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企画が苦手な人のために企画の流れをまとめてみた

株式会社闇のトンカ(@tonka1981jp)と申します。
※株式会社闇っていうのはホラーを専門とした一風変わった制作会社です。知らなかったら話のネタに自社サイト訪問してください。

さて社内での私の役割として企画を担当することが多いです。
制作会社として企画を作るときによく思うのですが、
「企画を作る」って難しくないですか?
企画出せって簡単に言うけどさぁ。簡単に言うけどさぁ。

企画って、ジャンルを横断した知識やノウハウが必要なくせに学校でも作り方を習った記憶がないんですよ。

なので経験が浅い頃は、先輩の猿真似をしながら騙し騙しやってました。
当時は、企画を考える筋道がなかったので今よりも遥かに大変だったわけです。
ある時、これではやってられないとちゃんと勉強した時期があったんですね。勉強の成果を自分の中で法則化したおかげで、企画を考える内容が多少はマシになりました。
今でも難しいけど。今でも難しいけど。

で、当時の経験が浅い頃の私に、こんなコトを伝えたら喜ぶかな、という内容をまとめました。他の誰かにも役に立つかもしれませんし。

※企画の考え方って内容で書きはじめましたが、読み直したら大半はマーケティングの話になってしまった。

ここでいう企画とは「商品企画」とか「広告キャンペーン」とか「イベント企画」だったりします。以降はその企画全体をプロジェクトと呼びます。そのプロジェクトのサイズ感で、もちろん考え方は大きく変わるのですが、ここでは分かりやすいよう「夏のホラーイベントの内容を考える企画」程度のサイズ感と仮定して書きます。そして例えサイズ感が違っても考える順番は同じです。


1: まずは「目的」を考える

まず考える順番として一番最初にくるのが「プロジェクトの目的」を明確にすることです。

企画を出せと言われて
さっそくアイデアを考えようとした過去の私に「喝!」
まだだ!たぎる情熱を抑え、期が熟すのを待て!

まずプロジェクトの目的、目指すべきゴールの姿を考えます。
実は「プロジェクトのゴール」って人によってイメージが違うんですね。
ゴールには色んな姿があります。例えば…

・「話題になって会社の知名度をあげよう」
・「めちゃめちゃ儲けよう」
・「お客さんに少しでも満足してもらおう」
・「次に繋がる新しい挑戦をしよう」
…などなど。

なので、このプロジェクトで目指すべきゴールをしっかりと決めます。
「全部叶えるゴール!」って言いたいですよね。
完璧な作戦です。
不可能ってことに目を瞑ればよぉ。
なので「頑張ったら到達できる!」というラインを探ります。
ゴールが決まらないと「知名度を上げる目的の企画」と「儲かる目的の企画」の2つの別の企画ができたとしても、それぞれ目的が異なるわけですから、企画の良し悪しが比較できなくなります。
※イベントであれば「これぐらい動員したい」というのは絶対に含めたいゴールの姿になります。


2: 次はゴールを測るための数字目標を考える

つぎにそのゴールを評価できる数字目標に変換します。

・いっぱい人が来るといいな → 動員数
・儲かるといいな → 売上
・目立つといいな → メディア掲載数 / 広告換算費
・気に入ってほしいな → リピート率 / アンケートのポジティブ回答数
…などなど

こういった数字を改めて決めておくと、企画を考えるときにも
「こんな企画じゃ目標の数の人が来ないよ」と判断材料になったり
「複数メディアに取り上げてもらうために、こんな企画にしよう」と数字起点に具体的なアイデアを考えることができます。
※あとKGI・KPIの話は長くなるから、上部の検索窓に詳細は聞いてくれ。便利だぞ検索窓。

またこの数字目標は企画が終わったあとに答え合わせをすることができます。その答え合わせが、自分の狂った「絶対に行ける」という余剰な自信を1mmの温情もなく削り取ってくれます。
あと担当者の「リクープ…リクープ…まで…あと…〇〇万円…」って怨&念の声を聞いてよりいっそうホラーを味わうのも醍醐味です。


3: その次は、誰に向けて球を投げるか

次に考えるのはアイデア!ではありません。
おまえじゃねぇ すわってろ
まだです。そう、ターゲットです。

誰に球を投げるのか!
大事です。我々はしばしば、ユニークな球を投げたいがあまり、誰もいないところに球を投げてしまう習性があります。業と言ってもいいでしょう。
なのでターゲット、およびその位置を明確にするのはめちゃくちゃ大事です。(とくにホラー企画はターゲットを外すと、その先にあるのは荒野です)

