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脚本 アマテラス -amaterasu-

Blenderを使った短編アニメ製作プロジェクトの雛型として書いたシナリオが奇跡的にパソコン内で見つかったので、それを一部修正して公開ました。 10年ほど前の原稿です(笑)

原案 玉越正樹(でいをおかあ)
脚本 玉越正樹&由美

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■登場人物『仮称』■
ショータロー(三男)(子供・老人)
アキラ(次男)
シンジ(長男)
ウズメ(クロノダイン『アマテラス』のAI)
商人(ジャンクブローカー)

女の子
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○日のあたる部屋
――本を読みふけっている白髪の老人。
傍らに彼等が『ボルト』と呼んでいる古いICチップが大切に置いてある。

○とある宇宙船の官制室(もしくはブリッジ)
――計器類のパネルにカメラアップ。
モニターに時空変動の兆候が3Dグラフィック映像で映し出される。
緊急を示すブービ音と共に機械的な合成音声が管制室内に響く。
「カナリアが鳴いた。鳥かごを用意せよ。カナリアが鳴いた。鳥かごを用意せよ。エリア……A……5015……-B」
「クロノリープ(CHRONO LEAP)による時空変動を補足……カナリアを確認。ロックを実行に移します」
――効果音が徐々に緊張感を増していく。
効果音が途切れ突然静かになった瞬間に太陽のカット。

○日の当たる部屋
――再び白髪の老人。
不意に本から目を上げ、窓の外の太陽を見上げてはっとする。
太陽のカット。
大きく見開いた老人の目のアップ。
どんどん瞳にアップしていく。
老人の瞳が、時空移動時に現れる虹の輪(スターボウ)の映像にきりかわってゆく再びカメラが引きながら今度は空を見上げている少年(ショータロー)の目のアップに、そして顔、ショータロー全体へとカメラは引いてゆく。
少年の手には、今しがた拾ったばかりのキラキラ光っている(彼らがボルトと呼んでいる)ICチップが握られている。

