見出し画像

ロングボーダーの憂鬱 8 Better Together 3/3

「こだわりがあるのね、やっぱり」
 ろくさんはただ黙ってグラスを用意すると、氷を入れてマドラーで掻き混ぜてから溜まった水を捨てると、さらに氷を継ぎ足した。
「ここは日本だから」
 そういってサントリーオールドのボトルを選ぶと梨沙の前に置いた。
「日本人はだるま。これでいい?」
「だるまっていうのね、このウイスキー」
「ああ、ボトルがだるまっぽいだろ」
 そういうとろくさんはオールドを注ぎ入れて、ウイルキンソンの炭酸水をさらに注いでゆっくりとマドラーでステアした。それからレモンのピールを潰して香りだけ乗せるとそのグラスを梨沙の前に置いた。
 梨沙はろくさんの顔を見てやさしく微笑んでからグラスを持ち上げた。そっと口をつける。
「美味しい」
 梨沙はそういうとにっこりと笑った。
「とても口当たりがよくてさっぱりしている。それは、だるまのおかげ?」
「いや、炭酸のおかげ」
「そうか。そうよね」
 ひとり納得したように頷くと、また口をつけた。
「ろくさんはなにか呑まないの?」
「それじゃ」
 ろくさんはそういって頷くと、ロックグラスに大きめの氷を放りこんで、エズラをてきとうに注ぐと人差し指で掻き混ぜた。
「あら、ずいぶんてきとうなのね」
「だって、客用じゃないから」
 ろくさんはそういうと照れ臭そうに笑った。
「それは日本じゃないの?」
「これはケンタッキーのバーボン」
「日本なのに」
「日本だからケンタッキー」
 梨沙は首を傾げると訊いた。
「ケンタッキーはよくて、ハワイは駄目なのね」
「ハワイは、だからハワイなんだよ」
 ろくさんはひとりごちるようにいうと、下を向いた。
「もうお店は終わりなのよね」
 梨沙は首を傾げると、その髪を手でかき上げるようにして耳にかけた。
「今日は閉店」
「わたしは居残った客なのかしら?」
 ろくさんは一瞬考えてから口を開いた。
「いや、関係者」
「だったら、ろくさんはカウンターの中にいる必要はないんじゃない?」
「確かに」
 ろくさんは苦笑すると、カウンターから出て、梨沙の隣の席に腰を下ろした。
 梨沙は手元のグラスを持ち上げて乾杯の仕草をした。ろくさんも自分のグラスを持ち上げると、そのグラス同士を軽く触れさせた。
 梨沙はそのままひと口呑むと、グラスを見つめたまま口を開いた。
「わたし、学校の先生になるのが夢だったの。弟が亡くなってから、それを目標にすることに決めたの」
「その夢が叶ったってことだ」
 ろくさんは梨沙の横顔を見ながらいった。
「そうね、叶ったのかな……。でもね、それで人生がすべてOKなのかっていうと、違うわよね。最近、とくにそのことを考えちゃうの。先生になって、それでどうやって生きていくのか。先生になることと、人生を生きていくことはイコールじゃないよね、って」
「叶ったことと生きていくことは、別……」
「だって夢は人生のゴールじゃないのよ。通過点でしかない。だから夢が叶おうが、あるいは叶わなくても、人生は続いていくから。大切なことは夢じゃなくて、どう生きていくかじゃないかなって」
 ろくさんはただ黙ってグラスを見つめた。
「逗子に引っ越してきて、そして海のある毎日を知って、サップで海へ出て、そりゃ、まだそんなに遠くにはいけないかもしれないけど、まるで海の真ん中にいるような場所で、蒼い空と碧い海を知って、まったく新しい世界を覗いたみたいで、いままで人生って道のようなものだと思っていたのが、違うように感じられたの」
「それは?」
