仇よ、さらば

 かつて屠龍姫と黒獅子公が戦った古戦場に、ネクロマンサーの軍勢が集結していた。主力はゾンビとスケルトン。その数、二万五千。ネクロマンサーは、冥府の軍勢を率い、世界を死者のものにせんとしていた。

 古戦場に垂れ込める暗雲。その雲間から、突如、巨大な火球が次々に飛び出してくる。
 火球を率いるのは、大陸一の炎の魔術師、バーデン。彼の瞳は火球より熱い復讐の炎を宿していた。ネクロマンサーは妻子の仇。ゾンビに食い殺された妻と二人の子どもの無念を晴らさんと強襲を仕掛けたのだ。
 火球が次々と着弾する。爆発の衝撃がスケルトンの骨を砕き、灼熱の炎がゾンビの腐った肉を焼く。
 ネクロマンサーはゾンビたちが担ぐ輿と共に、炎にまかれた。
「無駄だ、バーデン。俺は殺せん」
 燃える輿の中から、ネクロマンサーが歩み出てくる。その身体は焼かれつつも、瞬時に再生する。
「冒涜者よ。今度こそ燃やし尽くしてくれよう」
 ネクロマンサーの目の前に着地したバーデンの右手に炎の杭が現れた。彼はネクロマンサーの胸へ、一息に杭を突き立てた。
「無駄だと言って……何!」
 ネクロマンサーは杭の炎に身を焼かれてながらも、杭を引き抜こうとしたが、できない。
「炎は掴めん。杭はお前の魔力を使い、燃え続ける。永劫苦しめ!」
「寄生型魔導機関の応用か。考えたな、くそっ」
 ネクロマンサーは身体の内側から燃やされ続ける苦痛に悶え、のたうち回った。
「ああ、畜生。俺の負けだ。何でもする。この杭を抜いてくれ」
「私の唯一の望みは家族と共に暮らすことだった。だがお前はそれを奪った!」
 バーデンは激昂した。あっさりとした敗北宣言が、逆に彼の逆鱗に触れたのだ。
「わかった。すまなかったよ。あんたの家族を生き返らせる」
 ネクロマンサーの呻くような声を聞き、バーデンの復讐心が初めて揺らいだ。
「今何と、できるはずがない」
「俺を誰だと思ってる。俺は、ネクロマンサーだぞ」
 ネクロマンサーはニヤリと笑った。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?