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Like a『春色』バトルフィールド

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セクシャルマイノリティサークル『春色』に入部した柿本比呂は、ある葛藤を抱えていた。  魅了的な人々との交流の中で、比呂はその葛藤と向き合っていく。  悩み、迷っていきながらも… もっと読む
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小説 Like a『春色』バトルフィールド ♯16

小説 Like a『春色』バトルフィールド ♯16

♂♀♂♀♂♀♂♀
 
 俺が比呂のことを好きだと思ったのは、中学一年生の時だった。

 その日は無茶苦茶に熱い日で、セミの声がいつもよりも少なかった。35℃以上になるとセミも熱中症になるらしい、というのをテレビで見た。

 その上うちの中学は一部の教室を除いて冷房がなく、それはもう地獄と呼んで差し支えないような状態で、天井で力なく首をゆっくり振っている扇風機が自分の方を向くたびに、声が漏れそうにな

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Like a『春色』バトルフィールド ♯15

Like a『春色』バトルフィールド ♯15

 ♂♀

「それでまだ懲りずにいるってわけ?」

 向かいに座る市村は頼んだダージリンに口もつけず、苛立たしげに僕を睨んでいた。

 僕はサークルをやめた。お世話になった白井さん吉原さん坂上さんには一人ずつ直接会って、今まで僕が騙していたことを打ち明けた。全然気づかなかったと白井さんは言い、気づかない奴がいると思ってんの?と吉原さんは言い、野暮なこと言うなよと坂上さんは言った。

 何度か潤さんを

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Like a 『春色』バトルフィールド ♯14

Like a 『春色』バトルフィールド ♯14

♂♀

 その日は日曜で、十時から所属している少年野球チームの練習試合を控えていた。忘れもしない、僕は十歳だった。ユニフォームに着替えダイニングで朝食の目玉焼きに醤油をかけながらテレビをつけた。ワイドショーが流れていて、内容は最近公開されたドキュメンタリー映画の好調についてだった。

「──音楽史に名を残すスターであった彼が、自身のセクシャリティについて悩む姿を彼の往年の名曲とともに美しく綴った衝

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Like a『春色』バトルフィールド ♯13

Like a『春色』バトルフィールド ♯13

 車窓から夏の太陽が斜めに差して座っている僕の足元に影を作った。冷えた車内は季節特有の浮ついた雰囲気で満ちていた。汗かいたんだから帽子とって汗引かせなさいと口うるさい母親の言うことをきかず、お気に入りのキャップを両手で押さえて取ろうとしない男の子が右斜め前にいた。左斜め前では、高校生ぐらいの男女が会話もせず座っていた。男の子は外を見たり窓を見たりしていて、女の子の方はスマートフォンをいじりながら時

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Like a 『春色』バトルフィールド ♯12

Like a 『春色』バトルフィールド ♯12

 
 向こうから目をさすような自動車のライトが向かってくる。避ける気もなかったのか、すぐ脇をスピードを緩めずに通過していった。風圧で体が煽られて頭がくらっとした。

 体が冷えている。ポツポツと降り出した雨のせいだった。歯の根が合わず、足が重かった。

 頭の中では言葉が巡った。吉原さん、白井さん、坂上さん、市村、潤さん、そして佐藤。

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Like a『春色』バトルフィールド ♯11

Like a『春色』バトルフィールド ♯11

♂♀
 
 交際の報告をしたのは吉原さんと坂上さんと白井さんだけで、ほかのサークル員には報告をしなかった。特に意識をしていたつもりではなかったが、話す人選んでるんだね、と潤さんに言われたとき何故かドキッとした。選んでいたのだろうか。だとしたら、どういう基準で?

