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Born In the 50's 第十九話 パーティー会場

    パーティー会場

 石津は一階のパーティー会場となっている部屋の中を覗いた。
 まだ薄暗いままで、準備もほとんど進んでいなかった。着席したパーティーになるようで、裸のテーブルだけが綺麗に並べられていた。テーブルにクロスが掛けられ、ナイフやフォークが並べられるのはたぶん夕刻、パーティーがはじまる寸前なんだろう。
 そんな薄暗い部屋にもしかし機動隊員はちゃんと配置されていて、警備をしていた。
 石津が部屋に入ると一瞬身構えた機動隊員だったが、着ている防護ベストを見て、NSA関係者だと理解したようだった。軽く敬礼をすると、またもとの態勢に戻った。
 なにかがあると思っているわけではなかったが、ただ石津としては自分の足で歩いて、自分の眼で確認したかった。
 ゆっくりと壁伝いに部屋を歩いていく。
 カーテンの類はすべてたくし上げられていて、物陰になにかを隠すということはできなかった。それは裸のままのテーブルも同じことだった。ガランとした部屋にただテーブルが置いてあるだけ。椅子もない状態で、なにかを仕掛けるということは不可能だろう。
 ただし、現時点では。
 部屋をぐるりと回ったあと、テーブルの間を納得するまで歩いた石津は、腕時計で時間を確認すると、部屋を出た。
 廊下に出ると、また歩きはじめた。廊下の端に会議用の部屋が用意されている。機動隊員がそれぞれの部屋の入り口近くに立ち、警備をしていた。
 石津の姿を見ると、すぐ近くにいた隊員が敬礼をしてきた。
 石津は大きく頷き返すと、ゆっくりと会議室を目指す。
「石津さん」
 そのとき、イヤーピースに田尻の声が聞こえてきた。
「どうかしたか?」
 石津はそのままつっけんどんに訊き返した。
「いまどちらですか?」
「これから会議室へいこうとしていたところだ。なにか?」
 石津は立ち止まったまま答えた。
「いえ、あと十分もしないうちに総理が到着します。山下課長もこちらに来ています。できたらそろそろ警備本部へ戻っていただきたいんですが」
「わかった」
 石津は頷くと、戻ることにした。
「そうだ、報道関係者は何時ぐらいから入れるようになるんだ?」
「別館の報道センターはすでにオープンになっています。本館への立ち入りは、本日の午後三時以降です」
「なるほど。じゃ、しばらくは警備の人間しか本館にはいないということだな」
 石津は確かめるようにいった。
「あとは、ホテル関係者だけか……」
 そうひとりごちると石津は階段へと向かった。

 石津の姿が見えなくなると、入れ替わるようにジムが従業員用のドアから出てきた。その後ろにはアイリーンも従っている。
 ふたりはただ黙ってきびきびとパーティー会場へと向かった。
 アイリーンの手には大ぶりの装花用の花器があった。それを両手で捧げるように持っている。
 ふたりは警備に立っている機動隊員たちに会釈をしながらそのままパーティー会場へと入っていった。部屋を警備している機動隊員たちは一瞬身構えたが、ホテルの従業員のユニフォームを着ているふたりを特に怪しむことはなかった。
 ジムはごくふつうにテーブルのひとつを指さした。
「そこがいい」
 アイリーンに指示をした。
「はい」
 アイリーンは頷くと、そこに持っていた花器をていねいに置いた。
 ふたりはそのテーブルからちょっと離れると、花器の見栄えを試すようにいろいろな角度からテーブルを見ていた。
 そんなふたりに機動隊員のひとりが近づいていく。
「どうかしましたか?」
「ああ、テーブルを飾る装花用の花器の確認です」
 ジムはさらりと返答をした。
「どうかしら?」
 アイリーンが隊員に向かって微笑むと尋ねた。
「申し訳ありません。無粋なものでなんとも返答のしようもありません」
 機動隊員はすまなさそうに答えた。
「もうちょっと大振りなほうがいいかしら?」
 アイリーンはテーブルを見ながらジムに尋ねた。
「そうだな。大きさは確かにこれだと物足りないかもしれない」
 ジムは両腕を組むと答えた。
「すいません、これこのまま置いておいてもいいですか? もうひとつ別の花器も確かめたいので」
 アイリーンは隊員の方を向いてにっこり笑うと尋ねた。
「わかりました」
 機動隊員は頷いた。
「では戻ってくるまで、このままでお願いします」
 アイリーンはそういうと、ジムとふたりで部屋を出ていった。
 機動隊員はなにごともなかったように元の位置に戻ると警備に就いた。
 パーティー会場を出るとふたりはまたきびきびと歩き、従業員用の階段へと向かった。
「こっちはOKだ」
 ジムは左の袖口を口に近づけるとつぶやいた。
「了解」
 ジムとアイリーンのイヤーピースにモランの返事が返ってきた。

「Born In the 50's」ですが、各章単位で公開していて、全体を通して読みにくいかなと思い、index を兼ねた総合ページを作ってみました。
 いままで通り毎週、章単位で新規に公開していきますが、合わせてこの総合ページも随時更新していこうと思います。
 頭から通して読み直したい、そんなことができるようになったはずです。ぜひもう一度、頭から読み直してください。
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