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〈連載#3〉 未来は、企業のDNAの中にある。

コロナウイルス禍は、社会のあらゆるものがつながっていることを、私たちに再認識させました。職場と家庭。対面とオンライン。企業と社会。これまで当たり前に存在していた「境界線」が溶けてゆく。その流れは、ますます加速していくのだと思います。

そんな時代に、組織をどう活性化させるか。働き方を、どうデザインしていくのか。
「企業を内側(インナー)から動かし、事業や経営を良い方向へ変化させること」をミッションとして活動してきた電通ビジネスデザインスクエア(以下BDS)のインナーアクティベーション・チームが、識者との対話を通して考えていきます。

今回のゲストは、吉野家のCMOを務めながら、さまざまな企業のコミュニケーションコンサルタントとしても活躍する株式会社グリッドの田中安人氏。「企業のビジョンの重要性」をテーマに、インナーアクティベーション・チームの江畑潤がリモート対談を行いました。

株式会社グリッド
代表取締役社長 田中安人

大学卒業後、ヤオハン・ジャパンに入社。ヤオハン倒産時に経営計画室にて倒産を経験、後に広告制作会社勤務や広告代理店の起業を経て、株式会社グリッド設立。吉野家でCMOとしてマーケティングを統括するほか、ベンチャー企業のCMO、投資家など幅広く活躍。公益財団法人日本スポーツ協会のブランド戦略委員として、日本スポーツ界の未来設計も担う。スポーツ業界とマーケティング業界を行き来しながら、スポーツの現場の組織論や新たな仕組みを企業に導入し、強度の高い組織を作ることを得意としている。

内省する時間が社員一人一人にもたらした変化とは?

江畑:コロナ禍において、あらゆる境界線が溶けるスピードを上げているように感じているのですが、田中さんは組織や働き方の変化をどのように捉えていますか?

田中氏(以下敬称略):これまでも起こりはじめていたことですが、組織の中では階層が溶け始めているのではないでしょうか。多くの人が遠隔で働くようになり、「その人がチームの中で価値を提供できているかどうか」がより明確になったように思います。会議室のいい場所に座って雰囲気だけで仕事をしていた人が、明らかになってしまっているということです。

江畑職階や年齢などの境界線がなくなっているということですね。会議室の話は、テレワークによって会社というハードの存在感が薄れたからこそ起きている現象とも言えそうです。

テレワークが増え、会社というハードが持っていた機能が失われていると感じています。例えば、今までは会社に集って働くことで、ある程度は社員の連帯感を高めることができていましたが、それがなくなり、フリーランスのような働き方になっている人も多いのではないでしょうか。
田中さんは、コミュニケーションコンサルタントとしてスポーツ現場の組織論を企業に導入することで、さまざまな企業の組織改革をされてきましたが、これからの時代、企業の求心力になるものは何だとお考えですか。

田中テレワークになってそれぞれの場所で働くようになった今、人を束ねるのは“ビジョン”だと思います。

会社で仕事をしているときは、会議の報告書づくりなどさまざまな雑務に追われていましたが、それらから解放されて、内省する時間を多くの人が持つようになりました。その結果、「私は世の中に何を生み出しているんだろう」「この会社は世の中にどのような価値を提供しているんだろう」ということを皆が考え始めた。意識が内面に向かって、思考がより本質に近づいていると感じています。だからこそこれからは、企業側の振る舞いとして、企業の存在価値を明確に表すビジョンを掲げることが重要です。

江畑:確かに、内省する時間は増えています。自分の目標や仕事を今までとは違う角度から眺め、コロナ前とは価値観が変わった人もいるのではないでしょうか。

田中:例えば就職や転職、キャリアの選び方にも、そうした価値観の変化は影響してくるでしょう。旅に出るとき、いくら豪華客船でも「行き先のわからない船」には誰も乗りませんよね。大事なのは「どこに向かっている船なのか」というビジョンを明確に示すこと。それがあるとボロボロの船でも、ビジョンに共感した人が集まってきます。特に優秀な若者はビジョンのない船には乗りません。“所属したいチームかどうか”という視点が重要なのです。企業も同じように、ビジョンに共感した人が集まってチームをつくっていくのが一番理想的です。

企業のビジョンで大事なのは、企業のDNAを発掘すること

江畑:コロナ禍やテレワークの普及以前から、就職活動において「企業のビジョンと自分の考え方の一致」が重視される傾向は始まっていたように思います。経営層からのインナーアクティベーション・チームへの依頼も、「会社のビジョンを浸透させたい」 「ビジョンに沿って能動的に動く人を増やしたい」といったものが多いです。

