い時期に日本でもいよいよステーブルコインの取引がスタートする見込みです。それに伴い、メルペイやPayPayなど既存の決済サービスがUSDCに対応する動きや、USDCを活用した新規サービスが誕生することが期待されます。また、三菱UFJ信託銀行をはじめ複数の金融機関がステーブルコインの発行に向けた実証実験を進めており、日本円連動型ステーブルコインが新たに誕生する可能性もあります。

さて、Decentierは創業以来、クリプト経済圏とフィアット経済圏をつなぐ分野に注目し、ステーブルコインのトレンドを追い続けてきました。

2025年は、米国の暗号資産推進の流れがグローバルに波及し、日本においてもステーブルコインの本格的な台頭が期待される年となるでしょう。規制整備の進展とともに、金融インフラとの統合や実需を伴うユースケースの創出が進む中、企業にとってステーブルコインの活用は避けて通れないテーマとなりつつあります。具体的なプロジェクトの立ち上げや、デジタル資産時代の事業戦略を検討している企業の皆様は、ぜひDecentierへご相談ください。

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