○砂漠の真ん中にある廃棄物処分場
ショータロー「にぃちゃん、太陽がちいさくなったよ」
――うずたかく積まれたスクラップの丘で、無許可でスクラップ堀をしている三人の小さな兄弟。
スクラップの丘の向こうには煙を吐き轟音をうならせる工場地帯があり、その向こうにはオアシスと呼ばれる一部の富裕層の住宅地がある。オアシスは、スクラップの丘に面した貧しい兄弟の村からは、工場の煙でいつも霞み蜃気楼のように見える。
スクラップの中から、オイルにまみれたアキラが顔を出す。
アキラ「ばかショータ。太陽が大きくなったり小さくなったりするわけねえだろ。月じゃねえんだから」
ショータロー「知ってるもん。お月様は毎月太ったり痩せたりするもん。太陽は太ったまんまだ」
アキラ「太陽ってオアシスの奴らみたいだな。いつも太っててふんぞり返ってんの。こうやって王様みたいにさ」
――アキラがおどけてふんぞり返って歩いてみせる。ショータローは喜んで笑い転げる。
シンジ「その王様に、スクラップ買ってもらって俺たちはおまんま食ってんだろ」
――壊れた車の下から、埃にまみれたシンジがマフラーを持って這い出してくる。大きなゴーグルをしている。
シンジ「遊んでないで金になるもん探せよ」
――しゅんとするアキラとショータロー。
シンジがゴーグルを上げると、ゴーグルの痕がくっきり残るほど顔が汚れている。
シンジ「ショータローお前。なに持ってるんだ?」
――アキラがショータローからボルトを奪う。
アキラ「すげえ!大型リニアビーグルのボルトじゃん」
シンジ「ショータ、それどこに埋まってた?」
ショータロー「え?」
アキラ「リニアが埋まってるなら宝の山だ! 今日は肉が買えるぞ!」
ショータロー「お肉!? ええっとね……あっち」
――アキラとシンジは猛烈な勢いで、ショータローが指差さした場所を掘りはじめる。
再び太陽を見上げるショータロー。
太陽の真ん中に黒い点が現われ、その黒いシルエットが次第に大きくなっていく。それは逆光でもそれと判る人型の巨大ロボットだった。
ショータローは驚きのあまり声も出せずにその場に立っている。
ロボットは音もなく近付いてくる。
アキラとシンジは、ショータローが指さした場所のスクラップを一心不乱に掘っていて気付かない。
美しい金属の機体が、太陽光をバックにゆっくり降りて来る。まるで天使のように、ふわりとスクラップの上に降り立つが、自重によってその脚部は深く地面にめり込み、周りに砂が舞い上がる。
その振動に驚いたアキラとシンジは、作業を中断して振り返えった。
ショータロー「にぃちゃん、これならお肉がたっぷりたべられるかな」
――唖然として口がきけないアキラとシンジ。
アキラが放心したように機体を見上げる。
アキラ「なんだこれ? こんな大きな機械見た事ねえぞ……工場の機械だってこんなに……いつの間にこんなもの造ったんだ。オアシスの連中は……」
――シンジは、無言でゆっくり機体に近づく。
アキラ「危ねえよ! にいちゃん! 兵器かもしれねえし……」
シンジ「……ばらしたら高く売れるんじゃないかなぁ」
――シンジが機体をなでると、機体は磨かれた銀食器のように煌く。
シンジ「アキラ」
――そう言うとシンジはゆっくりとゴーグルをつける。
シンジ「登るぞ」
アキラ「無理だって! 絶対、触らない方がいいって……」
――機体が膝を付き、倒れこむ。
巻き上がる砂埃とスクラップ。
シュっと音がして、機体の胸部が開く。そこはコックピットだった。
そこには男がいる。
体中にコードが刺さり、張り巡らされた機械に埋もれているが、男の服装はどことなく古めかしい時代を感じさせる。それは第二次世界大戦中のパイロットスーツのような感じだ。
男は震えながら、子供達を見ると自らの首を伸ばして、コックピットから乗りだすように彼らに近付こうとする。
しかし、男に絡み付く機械がそれを許さない。
震える男の目のアップ。
前髪が小刻みに震えている。
震える前髪が、徐々に砂になってこぼれ落ちる。
驚く兄弟の前で、まるでソドムとゴモラの神話に出てくるロトの妻の塩柱のように、男はみるみるうちに砂柱になり、崩れ落ちてスクラップの丘に降り注ぐ。
それまでコックピットの男に絡み付いていた機械がうねうねと動き、それが女性の形状をしている機械の腕だった事がやがてわかる。
後ろから男を抱擁していた等身大の機械の女。
白い指、細い首筋、豊満な胸。
しかし手の甲からは色とりどりのコードが延び、背後はびっちりと精密な機械でできている。
白い皮膚の内側で機械がエアーを吐き出す独特の音が聞こえる。
女が微笑む。
ウズメ「こんにちは、私はウズメ。このクロノダイン(CHRONODYNE)『アマテラス』の制御AI……あなたたちのお名前は?」
高度な音声合成による抑揚のある声だ。

○オアシス上空
――時空変動の影響により、上空の空が歪み、其処を中心に虹状のリングが次第に拡がる。
その眼下にオアシスと工場、そして無限に広がる砂漠が見える。
雲の切れ間から幾つもの『アマテラス』と同系列の巨大ロボット、クロノダインが徐々に降下してくる。其れ等は『アマテラス』がオリジナルだとすると、その後に作られた量産型だと思われる。
オアシスの住民達は、突如現われた大きな人型機械に驚き、呆然と立ち尽くす。
オアシスを警備している兵士たちが城壁付近に集まり、城壁に備え付けられた砲台が、錆付いた音を響かせて標準をあわせる。
轟音と共に、砲台がいくつも火を吹く。
硝煙と舞い上がる砂で、周りが何も見えなくなる。
もくもくと上がる硝煙。
クロノダインを中心に砂埃が消え、視界が開ける。
開けた視界の中で、クロノダインたちは無傷で、大砲の弾は空中に静止している。
静止した弾がゆっくりと下降していく。
それはまるで物理法則を無視したようなゆったりした下降で、砲弾はふわふわと空を降りてくる。
そして砲弾は空中で突然弾ける。

