おはなのいろぬるひと

 あさおきても、ままがどこにいるかわかりません。
 おめめこすっても、ぱぱのにおいはいたしません。

 あさひはてっているのでしょうが、ひかりのいろがわかりません。

「まま、ぱぱ」

 と、おててをつきだしてうろうろすると、やわらかくて、いいにおいのひとがみつかります。

「おはよう。今日もいい子ね」

 ままです。

 ままは、わたしをいい子とよんでくれます。

「よしよし。元気に育つんだぞ」

 うはは、とわらうこえは、ぱぱです。ひげがじょりじょりします。

「まま、ぱぱだいすき」

「私もよ」

「俺もだ」

  わたしはとってもうれしくて、ままとぱぱにあたまをこすりつけて、ぐりぐりします。

「ほら、窓から朝日が照っているわよ。お花が綺麗ね」

 ままは窓のそとをゆびさします。

「まま、いろが、わからないの」

「あら、そうだったかしら」

「しかたないよ。まだ子供なんだから」

「ごめんなさい」

 謝らなくていいんだよ、ってままはいいました。でも、わたしは、なんだか、かなしくてつらいのです。

「まま、わたしね、おおきくなったらおはなのいろぬるひとになる、ね」

「マァ」

「オォ」

 ふたりはやさしくわらってくれました。

 ふたり?

 ままと、ぱぱ、は…?

『さらちゃんさらちゃん』

 窓のそとでおはなさんがしゃべりました。

『さらちゃん。君の言葉はうれしいよ。でもいろを塗ってはいけないんだ』

「どうして?」

 なぜでしょうか。いろ、をみんなあさひがわかります。あさに、ままとぱぱにおはようっていって、ままとぱぱをすぐわかって、ぎゅってできるんだよ?

『大人は、子供がいろを塗るのがこわいのさ』

「そうなの?」

『そうとも。大人はいろの違いなんてわからないからね』

「じゃあわたしがおしえてあげるの」

『みんなしんぱいするよ?』

 お花はこまったようにいいました。

「でもちゃんとおはようしたいから」

『そっか、それならなにも言わないよ。さらちゃん。でも大人は君をこわがるかもしれないよ。大人はこわがると子供に戻っちゃうんだ』

「そうなんだ…」

 さらは気を付けようと思いました。

「どうもありがとう。お花さん。今度いろを塗ってあげるね!」

『楽しみにしてるよ』

 お花さんは、さらさらと朝日の微睡みに流れていきます。

「パパ!  ママ!」

 二人は私を待っていてくれました。いつまでも、いつまでも。でも、困った様子です。

「二人ともどうしたの?」

 二人は言いました。

『まま、どこにいるの?』

 二人とも顔色は真っ白だ。

 

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