あとターゲットを考えるときに「そうだね、たくさんの人だね」みたいな結論を出してはいけません。それは荒野ですらなく虚無です。

なので、弊社では2種類のターゲットを考えます。
まずは「このプロジェクトを成功させるために一番届けたい人」
つぎに「このプロジェクトが効率よく届く人」
この2種類のターゲットです。

「一番届けたい人」=「この企画を一番喜んでくれる人」でもあります。
ようは私達からすると神様です。
(厳密に言うとあえて外すこともあるけど今は省略)
ただ、残念ながら数多くはいません。
プロジェクト全体からすれば数%程度のレアな神様たちです。
なので喜んでくれる人たちだけに企画を作ると、そのプロジェクトは数%しか達成できないという残念な結果になります。
ただしこの神様たちは口コミパワーや盛り上げパワーが凄く、
また目も肥えているので、この神様が「私のための企画だ」と思ってもらえる内容を考える必要があります。
なので、このターゲット層のイメージをできるだけ明確に描く必要があります。どんな人なのか、どんなライフスタイルなのか、どんな悩みを持っているのかを明確にします。あとででてくる「心の性感帯」を探るためです。

次に「このプロジェクトが効率よく届く人」、これは私達からすると、、、
結局は神様です。
上の神様ほど熱心ではありませんが、そのかわり数が多いのです。
このボリュームが重要で、この想定されるボリュームがそもそも目標数字より少なければ、この時点でプロジェクトは失敗確定です。
(このあたりは市場規模と認知率と集荷率と、そもそも選ばれるか率といった数字などである程度計算できたりします|難しいことは後で本を読め)

なので、プロジェクトがなりたつボリュームを確保しながら、効率良く届くレベルを見極める必要があります。尖りすぎた企画だとここに届かなくて失敗するんですね。丸めすぎると誰にも刺さらない。
企画の尖り度はこの数字と見比べながら、調整していく
ことになります。

ちなみに、このターゲットの方達は基本こう考えています。
「ちょっと気にはなるな、でも行くほどじゃないな」
そうです、基本的に最初はそんなに興味ないんです。
自分からは情報を取りに来てくれないので、情報を「届ける」必要があります。下手したら、何度も何度も届ける必要があります。(ザイオンス効果って調べてみるといいよ)
そのうえで行ってもらう、買ってもらうなど「行動を変える」必要があります。この層を大きな網でごっそりとさらえるかどうかがプロジェクト成功の鍵を握ります。

あ、あとホラーみたいなイベントだと地域属性も主要な要素です。わざわざ1時間以上、移動に時間をかけてホラーを観に来る人はいません。
いるとしたら…それはやはり神様。

4: 次は、ターゲットの心情に迫ります

上記に挙げた「一番届けたい人」の快感ポイントを探ります。

素直にターゲットに「来てね!」「買ってね!」って伝えてもびっくりするぐらい来ない。買わない。笑う。
ターゲットに「こんなメリットがあるよ!」って伝えても、それでもびっくりするぐらい来ない。買わない。もう誰も信じない。

ってなるので、次の手を打つためにこんな事を考えます。

ターゲットには、つつくとピクッと反応する「心の性感帯」、ポルノでグラフィティな部分があったりします。ここを探りあてるんです。
でも、ここはセンシティブな部分でターゲット自身は教えてくれません。
もしかしたら自身では気づいてもないのかもしれません。
でも必ず誰にでもあるんです。
なので、ここを死ぬほど考えます。超時間使います。
※業界用語的には消費者インサイトってやつですね。

この心の性感帯は、ターゲット自身の悩みや願望の奥底にあります。
日々の抑圧の奥底に、こうありたい、こうであってほしいという願いがあります。しかし、それを阻害するもので日常が溢れています。
それを突いてあげると、一気にターゲットは実際に動くんですね。

なのでそこに行けば、それを買えば、
「こうありたい、という自分になれる!」「心の底からワクワクできる!」って思える価値を、買う前から伝えてあげなければなりません。
阻害するものを打ち払う説得材料を用意する必要があります。
他で解決できるものじゃダメです、この企画でしか解決できないんです!って形に持っていくのです。だから人は動く、という理屈です。
※この価値を意識の高い人達はベネフィットって呼びます
※この辺の具体例が欲しい人は「ハーゲンダッツ インサイト」でググれ。
※ハーゲンダッツはインサイトの説明用商材だ。