「広々とした草原みたいじゃないかって。三百六十度どこへいってもいいんだって。人生ってこんなに自由なんだって」
 そういうと梨沙はグラスに残っていたハイボールをゆっくりと呑み干した。
「なんだか変?」
「そんなこと、ない」
 ろくさんは力を込めて首を横に振った。
「それにね、もうひとつ」
「なに?」
「ねぇ、夢ってひとつじゃなくていいじゃない。いくつもいくつも夢を抱いて生きてもいいじゃない。だって人生は三百六十度。あちこちに夢があって、どの夢を選んで叶えるのか、それも自由なんだって。だから、わたしはもっともっと欲張って、抱えきれないほどの夢を見てやろうって思ってる」
「意外に……」
 ろくさんは梨沙の顔を見つめ直した。
「なに?」
 梨沙はただ首を傾げた。
「いや、なんでもない……」
「ちゃんといってくれていいのよ、ただの欲張りって」
 梨沙はそういって微笑んだ。
「そういう欲張りならいいんじゃないかな」
 ろくさんは自分にいいきかせるように頷いた。
「ねぇ、もう一杯呑んでもいいかな? 欲張りついでに。酔っぱらっちゃうかもしれないけど」
 梨沙はろくさんの眼をじっと見つめていった。
 ろくさんはただ頷くとカウンターの中に入って、まただるまのハイボールを作りはじめた。炭酸を入れ終えてゆっくりとステアしてから、レモンのピールを潰して香りを乗せるとグラスを梨沙の前に置いた。
「注ぎ込んだエネルギーが大きいほど、その反動も凄いということなのかしら」
 梨沙はグラスに手を延ばすと、そういってろくさんの顔を見つめた。
 ろくさんはそれには応えずに、自分のグラスに氷を足して、エズラを継ぎ足した。人差し指でくるりと掻き混ぜると、ひと口呑んだ。
「自分ではね、すべてのつもりだったんだ」
 そういって力なく笑うと、カウンターを出てまた梨沙の隣の席へ戻った。ゆっくりと腰を下ろすと続けた。
「人生のすべてを賭けたつもりだったんだ、あのとき、あの場所で。でも……」
「でも──人生はまだ続いているわ」
 梨沙はそういうとじっとろくさんの眼を見つめた。
 ろくさんもその視線をしっかりと受けとめ、見つめ返した。
「こんないい方していいのかわからないけど、人ってきっとなにも失うことはないのよ。確かに、亡くなった人はいる。けれどその人と生きた証はちゃんとわたしの中に残っている。それを大切にすることが、弟の智史にわたしができることだと思うの」
「思いを残すんじゃなくて、大切にするか……」
 ろくさんはグラスに手を延ばすとじっとそこに浮かぶ氷を見つめた。すこしずつ氷が溶けていき、やがて崩れるように琥珀色の液体の中に音を立てて沈んでいった。
「そう、大切にするの。智史と生きてきた日々を。それから、彼が逝ってしまったあとの日々を。なによりもいまをしっかりと大切に生きたい」
 梨沙は真っ直ぐ前を見つめながらいった。
「いまを、大切に……」
 ろくさんはそんな梨沙の横顔を見ながらひとりごちた。
「ねぇ、どこで生きていようと、どんな人生を送ろうと、ハワイはハワイ。消えてなくならないわ。逗子は逗子。ここが消えてなくならないように」
 梨沙はそういうと、ろくさんの眼をじっと見つめた。
「なによりも大切なのは、こうして生きている──いま──じゃないかしら」
 ろくさんはなにも答えず、ただグラスを傾けた。
 梨沙も同じようにグラスに口をつけた。
「ねぇ、お願いを聞いてもらっていいかしら」
「なに?」
 ろくさんが首を傾げると、梨沙は優しく微笑みながら口を開いた。
「今夜はこのまま酔いそうだから、家まで送ったほしい」
 ろくさんは梨沙の想いを受けとめるように、しっかりと頷いた。