 報告をした時、白井さんは手放しで喜んでくれた。坂上さんは言葉を失ったあと、はぁーそうくるか、とどこか含みのあることを言った。どういう意

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Like a『春色』バトルフィールド ♯10

♂♀

 市村は授業があるからと、千円をテーブルに置いて先に喫茶店を出て行った。カラン、と大きくドアベルが鳴った。

 一人で構内に戻ると昼休みが終わる頃で、中庭で食事をとって談笑していた学生たちがそれぞれ授業がある校舎に散っていくところだった。生徒が多すぎる、と何となく感じて、途方にくれた。市村の言葉のいくつかが頭でリフレインしてしまって、何か考えているようで考えられていない状態のまま構内を歩き

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Like a『春色』バトルフィールド ♯9

 まっすぐ歩いていく市村の後を二歩遅れてついていった。こちらを一回も見ない後ろ姿からはいつもより何割も増した圧力を感じた。いっそこのまま逃げてしまおうかと思った時、市村が急に振り返った。

「学食でいいよね?」

 なんとなく、これから始まる話は穏便に済まないだろうという予感がする。学食は良くない。市村は周りの目なんて気にしないタチだし。「いや、ちょっと構外に出よう」

 校門を出て、目の前の歩道

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Like a『春色』バトルフィールド ♯8

 朝校門を抜けて授業のある第一校舎に向かっていると、比呂、と声をかけられた。

 
 振り向くと市村佳乃がいた。

「何の授業?」

 胸あたりまで伸ばし少し銀色っぽく染めた茶髪をかきあげながら、市村が聞いてきた。

「広告論A」

「一緒じゃん」

 あーとうとう大学生かぁ。と言いながら佳乃は隣でついてくる。一緒に授業を受けるつもりらしい。鮮やかな水色のノースリーブシャツに、グレーのタイトなスカ

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Like a『春色』バトルフィールド ♯7

 ♂♀

「こいつと潤はほんとにイタズラが好きだからね。気をつけたほうがいいよ」

 カウンターで注文したモヒートをテーブルに置きながら、坂上さんが言った。

「潤ほどじゃないよあたしは」

 吉原さんが両替してきた百円玉をジャラジャラと無造作に丸いテーブルの上に置いた。テーブルは小さく背が高い。備え付けられた三つのハイチェアも同様に高かったが、坂上さんは身長が高いので腰掛けても脚を持て余すように

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Like a『春色』バトルフィールド ♯6

 駅から歩いて十分ほど経ち、不安になってきた。駅周りの大型店舗が立ち並ぶ賑やかな地域とは違った雰囲気になってきたからだった。日は落ちかかり道は細くなって、クラブや風俗の案内所の灯りが目に痛いほど強烈で、道には人が溢れている。白いTシャツを着た色黒で金髪の男とスーツ姿の長髪の男が大声で話しているすぐ横を通った。その時色黒の男が僕のすぐ斜め前に唾を吐いたので、地面に張り付いた白く泡立つ液体を慌てて跨い

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Like a『春色』バトルフィールド ♯5

 ♂♀

 ピンクから茶色に近いくすんだ色に変化した桜が、第四校舎前に掃き溜められていた。

 新入生向けのサークル説明会が部室で改めて行われ、サークル員たちとの顔合わせがあった。始めて部室に来た時にはなかった長机とパイプ椅子が四角形に並べられ、順番に先輩たちが立ち上がり自己紹介をした。自分の性の目覚めからセクシャリティまで笑いを交えて全て話す人もいれば、名前と年齢だけ言う人もいたり、ただ自分の趣

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Like a 『春色』バトルフィールド ♯4

 白井さんが、『気づいた』のは中学三年生の時だったらしい。

「そもそもの性の目覚めみたいなもの自体が物凄く遅かったのよね。女の子に対しての興味は湧かなかったんだけど、男子に対しても当時は特に何も思わなくて、本当に何も考えてないって感じで。別に男子に混じって遊ぶことも好きだったから。ただ、今思えばやっぱり窮屈だったかな」

 ある日、白井さんは学年で一番の美少女に、校舎裏に呼び出された。そして告白

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Like a 『春色』バトルフィールド ♯3

 教訓。

 どのように振舞っていたとしても、その人がどんなコンプレックスを抱えているか、もしくは抱えていないのか、決めつけてはいけない、ということ。堂々とした振る舞いをしていたので気を抜いてしまったが、白井さんは元気という女性らしくない名前で呼ばれることが心底嫌いだったのだ。

「僕の名前は時城潤、新入生くんの名前は?」

「さっき聞いたでしょ潤」

「おお、そうか、いやぁ、なぜかちょっと前の記

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