なのでアイデアを考える前に、この状態を考える必要があります。
改めて、ベネフィットまでみえないと人は動かないからです。


5: おまたせしました。アイデアを考えましょう。

さぁやっとだ!おまたせした。期は熟した!
アイデアの出番だ!今からやっとアイデアを考えるんだ。

アイデア」と似た言葉に「クリエイティブ」って言葉があるので
わかりやすくするためにオレオレ定義します。
アイデア:通常の方法で解決しない課題を解決する方法
クリエイティブ:アイデアを直感的に賛同できる形に表現すること

アイデアは通常の方法で解決しない課題を解決する方法と書きました。
なぜなら通常の方法で解決するなら、アイデアはいらないからです。
裏を返せば、通常方法ではたどり着けないので
「なんらかの飛躍」が必要になるはずです。
アイデアで考えるべきは
「心の性感帯を付く方法」であり、
「それを阻害しているものから開放してやるか」
「どんなあるべき未来像をみせれるか」ということになります。
今までいろいろ考えてきたおかげで、考える範囲はかなり明確になってます。よかったですね。
で、アイデアの具体的な考え方は…
それだけでnoteが大量に書けるので…
「アイデア  出ない  逃げ出したい」でググれ。


6: アイデアを形にせよ

ただアイデアはアイデアのままでは絵に描いた餅です。
アイデアはクリエイティブという形で実際に「直感的に賛同できる」「理解できる」形に表現する必要があります。
例えば、「熱が通りやすいように真ん中に穴を開けたお菓子を作ろう」がアイデアとしましょう。その場合、実際に調理してドーナツを目の前に出してあげるのがクリエイティブです。※繰り返しますがオレオレ定義です。

クリエイティブは重要です。アイデアがどれだけ優れていても、クリエイティブがダメなら、上記例で言えばドーナツが丸焦げなら、誰もアイデアの恩恵に預かれず、子どもたちは黒焦げの何かを投げつけてくるでしょう。
でもドーナツが上手に揚がって、チョコレートにつけて、カラフルなチョコスプレーをかけてあげれば、、、、きっとみんな大満足ですよね!子どもたちも大喜び。
あれ話がずれたな。戻します。

アイデアを活かすも殺すもクリエイティブなんですね。
特に「直感的に賛同できる形」ってことが昨今ではより重要だと思います。(アイデアが良くても直感的に伝らなくてSNSのタイムラインにどんぶらこどんぶらこと誰にも「いいね」されずに流れていくクリエイティブも数多くあるのです)

とここまであんまり具体例を出さずにここまで来たので、全然イメージできないですね。
株式会社闇の過去事例から、具体例のいくつかを書いてみようと思います。
以下は実際の案件の具体例です。


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具体例1: ある夏のホラーイベントの具体例

消費者インサイト
二度と戻らないこの年のこの夏休みが、記憶にも残らない夏休みだったなんて思いたくない。特別な体験をしていない自分が惨めだ。たまに友達とダラダラと過ごすぐらいしかない毎日に特別な刺激がほしい。

ベネフィット
この夏でしか味わえない夏を最大限楽しんだという実感。
特別な夏だったと確信できる、自慢できる強烈な刺激。
友達と心の底からハラハラ・ワクワクした一体感がほしい。

アイデア
・閉園後の遊園地、というロケーションを活かす
・友達と一緒に広い空間でおばけに追いかけ回される体験
・実際にゲーム性をもたせることで自分たちが主人公になれる
・ゲーム進行に連動してストーリーが展開する

【クリエイティブ
閉園後の夜の遊園地で、実際に追いかけてくる鬼から逃げ回る
ホラーゲームのような世界を味わうリアルイベント

・閉園後の遊園地の全域を限定した人数で味わう超贅沢体験
・鬼の接近がペナルティとなるアプリを利用したゲーム設計
・LINEと連動し、物語進行に合わせてストーリーが波乱に展開
・鬼から隠れ、巡ったポイントの手がかりから妹を助け出す

(参考例:2019年実施:闇遊園地でかくれんぼ
https://www.atpress.ne.jp/news/188039
当時の感想
※今このタイトルでググると、どう考えてもタイトルをパクったであろうエロゲがでてくるので許していない