田中:それは良いことだと思います。これまでは高度経済成長期のフォーマットに沿って、就社していた人が多かった。「良い大学を出て、良い会社に入る」ことに価値がありましたが、その価値観自体も崩れてきています。今はどんな企業も30年先はどうなっているかわかりませんよね。これからは、「自分が何者で、何ができるか」をまず自分に問いかけ、「自分らしく」働くことができる企業を選ぶ時代になっていくと思います。

江畑:ビジョンや創業者の意思が組織の求心力になって、共鳴した人を採用し、束になっていく。そう考えると自社のビジョンにいかに磨きをかけるかに、企業はより力を入れていかなければなりませんね。

田中:そしてビジョンを考えるときには、「その企業らしさ」とは何か、言い換えれば企業の「DNA」を考えることが最も重要です。DNAと関係のないかっこいいだけのビジョンを提示されても、人の心は動きません。でもDNAに導かれた、自分たちの歴史から紡がれたようなキーワードを提示されたとき、人は動き始めます。

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企業が掲げるビジョンと、企業の本質とも言えるDNAは不可分なもの

例えば吉野家は、僕が4年前にCMOに着任した時、「これから100年生き残るために何が重要か」を考え、ビジョン開発をしました。その時いろいろ探って行き着いたのが、吉野家のDNAを示す、こんなエピソードです。

吉野家は東日本大震災が起こったとき、一番にウォータートラックをレンタルして被災地で炊き出しを行いました。なぜ炊き出しをしたのかを聞くと、「それが私たちの使命だから」というんです。そこからどんどん紐解いていくと、「日常食を途絶えさせない」という「吉野家のDNA」に行き尽きました。日本で初めて24時間営業を始めたことにもつながっているし、ここに彼らの誇りがあると感じました。

江畑:DNAって、自分の会社のことだからこそ、見つけにくいことがありますよね。社員が当たり前だと思っているところに本質があったりするので、第三者が経営者や社員と議論を重ねることで見つかることが多いと思います。

田中:確かに、吉野家の皆さんも、ビジョン策定に取り掛かった当初は「日常食を途絶えさせない」というDNAを明確に自覚してはいませんでした。「これがあなたたちの誇りですよね」とお話したときに、社員の方との心の壁が取り払われた瞬間があり、これが本質だと確信しました。

また、DNAを探す中で、ミスター牛丼と呼ばれる安部修仁会長に、「唯一、吉野家で残すものは何ですか」と聞いたら「人だけ残せ」とおっしゃいました。「じゃあ牛丼を捨ててもいいんですか」と言うと「捨てていい」と。なぜならば、吉野家は一度倒産していますが、立ち直れたのは人がいたからだと。これも吉野家のDNAです。それがあるから吉野家の経営理念は「For the People」なのです。

江畑:牛丼を捨ててもいいって!大事なのはプロダクトではないということですね。

田中:吉野家の仕事で僕が勉強したのは、「伝統とは何か、それを継承していく事とは何なのか」ということ。ルイ・ヴィトンが「伝統は革新の連続である」と言っていますが、やはりイノベーションを起こし続けたところにしか伝統はありません。そして、イノベーションを起こす際、そぎ落としていくものと残すものの分け目は、DNAにしかないんです。

コロナ収束後、会社に出社しないことが当たり前になったとき、企業の本質はDNAと、そこから導かれたビジョンしかなくなります。進むべきビジョンとDNAを結んだものが行動計画で、それに日付を付けると事業計画になる。すごくシンプルです。DNAやビジョンという骨組みが明確なほど、優秀な人が集まってくる時代になると思います。

必要なのは、明日の一歩につながるビジョン

江畑:企業のDNAは第三者の視点から見たほうが見つけやすいという話がありましたが、第三者が企業のDNAを見つけるときに大事なことは何ですか。

田中:まずは、愛を持ってその企業に入ることです。ビジネスライクにフォーマットに沿って経営企画書を出して、まったく成果を出せないコンサルタントを散々見てきました。

そして愛を持ってその企業のDNAを受け止めた上で、社員からアルバイトまで全員の明日の一歩に繋がるようなキーワードにまで落とし込むことができるビジョンにすることが重要です。「ビジョンもDNAも戦略もわかりました。それで、僕は明日から何をすればいいですか?」となってしまうケースもありますよね。

