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(第18回)原監督と潮来笠、粋でいなせな若大将



 今年の日本シリーズはソフトバンクの圧勝で終わった。無念そうなジャイアンツ・原辰徳監督の顔がテレビに写った。私はなぜかこの人の顔を見ると、脳内にある音楽が流れる。『潮来笠』である。

 原監督のあの「グータッチ」のポーズと表情が実に粋でいなせな潮来笠。原監督と橋幸夫さんは世代も違い、見た目が似ているかどうかは個人の感じ方なので、強制はしないが、私のなかでは実に見事な脳内コラボとして存在する。

 最初に断っておくが、橋幸夫さんに関しての私のイメージはかなりの偏見である。なぜなら、橋さんがデビュー曲『潮来笠』を引っさげて登場したのは、私の生まれる3年前、1960年のことである。

 だから、最初の「鮮烈」を知らない。そして、物心がつき始めたあたりで「しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん」。『子連れ狼』(1971年発売)のテーマである。

 いつのまにか彼の存在は、歌番組に出まくる現役の歌手というより、かつて栄光をほしいままにしたが、いまや悠々自適に懐メロ番組で持ち歌を唸る大物歌手という位置づけになっていた。

 さらに80年代は、紅白歌合戦などでもあまりお見かけすることがなく、ものすごく偉いのだけど、あまりテレビでは見ない人、そんなイメージで、しまいにはコロッケのものまねネタ「腰の動きは松田聖子で歌い方が橋幸夫」なんていう飛び道具になり、なんだかよくわからないまま、ゲラゲラと笑っていたのであった。

 で、今回、『潮来笠』の歌碑を見に、私は茨城県潮来市に行ったのである。

 楽曲『潮来笠』に登場する「潮来の伊太郎」は実在の人物や歴史上の伝説などではなく、まったくの架空のキャラクターである。水郷で知られる潮来の地からイメージを膨らませた作詞家の佐伯孝夫氏が、粋でいなせな「潮来の伊太郎」というキャラクターを作り出し、物語風にして曲にした。

 すると、橋さんの若々しいスター性とも相まって、この歌は大ヒット。レコード大賞新人賞を受賞するなどブームはとどまるところを知らず、翌年には、潮来の伊太郎を主人公にした同名の映画まで公開された。

 私はてっきり伊太郎は、清水の次郎長や天草四郎のような、その土地で親しまれている歴史上のキャラだとばっかり思っていたが、くまモンやふなっしー的なゆるきゃらであったことに少なからず驚いたのであった。

 なかなか入手できず苦労したが、映画『潮来笠』を観てみた。主人公の伊太郎を橋さんがやっているのかと思ったら、これも意外、橋さんはちょい役で顔を出すものの、当時の二枚目俳優・小林勝彦氏が、「すがる恋風サラリと受けて、潮来の伊太郎旅がらす、女無用の喧嘩旅!」、さあ、もててもててどうしましょう、みたいな主人公を見事に演じている。

 はるか昔のモノクロームの股旅モノ。正直、おもしろくないだろうとなめていたが、水郷潮来の魅力を印象的に描き出す映像美に加え、シンプルで小気味のいい物語展開が気持ちよく、観ていてたのしい映画であった。

 さすがに現在の潮来市との関連は弱いが、背景にこんなたのしい歌や物語があれば、観光で訪れる潮来の景色もまた違って見えることだろう。

 潮来市も佳作ながら観光的になかなかがんばっていると思う。ただ、「水郷潮来あやめ祭り」など、季節が限定されてしまうので、シーズンオフは苦戦しているようにも見える。同じ近隣の水郷・佐原(ここも映画『潮来笠』に登場する)と併せて、まだまだ「魅力倍増」のポテンシャルがある。

 潮来に行けば、粋でいなせな元祖若大将・伊太郎に会えるのだ。

〜2021年1月発行『地域人』(大正大学出版会)に掲載したコラムを改訂

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毎年5月下旬〜6月下旬にあやめ祭りが行われる。


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水郷潮来あやめ園にある『潮来笠』歌碑。


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