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『ディエンビエンフー 完全版』全12巻電子書籍リリースに関する覚え書

『ディエンビエンフー 完全版』として全12巻の電子書籍を11月15日に一挙リリースする。これは著者である僕自身によるセルフ・パブリッシングで「IKKI版」の電子完全復刊。準備期間は4ヶ月ほど。各ストアへの配信が整うまでには、発見や試行錯誤があった。僕がたどった行程が正解とは限らないが、一定の公益性・公共性があると考え以下その流れをまとめた。

『ディエンビエンフー』は昨年、双葉社から完結編『ディエンビエンフー TRUE END』3巻を刊行し完結した。現在、紙および電子書籍で読むことのできるのは新装版『ディエンビエンフー』全6巻『TRUE END』全3巻。物語としては「第二部」「第三部」に相当する「IKKI版」7〜12巻は2017年の小学館からの移籍時に版元の「出版権」が失効したため、紙、電子ともに長く絶版状態になっていた。

(Vtuberヒカル・ミナミによる作品についてのバイリンガル解説)

 【1】移籍によりIKKI版7~12巻の「出版権」が失効していること

 【2】「アオザイ通信」の収録やデザインの違い、短編の有無など、電子化されている「新装版」1〜6巻との差別化ができていること

 【3】電子書籍の売り上げが好調であること、マンガアプリなどのインフラが十分整ったこと

 【4】海外での刊行の契約など、自ら版権管理をしていること

 以上を踏まえ『ディエンビエンフー 完全版』全12巻を個人的に電子配信することを決定した。

 タイトルは当初「IKKI版」や「復刻版」を考えていたが、電子販売での新規層へのアピールを考えて「ディエンビエンフー 完全版」になった。

 僕は『ディエンビエンフー』の小学館から双葉社への移籍の間、つまり「出版権」が一度失効し他社に移る前のタイミングで、製版データ、および本編の全PDF、一部のフォント、カバーの着彩データなどを印刷所から購入していた。これにより、生原稿からの再スキャンや写植の打ち込み&レイアウト作業が発生しないため、電子化への手間は大幅に軽減された。

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 デザインに関しては、改めて出版社と担当デザイナーから使用許可を得ているので、紙と全く同じデザインを再現することも可能だったが、マンガアプリに並んだ時の見栄えを考慮して含む若干の改変、最適化を施した。電子書籍は帯もバーコードもないためスペースが広く使え、実は紙の本よりもデザインの縛りが少ない。ロゴ、カラーリングはそのまま残し、しかしベトナム語の可読性にはこだわらず、読者向けに「絵」「キャラ」が大きく見えるよう微調整をした。基本デザイン、テンプレートの作成はIKKI版と同デザイナーによる。

 また、電子書籍では不要とされるカバー折り返し部分や、裏表紙も今回は生かすことにした。これによってアプリとはいえ「めくり」が強く促され、仮想的ながら「そっと本を閉じる」という感覚が発生する。また続刊を読む動機づけのために最終ページに「To Be Continued…」と小さく記した。全12巻を読み終えた後、完結編『ディエンビエンフー TRUE END』電子版(双葉社)のへの導線を作る意図や、IKKI版の美しいカラーリングを余すことなく収録する目的もある。

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 本編のPDFデータからは旧版元の掲載誌の告知ページや、問い合わせ先や注意書きを削除。これは旧・版元に迷惑をかけないための作業だ。巻末には双葉社新装版では未収録だった「アオザイ通信」を完全収録。しかし、紙版にはあった「空白ページ」は削除して詰めた。電子書籍は「余白がなくページが詰まっている」方が読みやすく、紙で成立した「余韻」や「贅沢さ」は時に邪魔になる。僕の感覚だが、シリーズ巻数の多い電子書籍マンガの読み進めは「本」というよりもNetflixなどの鑑賞速度に似ている。「エンドロールの余韻よりも、次のエピソード」という読者の気分を想定して調整した。

