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生きていたってしょうがないと言っていた人がいよいよ死にそうになった時に死にたくないと言うのはわがままなのか?

10年くらい前に特養で介護の仕事をしていた頃の話です。

下半身がまったく動かない入がいました。
歩けないので車椅子の生活でしたが、
自分で食事を食べたり、手紙を書いたりすることができる人でした。
いわゆる寝たきりの状態ではなくて、昼間は起きていました。
多少の認知機能の低下はありましたが、
日常会話は普通にできる人でした。

特養に入るまでいろいろなことがあったようで、
「俺なんか生きていたってしょうがない」
「いつ死んだって良い」
しょっちゅうそういうことを言う人でした。
特養に入る前、何回も自殺しようとしたことがあったそうです。

喧嘩っ早い性格で、まわりの入居者とトラブルになることはありましたが、
なんだかんだ元気に過ごしていました。

ある日、ふとしたことがきっかけで、
内臓がとても悪い状態だということが発覚しました。
いろいろな臓器が悪かったようですが、
特に肝臓の状態が悪く、肝硬変でもはや手遅れという状態でした。

その人は急激に衰えて行きました。
食事がほとんど食べられなくなりました。
身体中いろいろなところが痛くなり、
ちょっと起きるのもつらい状態になりました。
最終的に、ほとんどベッドで寝ている生活になりました。

手の施しようがなく、死ぬのを待つような状態になると、その人は
「死ぬのがこわい」「死にたくない」と言うようになりました。

毎日毎日痛そうでつらそうな状態だったので、
どうにかならないものかと、私は思っていました。

一方で、「生きていてもしょうがない」とか「早く死にたい」とか、
以前はそんなことを言っていたのに、今更何を言っているんだ、
そう思いました。

その人は間もなく病院へ移り、亡くなりました。

当時の私は、あんなに「死にたい」と言っていたのに、
自殺もしようとしていたのに、
いざ死にそうになったら「死にたくない」と言うなんて、
わがままな人だなと思っていました。

しかし、介護の仕事を続けて行くと、
それは珍しいことではないということが、だんだんわかってきました。
そのようなことを言う人たちは本当にわがままなのか?
と考えるようになりました。

重大な病気になったり認知機能が衰えてきたら、
積極的な治療はしないで死にたい。
死から遠い状態でそういうふうに意思表明するのは簡単です。
でも、実際に重大な病気になって、
自分にとって死がリアルなものになったとき、
それでも同じ意思を貫けるのか。
仮に、意思を貫けなかったとして、
果たしてそれは、わがままなことなのか。

いつもそういうことをもやもやと考えながら仕事をしています。

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