「なぁ、なんだか昔を思い出さないか?」
 ハイエースのハンドルを握りながら祐司は横目でろくさんの顔を見た。ろくさんの家まで迎えに来た祐司が車を走らせてすぐだった。
 祐司はバス通りを横切り、そのまま富士見橋を渡った。
「昔って?」
 ろくさんは窓の外を見ながらなにげなく訊き返した。
「ほら、大学の頃、よくこうやって海へいっただろう。というか、お前、しょっちゅうおれにこうやって運転させてたじゃないか」
「そうだったっけ?」
「もしかして、運転手が必要だったからおれにサーフィン教えたのか?」
「確かに教えたけど、のめり込んだのはお前自身だぜ」
 ろくさんはそういうと祐司の顔を見て笑った。
「それはそうか」
 祐司はただ頷いた。
「あの頃はあの頃で楽しかったよなぁ。毎日のように夜明け前に家を出てさ。あちこちで仲間拾って海へいって。県営駐車場で日の出見て、海へ入って。そういえば美里もよく一緒だったよな。あいつこの頃、Rough Boyで見かけないけど元気なのか?」
「うん? 仕事忙しいらしい」
 ろくさんはぼそっと答えた。
「そうか」
 祐司が運転するハイエースは黒門を過ぎたところで左折して、国道134号線へと合流する交差点でいったん車を止めた。やがて信号が青になるのを確認すると、そのまま右折して車を走らせた。左手に逗子湾が広がっている。祐司はちらっと窓越しに海を見て口を開いた。
「けっこううねり入ってるなぁ」
 ろくさんもその声に釣られるように、窓越しに逗子の海を見つめた。
「昨日よりでかいかな」
「どうだ?」
「おいそれと海へ出る奴は少ないかもな、さすがにこのサイズだと」
「いや、そうじゃなくてさ。逗子の海ってどうだ? いろいろな海に入ってきただろう」
 祐司はそういうと確認するようにろくさんの顔を見た。
「なんだよ、いまさら。好きだから、ここにいる。そう、逗子の海が好きだから……」
 ろくさんはひとりごちるようにいった。
 逗子湾に沿ってゆるやかに左へとカーブしている国道134号線を走り、西浜の端あたりまで来ると、祐司は右折のウインカーを点滅させた。
「ロードオアシスでいいだろ?」
「ああ」
 祐司はそのまま逗子海岸駐車場に車を進めると、入り口に近い場所に車を駐めた。
「着いたぜ」
「ああ」
 ろくさんは大きく頷くとゆっくりとドアを開けて、車を降りた。
 声をかけた祐司はすでにリアゲートをあけるとボードを引っ張り出していた。ろくさんのロングボードとそれから自分のロングボード。さらにそれぞれのリーシュコードをそこに並べる。
「予備のボードは置いていくだろ」
 ろくさんにそう声をかけると運転用に穿いていた靴を脱いで、ビーサンに履き替えた。
「お前も出るのか?」
 ボードにリーシュをセットしながらろくさんが訊いた。
「とりあえず近くまでいきたいからな。もちろんサイズがでかけりゃそこでお前のライディングをただ見物させてもらうさ」
「なるほど」
 ろくさんは笑いながら答えた。
 ロードオアシスの駐車場を出ると高養寺の手前にある階段を降りる。そのまま国道を潜るトンネルを、ふたりはそれぞれリーシュをつけたボードを抱えたまま歩いた。
 すぐに目の前に海が見える。左手にはゆったりと湾曲している逗子湾全体が見えた。正面には不如帰の碑が、そして右手は大崎。ちょっと突き出した崖の上には一軒家のカフェが建っている。コンクリの階段が海の中へ続いていた。
 日の出は五時五十分。まだ陽は出ていなかった。海全体が灰色に沈んで見える。その海全体が大きく胎動している。それはさながらこの星全体が呼吸をしているようにゆっくりと、そして大きく上下していた。そこへうねりが寄せてくる。そのうねりが巨大な波となって崩れ落ちていく。しかも耳を劈くような轟音を響かせながら。その海の底から沸き立つような海鳴りがろくさんの心を震わせる。
 空は幾重もの雲に覆われていた。薄い雲、分厚い雲。それぞれが違う灰色をしていて、さながら空全体がグラデーションで塗り固められているようだった。その一画、ほんの僅かな隙間があって、微かに東雲が零れていた。
 その微かな赤味を見つけて、ろくさんはホッと息を漏らした。
「いくか?」
 祐司の言葉にろくさんはただ頷いた。
 ふたりはそこでビーサンを脱いで裸足になると、リーシュを巻いてボードを抱えたまま海へと入っていった。
 ボードの上に腹ばいになり、隣り合ったままパドリングをはじめた。沖へ、一番大きくうねりが跳ね上がるポイント目がけて。