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 奥付には著者として「西島大介」、発行所として「島島」、電子版のデザイナーとして「柳谷志有(nist)」、題字として「平田弘史」の名前をクレジット。これは、電子書籍制作にあたって改めて協力を仰ぎ、許可をいただいた人々だ。

 同時に、紙の本に記載されていたIKKI版の初出の詳細、担当編集名、単行本担当者名も残した。「フリー編集者が多いため、仕事の足跡を残したい」というIKKI編集長の考えを継承した形だが、これは電子化にあたって必須ではない。電子の場合「奥付」は確実に読み飛ばされる。電子書籍は「本」ではなく「データ販売」なので、奥付ページを細かく作らなくても書誌データに詳細を書き込むことができる。また今回の電子化の作業で紙版の時点で2カ所、奥付にミスを発見「正しい初出表記」という意味でも「完全版」となった。

 また、IKKI版には存在した海外作家ティム・オブライエンの小説からの引用については、法務部を含む出版社や配信代行会社との協議の上、削除や改定を施した。出版の常識の変化による判断だが、「発行所」という立場でのリスク回避もその理由。決定に当たっては長い議論を重ねた。 

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 加えて、作品の引用や改変を非営利で許可する「クリエイティヴ・コモンズ・ライセンス」証も奥付に併記した。これを表示すれば、仮に「ダウンロード」「スクリーンショット」などが法的に禁じられた場合でも作者である僕自身の許可によってそれを超えられる。その余地を残しておくことは、多くの作品や権利を抱える大手出版社ではできない個人出版の自由さだと考えた。

 カバー、奥付といったバラバラなPDFデータを作成し、本編データを挟む形で12冊分のデータにまとめ作業は終了。それ以降は、電子書籍代行会社で電子書籍の国際規格「ePub」に変換してもらい、あらすじや、価格、試し読みのページ範囲などを設定する基本情報「書誌データ」をまとめ、問題がなければ各ストアに配信される。

 個人出版向けの電子配信代行会社は現在多数あり、数社とコンタクトを取ったが「電書バト」に一任した。その主な理由は以下。

 【1】施策(セール)が大胆不敵であること

 【2】売り上げから作者への利益配分が最も良いこと

 【3】作家自身(代表は佐藤秀峰)が設立した会社であり「作家の味方」という姿勢に嘘がないこと

 配信代行会社へ納品するPDFを作るにあたって使用したアプリは、カバー周りの色調調整のためにPhotoshop、ロゴの調整やレイアウトのためにIllustrator、奥付の文字の改変などにIndesign、さらにPDFの最終的な結合のためにSmallPDFを使用した。今回アナログ作業は一切なかった。

 納品後の「ePub」への変換や、データ上の「しおり」「目次」の設定などは「電書バト」に一任。それを待つ間、12冊分の「書誌データ」(著者名、価格、ジャンル、契約書も含む文字情報)の文章をまとめた。

『ディエンビエンフー 完全版』1〜12巻(島島)『ディエンビエンフー TRUE END』1〜3巻(双葉社)を加えれば、『ディエンビエンフー』の複雑に散らばった物語を全ての物語を読むことができる。双葉社の新装版を6巻まで読んだ上で、7巻以降を『ディエンビエンフー 完全版』で読み進めるルートもある。また角川版は『ディエンビエンフー 0』のタイトルでKADOKAWAから電子化されている(追記3参照)。エッセイコミックのみを再編集した『アオザイ通信完全版』全3巻も2017、2018年に「双子のライオン堂」から刊行されている。(追記2参照)

 奥付には「2020年1月発行」と記載し「島島」の設立をキリの良い2020年としているが、予想よりも早く配信手配が整い、2019年11月15日より各電子マンガストアで配信がスタートした。以下、主な各ストアへのリンク先を貼る。

<Renta!>
https://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/198813/

<紀伊国屋書店>
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsd--01-?qsd=true&ptk=03&author=%E8%A5%BF%E5%B3%B6%E5%A4%A7%E4%BB%8B

