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日本人の平均寿命は41歳になる!?

 ようこそ、もんどり堂へ。いい本、変本、貴重な本。本にもいろいろあるが、興味深い本は、どんなに時代を経ても、まるでもんどりうつように私たちの目の前に現れる。

 その昔、雑誌編集者をしていた頃、次に来る10年を先取りして「グッバイ○○年代」みたいな特集を企画したことがあった。つまりこれから始まる10年をあたかも「終わってしまった時代」であるかのように懐かしく振り返ってみせたのだ。このような「時制の遊び」は出版人の好きなもののひとつなのだが、おもしろい反面、はずしたら目も当てられない危険な「遊び」だ。

 私が入手した本はこれだ。『十年後 これから何が起きるのか』(グループST著、光文社、入手価格105円)。かなり売れた本である。シリーズ化され、ビジネス編、21世紀編など、多岐に渡って十年後の未来が予想された。

 本書の発行は1983(昭和58)年である。十年後を文字通りに捉えると1993年になる。翌々年の阪神大震災や地下鉄サリン事件を予想できなかったことに罪はないが、2014年現在、意地悪くその当否を検証してみる。

 総じて見るとこの「予測」はまあまあ。インターネットやスマホなど、因子としても生まれていなかったような発想の転換や技術革新が加味されてはいないので、未来像としてはやはりかなり外している(現状のほうが過激!)が、「結婚しない男女が激増する」「嫌ポルノ権が叫ばれる」「短命政権が日本経済の足をひっぱる」「下町の高層化が進む」など、社会問題などに関しては、わりあいよく分析予測されているといえる。

 もちろん、「広告情報が有料になる」とか「プロ野球は低所得者の見るスポーツに」などのちょっとビミョーな項目もあるが、十年先という近未来を見通してみせるワクワク感と項目のバリエーションを大きな「おもしろさ」と捉えれば、この本は十分に成功の名に値する企画だといえよう。

 もうひとつ手にした本、『41歳寿命説』(西丸震哉著、情報センター、入手価格315円)。1990年に発行。このご長寿花盛り時代の日本人の平均寿命をタイトルのように予想してみるといういろんな意味で恐ろしい本だ。著者の分析によると日本人を取り巻く環境は昭和34年(1959)を境に変化し、あたかも「短命の村」のような環境下に置かれているのだという。「毒物摂取」「タンパク質信仰」「突然死」などの危険因子や日本社会に根付く社会構造に言及しながら、長寿社会に静かに警鐘を鳴らしている。

 2014年現在の平均寿命は83歳。今を生き抜いている我々には、たしかにこの本を失笑する資格はあるのかもしれない。ただ、この筆者から示された仮説は、(正確に記すと)「昭和34(1959)年以降に生まれた日本人だけで構成される社会になったとき、日本人の平均寿命は41歳になる」というものだ。その答えはまだ出ていない。

(2014年、夕刊フジ紙上に連載)

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