「なぁ、あのとき海へいかないかって誘ってくれただろ?」
「いつのことだ?」
「だから大学で初めて会ったときだよ。あれは入学してしばらくしてだから、ガイダンスだかなんかを受けているときだったと思う」
 ろくさんは祐司の声を聞きながら、しかし黙ったままパドリングを続けた。
「いきなりさ、声かけられて。ちょっと吃驚したけど、でも嬉しかった。知り合いなんて周りにいなかったからさ。こんなおれを誘ってくれる奴がいるんだって」
「そうか」
 ろくさんは素っ気なく返事した。
「それで毎日海へいくようになって、しかもこの歳までちゃんと付き合えて、こうして海へ一緒に出られるなんてな。予想もしてなかったよ、こんな人生になろうなんてさ」
「なんだよ、大袈裟だな」
「いや、こうして海にいると、生きている実感が心の底から湧いてくるんだ。それを教えてくれたのはお前だから、これでも感謝してるんだぜ」
「なんだって、いまそんな話するんだ」
「ほら素面じゃ話せないし、だからといってお前の店で呑みながらってのも違う気がしてさ。海でなら話せるかなって」
 祐司はちょっと照れ臭そうに笑った。
「波が待ってるぜ。つまらない与太話してるなら置いてくぞ」
 巨大なエネルギーを孕んだうねりが次々にやってきていた。太平洋の遙か沖にある颱風が産み出したうねり。それがはるばるとその太平洋を渡り逗子湾に到達して、海底の地形によって波を形作る。一気に寄せてきたエネルギーが突然浅くなった場所に到達することで創りあげられる波。
 壮大な高さにまで持ち上げられた海水が雪崩のように崩れ落ちてくる。巨大で荘厳に満ちた滔々とした流れ。それはその瞬間に産み出された瀑布のようだ。
 祐司はパドリングを止めて、ボードの上にまたがるようにして座ると、ただそれを見上げることしかできなかった。その圧倒的な存在感にまるで気押されたように。
「なぁ、バンザイパイプラインはもっとでかいのか……」
 ろくさんも同じようにパドリングを止めてボードの上に座って大きく首を縦に振った。
「もっとでかいかな。でも、こいつもなかなかのものだぜ」
「どう考えても、おれには無理だ。ここにいるだけで足が震えてやがる。このまま回れ右したい気分だ。これでもやっぱりハワイが一番なのか?」
 ろくさんは祐司の顔を見つめ直すと口を開いた。
「あのな、やっぱりハワイはハワイ。逗子は逗子だ。どっちもおれにとって大切な場所だ。大切な場所がいっぱいあっても、大切な人がいっぱいいてもいいだろう、違うか?」
「いや、それでいい」
 祐司はしっかりと頷いた。
「吹っ切れたのか?」
「ああ、大切なことはなんなのかを教えてくれる人がいる」
 ろくさんはそういって空を見上げた。
 微かに東雲が零れていた空の一画がその隙間を広げていた。ようやく登りはじめた陽がそこから覗ける。輝くようなひと筋の光が海を照らしていた。
「ひとつ教えてくれ。いまさらだけど、この波を見て怖くないのか?」
 祐司はなにかを確かめるように訊いた。
 ろくさんはそっと眼を閉じて自らになにかを問うようにしてからゆっくりと口を開いた。
「だれだって怖い。ただ怖さに囚われるのでなく、心に置いたまま見つめることの大切さを教わってきた」
「うん?」
「ハワイの海が、それをおれに教えてくれた。というか心に刻み込んでくれたといった方がいいかな。怖さを忘れるんじゃなくて、きちんと見つめること。それから、あの波に乗りたいという心の叫びをちゃんと聞き取れば、きっとかならずその波に乗れることも」
「そうか。だから、いまここにそうやっていられるんだな」
「ああ。だから乗るよ、これから。いま目の前にやってきている波に。そのためにおれはここにいる。この逗子にいる。いま、おれは生きている。だから乗るよ」
 再びボード上に腹ばいになるとろくさんはパドリングをはじめた。胸をしっかりと張り、迫ってくる巨大なうねりを見つめる。そのまま方向を変えて波ができるポイントを目指してパドリングしていく。
 大きく聳えるように立ち上がった波が目の前を過ぎていった。海の底から湧きあがるような轟音を立てて、その波は大きな弧を描きながら落ちていく。凄まじいほどの飛沫がろくさんの全身に降り注ぐ。
 歓喜の声を上げてろくさんはその波をしっかりと見つめた。そのサイズはもちろんだが、波が掘れたあとの進み具合をしっかりと見極めていく。弧を描きながらその波は綺麗なチューブを形作り続けていく。