   ×    ×    ×

○砂漠の真ん中にある廃棄物処分場
――スクラップの丘をアキラとシンジが歩いている。両手に工具をたくさん持っている。
アキラ「本当にバラすのかよ、にいちゃん。見ただろアレ……ちょっと普通の機械じゃないぜ」
シンジ「だからバラすんだよ。絶対にオアシスの連中は欲しがるだろ!」
アキラ「でも、ウズメだっけ? AIが乗ってるじゃん。あいつはどうすんだよ」
シンジ「切り離して売るさ」
アキラ「ひでえの……」
――シンジは手に持った工具を乱暴に地面に置く。
シンジ「食って、生きていく為にしょうがねえだろ!! かあちゃんはもういないんだぞ!」
シンジの背後を指差しながら驚くアキラ
アキラ「……かあちゃんだ」
シンジが振り返ると、そこには、アマテラスの足元で、ショータローを寝かし付けるウズメが。
優しいその面影は母を思い起こす。
シンジ「なにしてんだ!」
ウズメ「この子、寝ちゃったわ」
アキラ「……本当にロボットなの?」
シンジ「アキラ、騙されるな! こいつはプログラムで動いている人形だ。かあちゃんなんかじゃねえ!」
ウズメ「アマテラスを解体する気? 馬鹿な子ね。アマテラスと共にあれば、強大な力が手に入るのに。一時の空腹の引き換えにあるのは虚しさだけよ」
――シンジは、工具を拾い上げる。
シンジ「オレ等は子供だから、そんな事わかんねえよ!」
ウズメ「私を解体した部品をお金に換えて、食べ物を買って、お腹が一杯になって……今度はいい服が欲しくなって、お金が足りなくなって……ねえ、そんなの繰り返してもつまらないと思わない? アマテラスと一緒に鳥かごを出ましょう」
アキラ「鳥かご?」
ウズメ「アマテラスはクロノリープと呼ばれる時空間移動ができるけど、その力を手に入れようとする人たちが、クロノリープ出来ないように空間にロックをかけるの。それが『鳥かご』。一度鳥かごに入れられてしまうと、なかなか外には出られないの。出たとしてもカナリアが告げ口をして、追手にすぐにみつかってしまうわ」
アキラ「何言ってるのかよく解らねえ」
ウズメ「つまり仲間がいないと駄目なの……友達がいないと。アマテラスは一人では旅ができない寂しがり屋なのよ」
シンジ「そんなの、あんたがいるじゃないか!」
ウズメ「私は代弁者。アマテラスの外部端末にすぎないの」
シンジ「友達なんかよりも、今のオレ等に必要なのはメシなんだよ!」
――ショータローが目を擦りながら起き上がり、とことこと歩いて夕日を指差す。
ショータロー「にぃちゃん……太陽が落ちてきたよ」
――赤い夕日をバックに、オアシスの方角がちかちかと白い光を放つ。
数秒遅れて爆発音が響く。
霞んだオアシスが、クロノダインたちの襲撃を受けている。
ウズメ「もう、彼らがやってきた」
アマテラスが起き上がり、ウズメから離れ、空に浮かぶ。
夕日でシルエットになったオアシスが崩れ、そこから二機のクロノダインが工場の煙の尾をひいて飛んで来る。
上空で応戦するアマテラス。
アマテラスはふわふわと優しく動きながら、柔軟にクロノダインの砲撃を交わす。
ウズメ「アマテラスの矛を受けなさい」
アマテラスの背後の羽のような構造物が持ち上がり、背中で大きな輪を組み上げる。輪は太陽の光をギラリと照り返し、その瞬間、砂漠に砂柱が立つ。砂柱は威力を緩めず不安定な弧を描きながら、一機のクロノダインを包み込みバラバラに解体する。
同時に、その背後にあったオアシスの工場も弾け飛び、可燃性のガスに引火して、火柱に変わる。
呆然と見守る兄弟たち。
火柱の向こうから、クロノダインがもう一機、凄まじい勢いで突進してくる。
砲撃を受けて、スクラップの丘のスクラップが弾け飛ぶ。
シンジは弟たちを守ろうとかばうが、ショータローが撃たれて小さな身体が跳ねる。
その衝撃でショータローは握っていたボルトを落としてしまう。
それを見たシンジが咄嗟に手を出して、ボルトを掴もうとする。