例えば吉野家の場合は明確で、1200店舗あるので、一人が1日1円経費削減するだけで大きな差になります。なので「1円経費削減してください」、「1円売り上げを上げてください」と明日やるべきことがはっきりしています。ビジョンからそこまでブレイクダウンしていけることが大事です。

「愛」という言葉だと抽象的すぎますが、コンサルタントというものは経営企画書を出して終わりではなく、その会社の幹を丁寧に考えて、共に反芻していく作業が必要なのです。

江畑:インナーアクティベーション・チームでも、「i-Visioneering」というプログラムを用意しています。「i」はinner、Visioneeringは「Vision」と「Engineering」を掛け合わせた造語で、組織の内側を動かせる強度を持てているかまで検証するという意味を込めています。

インナーアクティベーションを行うときは、チームのメンバーにコピーライターが加わり、ビジョンの言語化をサポートしています。コピーライターの力は、「言葉にできていない想いや思考を汲み取り、人に響く表現にする」こと。そしてその言葉が額縁に入れられるのではなく、明日の一歩につながるビジョンとしていくのが重要だと考えていたので、田中さんのお話しに共感する点は多いですね。

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電通ビジネスデザインスクエアの「i-Visioneering」サービスプロセス

ニューノーマルは、自分たちで作らなければやってこない

江畑:これから企業が生き残るために、ビジョンとDNAが最重要だということがよく理解できました。ほかにはどういった考え方が必要でしょうか?

田中:僕はヤオハンという上場企業の経営企画室にいたときに、倒産を経験しています。そのときのこと振り返ってみると、世間の評判は好調でも、実は危機的な状況にあった。しかし社内体感はお湯が熱くなっているのに気づいていない「ゆでガエル状態」でした。企業にとってゆでガエル状態は一番危険です。少しずつ熱くなっていくため、気が付いたときにはすでに茹で上がってしまい、手遅れになっている。今、まさにこのような状況の企業は多いのではないでしょうか。企業は従来の方法を続けていては破綻するということに気づかなければなりません。

政府が発行する2030年の見通しレポートがあり、その中で特に重要な項目が「生産性の向上と戦略転換」だと言われています。「生産性の向上」のためには、もっと女性やシニアが働きやすい環境にすることと、DX(デジタルトランスフォーメーション)が重要になります。そしてもう一つの「戦略転換」、これはイノベーションです。

一説によるとコロナの影響により、これから経済活動は今までの6割になっていくと言います。そうだとすると、企業はこれまでの6割の売り上げでやっていける仕組みをつくるか、もしくは残りの4割を補う戦略を考えるか、その二択になる。今現在コロナのせいでピンチに陥っている企業も多いと思いますが、「ゆでガエル状態」から脱却するためのイノベーションを起こす機会でもあるのではないでしょうか。

江畑:コロナ禍による倒産危機が、企業がニューノーマルに向けて生まれ変わるためのチャンスでもあるということですね。

田中:個人も企業も成長するのはピンチの時。この機会にしっかり考えて、新しい仕組みを作れた企業しか生き残れないと考えています。驚くことに、緊急事態宣言が解除された後に、全員出社する状態に戻ったという企業があります。過去の成功体験が大きい会社ほど、元に戻ろうとする動きが多い。イノベーションを起こすために、まずは、「コロナ前に戻さない」と決めることが大事です。

ニューノーマルのような美しいワードが出てくると、勝手に新しい世界がやってくると勘違いしがちですが、企業の未来も新しい生活様式も何もせずに放っておいたら、やって来ません。

江畑:企業の未来やニューノーマルは、自分たちでつくり出すものだという考えには強く共感します。これからの社会を考えて、新しいやり方を自ら生み出していく能動的意識を持たなければ変わらないですよね。

DNAに紐づいた明確なビジョンを持ち、元に戻ることなく、変わることができる企業だけが生き残っていく。田中さんのお話を伺って、これからも愛を持ってパートナー企業と向き合い、諦めることなく伴走していきたいと思いました。本日はありがとうございました。

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●お問い合わせメールアドレス: inneractivation@dentsu-bds.co.jp
●電通ビジネスデザインスクエア: https://dentsu-bds.com/
<この記事を書いた人>
江畑潤
株式会社電通 | 電通ビジネスデザインスクエア
インナーアクティベーション・スペシャリスト/コピーライター
「ひとの全能力発揮」を個人テーマに活動。「クリエイティビティで組織を内側から動かす」ことを目指す『インナーアクティベーション』のチームリーダーを務める。肩書きを転々としてきた経験をいかして、自分なりの仕事のつくり方を探求中。



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