 ろくさんは大きく頷くと、つぎにやってくるうねりを待った。沖からゆっくりとそのうねりはやってきた。いま目の前を通り過ぎていった波よりもさらに大きい。
 タイミングを計りながらろくさんはその波を捉えるためにパドリングをはじめた。しっかりと海の水をその掌で掴んで進んでいく。ひと掻きひと掻き、確実に進んでいく。
 ふいにろくさんの頭の中に梨沙の顔が浮かび上がってきた。昨日の夜、その両腕でしっかりと掻き抱いた梨沙。つぎは美奈海の寝顔だった。今朝、家を出る前にベッドの中でぐっすりと眠っていた美奈海。まだ歩くことすらできなかった頃の美奈海の顔がそれに重なった。
 そしていまはもういない歩惟。その笑顔が美奈海の寝顔にタブって見えた。
 そのうねりを捉えるとろくさんはすんなりとテイクオフした。一気にボトムへと駆け下りるのではなく、その波の中ほどでレールをしっかりと波に食い込ませたまま滑っていく。背後に聳えていた巨大な壁のような波がゆっくりと弧を描き出していた。
 東の空から差し込んできたひと筋の陽射しがその波の先を、飛び散る飛沫とともに煌めかせる。ろくさんの目の前をその波が頭を越えて、まるで時が足踏みをしはじめたようにスローモーションで落ちていく。
 ふいにそれまで身体ごと振るわせていたはずの耳を劈くような轟音が消えていてた。ゆっくりと巻いていくチューブの中は、まるで宙の中のように静まりかえっている。ろくさんは心が拡散していくのを感じた。波を作っている海水のひと雫ひと雫が手に取るように視える。その雫のそれぞれに散らばっていき、まるで海の中に取り込まれて、自らの意識がその海中に広がっていくような感覚。海とそしてこの星と溶け合っていくような感じでもあった。
 この星ができあがり、水を湛えて海となり、そしてそこから産みだされた数多のもの。気が遠くなるほどの年月をかけて創りだされてきたありとあらゆる命。その命の源とどこかで繋がっていくようなそんな感覚。
 それはろくさんがいままでについぞ感じたことのなかった快感でもあった。命の実感。ただ自分ひとりの命だけでなく、この星がいままで積み重ねてきた莫大な量の命。その尊さにろくさんの心はただ喜びで震撼していた
 それはあらゆるものを育んできた膨大な時の一瞬一瞬の煌めきでもあった。時をどこまでも細かく刻み込んでいっても、果てしなくそこにある営み。命と時の営みを産み出すそれは無限だった。
 ──おれは生きている。この海とこの星と、生きている。
 ろくさんは後ろ手を波の中に入れたまま、しっかりと先を見つめた。その先に巨大なうねりがこの星の恵として産み出したチューブの出口が見えた。
 ろくさんは波の中をゆっくりと駆け下りながら、その出口を目指していった。
 そこにこれからの生きる道が繋がっているような気がしたから。そして、それは無限の広がりを持っているはずだから。
はじめから

■ 電子書籍 ePub 版「ロングボーダーの憂鬱 」シリーズの販売開始
NOTE で無料公開している「ロングボーダーの憂鬱 」シリーズ。

ろくさんを逗子では知らない人はいないというサーファー。けれどその過去を知る人はほとんどない。そして、彼の心に深く刻み込まれた傷は、いまだにそのまま。その心の傷は癒えることがあるんだろうか……。

そんな彼とひとり娘にまつわる物語が短編連作の長編で紡がれていきます。
逗子を舞台にした、熱く、そして切なく、心に沁みる物語。ぜひご愛読ください。

サーファーたちのバイブルとして読み継がれていくような作品にしたいと願って書きました。
ぜひご購入をお願いします。

「ロングボーダーの憂鬱」シリーズePub 版 価格 ( 税別 ) 各 ¥ 500 -
http://digitaldreamdesign.co.jp/epub/longborder.html

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

スキをありがとう。これからも心に触れるような作品を作っていきます。
2
夕焼けフォトグラファー / 物書き / デジタルコンテンツデザイナーの癌サバイバー、竹井義彦です。 逗子の海の写真や、オリジナルの小説をメインに公開しています。よろしくお願いします。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。