○回想シーン
――大小様々なボルトの入ったかごを村に持ち帰るシンジ。商人(ジャンクブローカー)は、めんどくさそうに小銭をシンジに握らせる。
小銭を見つめるシンジ。
シンジ「こんだけじゃ、ショータローのミルクだって買えねえよ!」
商人「だったら、もっと沢山持ってきな!」
シンジ「もっと沢山……」

   ×    ×    ×

○砂漠の真ん中にある廃棄物処分場
アキラ
「にいちゃん!!」
シンジが撃たれて倒れる。
シンジの手はほんの少し、ボルトに届かなかった。
ウズメ「なんと浅ましい……欲」
――瀕死のショータローを抱きしめながら、シンジを抱き起こすアキラ。
シンジの目には、既にアキラもショータローも映っていない。
シンジ「ボルト……ボルトをもっと……」
そう力無く呟くと、シンジは息絶える。
アキラ「ウソだ! こんなのはウソだ」
――なおも迫ってくるクロノダインたちの攻撃。
アマテラスは空中でふわふわと応戦し、クロノダインたちが爆発するたびに、ウズメの髪がふわりと揺れる。
ウズメ「さあ、こんな世界は捨ててしまいなさい。アマテラスと共に行きましょう」
アキラ「もう嫌だ、こんな世界は! なんのために生きてきたんだ。アマテラス一緒につれてってくれ!」
ウズメ「行きましょう。あなたはここでは何も手に入らない」
――ウズメがアキラを後ろから抱きしめる。
ウズメからコードが延び、アキラの身体に深く刺さっていく、慟哭。
コードはうねうねと捩るように螺旋を描きながら、空中のアマテラスに届く。
ウズメはアキラを抱いたまま空に引き上げられ、アマテラスの体内に納まる。
周囲の音が消え、そよ風が荒廃した砂漠をなでていく。
風は、アマテラスを中心に、弧を描いて周囲に広がっていく。
風になでられた物は吹き飛び、散り散りになっていく。
オアシスも、工場も、スクラップも、小さな村々も。
アマテラスは光の点になって、時空を駆ける。

○アマテラスのコックピット
ウズメ「ありがとう。鳥かごを飛び出すためにあなたがどうしても必要だったの」
――アキラは、目の前で砂の柱になった男を思い出し、自分の末路を知る。
ショータローやシンジの顔が順に浮かんだ。
ウズメ「鳥かごを出る為には生態エネルギーが必要なの。アマテラスがいるかぎり、追っ手のクロノダインたちは無限に世界を壊していくわ。彼等はそうプログラムされているから」
アキラ「君だって……人間を餌にして生きるようにプログラムされているじゃないか」
ウズメ「そうね。人間も何かを犠牲にして生きているでしょ」
アキラ「そうだよ……ボルトを……食べて生きているんだ……」
――時空を跳ぶアマテラスが、大きな光に飲み込まれていく。
大きな光はやがて、太陽になる。

   ×    ×    ×

○日の当たる部屋
――太陽を眩しそうに見つめる白髪の老人。下半身が動かない。

「ショータロー」
老人はそう呼ばれた気がして、古ぼけたボルトに目をやる。
小さな女の子がドアから勢いよく入ってくる。
女の子「おじいちゃま! 大変! おおきな銀色のロボットが空から降ってきたのよ! それはもう大きなロボットなの! でもね、なんか不思議なの。父さんは身体の水分を外に排出してるんだって言ってたけど、そのロボットね、涙を流しているんだってば!」

――了




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