<DMM>
https://book.dmm.com/series/?floor=Gcomic&series_id=896243

<Reader Store>
https://ebookstore.sony.jp/series/10457036/?cs=search

<楽天kobo>
https://books.rakuten.co.jp/search?sitem=%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%93%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%BC+%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88&g=101&h=30&v=2&spv=2&s=2&l-id=ebook-pc-search-box&x=0&y=0

<Kindle>
https://www.amazon.co.jp/dp/B08174G46K?ref=cm_sw_tw_r_mng_rwt_664a7i9rYmAij

<BOOK☆WALKER>
https://bookwalker.jp/series/225558/list/

『ディエンビエンフー 完全版』の電子配信までの工程がスムーズだったのは小学館、双葉社の協力体制と、印刷所のデータ提供、電子配信代行「電書バト」の丁寧かつ迅速な対応のおかげだ。関係者への感謝もここに併記する。Xin Cam On.(文中敬称略)

 西島大介(島島)

追記1:現在1巻はたまにアマゾンPrime Readingに対応

追記2:『アオザイ通信完全版』は2020年1月15日に島島から第二弾リリースとして電子書籍化された

追記3:角川版『ディエンビエンフー0』は配信を停止し、現在は島島から『ディエンビエンフー 完全版』0巻として再リリース。『ディエンビエンフー 完全版』は全13巻としてまとめられた

追記4:2021年3月1日にオマケ本『ディエンビエンフー・プレス 完全版』1-4巻をリリース。この時点で島島の電子書籍は31冊を数える

追記5:2021年2月イタリアの出版社Bao Publishingより、イタリア語版『ディエンビエンフー』(全13巻)刊行開始

追記6:2021年10月1日に『ディエンビエンフー 完全版 13 TRUE END』をリリース。双葉社新装版の3冊を加え、全16冊のシリーズ化を計画中

追記7:2022年2月7日に、MotionGalleryでクラウドファンディング「完全完結計画」募集開始。3月29日の締め切りまでに目標額の約2倍が集まり、14巻、15巻の制作がスタート

追記8:2022年4月21日、新連載「Kommunismus」が隔週更新でスタート。カンボジア内戦を描いた、正当な続編。→TMS-Lab

追記9:2023年、スイスのスアートアップ「Fair Manga」の協力を得て、英語版『ディエンビエンフー』15巻を制作。随時配信予定

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......と、上の方では「発行元」らしくビジネスっぽく語っておりますが、今回の電子出版計画には実は【5】個人出版がビジネスとして成立したらその売り上げで『ディエンビエンフー カンボジア戦記』(仮)を描く! (※2022年4月21日、新連載「Kommunismus」連載スタートしました→TMS-Lab)という密かな野望があります。最近はカンボジアの資料ばかりを読み込んでいます。1+12+3=16巻を出しても歴史を描ききるには不十分、外伝含め合計20巻くらい出したいよー!(健康なうちに)電子書籍、買ってくださぁ〜〜〜い。メイクマネマネ!(ニューの台詞) pixiv FANBOXも始めました!そっちはもっと赤裸々です(軍事支援を〜〜〜)あと、Vtuberヒカル・ミナミくんもフォローお願いします。実はせかまほも...近日何か...お知らせが...プー.....と言いながら『アオザイ通信完全版』1-3巻も無事リリース、『せかまほ』も出たし『ヤンアラ』も出て、『凹村』『アトモスフィア』『歯くん』も出て、2021年はIKKI時代の無料配布物の初・電子化『ディエンビエンフー・プレス 完全版』を一挙リリース。ふと気がつけば「島島」からの電子書籍は34冊を数えます。読みまくってくださいませ〜

War is not over, if you want it.

(追記。2021年12月11日、平田弘史さんが逝去されました。雑誌『キッチュ』に寄稿した描き下ろし「アオザイ通信」をここに再掲し、追悼とXin Cam Onを捧げます。RIP)

で、で、で、
新連載『コムニスムス』2023年4月、単行本化されます。既にamazonに出ています。電子書籍ではなく紙の本です。ご予約くださいませ。


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