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具体例2: 複数人グループで体験する室内イベント

消費者インサイト
自分だけが出し抜く、そんな特別な体験や優越感を感じたい。
絶対に安全な状況で、日常のストレスを吹き飛ばすスリルを味わってみたい。自分が主人公になったかのような特別な待遇を味わいたい。

ベネフィット
緊迫感のある状況で、周りを出し抜き、自分だけが生き残りを目指す体験。
映画や漫画の主人公のように、究極のスリルと駆け引きが次々と襲いかかる状況。

アイデア
・全員で生き残るのではなく、出し抜いた1人だけが生き残るゲーム性
・ボドゲとイマーシブシアターを組み合わせた新しいイベントフォーマット
・死んでも(負けても)満足感のある体験
・目の前で次々にドラマが起き、そのすべてが一本につながる

クリエイティブ
映画クオリティのデスゲームの世界で特殊なゲームをプレイしながら自分だけが生き残りを目指すリアルデスゲームイベント
・デスゲーム映画のセットのような舞台美術が施されたルームを用意
・瞬時にルールが理解できて、かつ駆け引きのあるボードゲーム
・つきっきりでゲームマスターとなる演者が存在しドラマが巻きおこる
・最後の一人になるまで殺し合いのゲームが続く

(参考例:2019年実施:シンガンシンパン
https://kikii.jp/event/shinganshinpan/
ある大手レビューサイトの感想


長くなりすぎたので終わらせよう

そういうわけで「企画を考える」=アイデアを考えるではない
を説明したいがために、随分と文章が長くなってしまいました。
こんだけ色々考えなあかんのに、いきなり「企画考えろ」と言われて、できるわけがないわなぁと思うのです。
実際書いたのも、かなり一部の上流工程なわけですよ。
ここからさらに、

どうやって実現するのとか、
ほんまに採算取れるんかとか、
どんな人材集めてこなあかんのとか、
どんなスケジュールで、
どんな予算で、
どうやってプロモーションして…

って考えることは異常に有るわけですからね。

とはいえ、とっかりがないと難しいと思います。
クライアントから、上司から「企画を考えろ」と言われたときに、いきなりアイデアから考えていた愚かだった自分をたしなめるために、もしかしたら役に立つかもしれない誰かのために、私なりの企画を考える方法というのをまとめてみました。


おまけ

分かる人はもうとっくに分かってると思うんですが、このやり方はマーケティングが強すぎるカンパニー「P&G」のマーケティングメソッドを自分なりに取り込んで企画を考える方法として運用しているものです。
P&Gってアリエールとかファブリーズとかの会社ですね。そんな消費商材の売り方が他の分野で通用するのかよ!ってお考えの方もいるかもしれないんですけど、エンタメ業界でもどこでも余裕で使えます。有名な実例の証拠がありますね。
それは、USJ!
ユニバーサルストゥーディオジャパーン!
2010年、低迷していたUSJに、P&Gの凄腕マーケッターがヘッドハンティングされました。
その名も森岡毅さん(今は独立され株式会社刀のCEOです)。
彼はP&Gのマーケティングメソッドとお得意の確率統計を駆使して、またたく間にUSJはV字回復しました。
エンタメ業界でもこの手法が普遍的に通用することを実証したのです。
このあたりはもはや伝説になっており、ちょっと調べるだけでも様々なエピソードが出てくるので超エキサイティング!!

っていうかこの人の本を読めば、このnoteの100万倍の有益な情報を得られるので最初からこの人の本を読んで下さい。
社内でも、必ず読んでもらってる株式会社闇の必読本です。
最後にその本を紹介して終わります。

まず一発目。
彼自身の赴任した当初に右往左往するドラマパートもあって読みやすいです。マーケの本なんですけど熱いですね。戦略の話がもちろん中心なんですけど手に汗握る感じはたまらんです。まず読め。


二発目。
森岡さんが自身の娘さんにもわかってもらえるように、というコンセプトで書かれてるので、具体的な戦術の話もむっちゃ分かりやすいです。
学校の教科書として採用すべき。

三発目。
信じられないぐらい複雑な数式が出てきて草。
ただ数式の部分を雰囲気で掴むだけでも一生モノの財産になるぐらい有益。
マーケティングを組織として機能させる方法にまで踏み込んでるので、冷静な文章の奥に血が通ってます。ただここまでくると当然、企画うんぬんの話ではない。ただただ読め。


それでは、企画書の続きを書きます。
さようなら。

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会社でホラー映画観ます。