ガール・ミーツ・ウーマン・アンド・ガン

 アマンダが初めて殺したのは父親だった。彼女の父はのんだくれの自動車修理工で、酒を飲むと、必ずアマンダと彼女の母を殴った。
 十二歳の誕生日、アマンダは、ささやかながら自分を祝ってくれた母を、レンチで殴る父の姿を見た。彼女は父の寝室のクローゼットに、銃が仕舞ってあることを知っていた。
 父親を殺したアマンダは、銃を手放すことなく、やがて殺し屋になった。

 安アパートの小便のにおいが漂う廊下で、アマンダは拳銃のスライドを引いた。彼女の今日の仕事は、純度の高いメス一袋を横流しした愚か者を始末することである。
 203号室。アマンダは部屋の標識を確認し、ドアを蹴破った。
 部屋の中は異様に静かだった。照明もついておらず、暗い。もう逃げた後だろうか。アマンダはそう考えたが、すぐに考えを改めた。血のにおいがするのだ。
 銃を構え、慎重に進んでいく。トイレとバスルームをクリアリングするも、特に異常はない。リビングにも人は居なかった。あとは、奥の寝室だけだ。
 寝室のドアは僅かに開いていた。アマンダが素早く、音を立てず、ドアに張り付く。その隙間から寝室の中を覗くと、床に血だまりがあるのが見える。彼女は扉を背で押し、身を反転させながら寝室に入った。
 パイプベッドの上には男の死体が横たわり、その脇には銃をもった少女が立っていた。少女は震える手をなんとか御して、銃口をアマンダの方へ向けている。アマンダは少女の額に照準を合わせた。
 少女は血に濡れ、頬の青あざにも血の飛沫が掛かっている。少女がかつての自分と同じ目をしていることにアマンダは気がついた。
「あんたが?」
 アマンダが顎で男の死体を指す。死体の顔はアマンダの標的のものだ。少女はゆっくりと頷いた。
「やるね」
 口元を緩めたアマンダは銃を下し、腰のホルスターに仕舞った。
「一緒に来ないか」
 アマンダが少女に手を差し伸べる。少女は困惑の表情を浮かべたが、やがて決心し、アマンダの手を取った。

【続く】

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