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安倍政治 100のファクトチェック 南彰、望月衣塑子 安倍政権のファクトチェック決定版

ファクトチェックとは、首相、閣僚、与野党議員、官僚らが国会などで行った発言について、各種資料から事実関係を確認し、正しいかどうかを評価するもの。トランプ政権下の米国メディアで盛んになった、ジャーナリズムの新しい手法である。本書は、朝日新聞でいち早く「ファクトチェック」に取り組んできた南彰と、官房長官会見等で政権を厳しく追及する東京新聞の望月衣塑子がタッグを組んだ、日本の政治を対象にした本格的ファクトチェック本。第二次安倍政権発足後のさまざまな発言を100の項目別に整理し、○、△、×で判定。何が「嘘」で、何がフェイクなのかを明らかにした。平成末期の日本政治を記録する、貴重な資料でもある。
森友学園の疑惑に関連した答弁では、2017年2月参院予算委員会で民主党の福島議員が「土地購入や設置認可の過程がおかしい。安倍首相の妻昭恵さんが、森友学園の名誉校長になっていることと関係があるのか?」と問うたところ、安倍首相は「私や妻が森友学園の認可に関わっていないことは、明確にさせていただく」と答弁したが、実際は2017年3月の証人喚問で籠池理事長が「2015年秋に昭恵氏に国有地の賃貸条件について相談して、昭恵氏付き政府職員の谷査恵子が財務省からの問い合わせ結果を自分にファックスで送った」と証言している。最終的に2016年6月に払い下げられた時には学園の負担額は学園側の希望額になっている。
また財務省の決済文書や交渉記録には、安倍昭恵氏に関する記載があった。2018年5月の参院予算委員会で安倍首相は「籠池理事長の国有地払い下げについての問い合わせに、昭恵氏付き政府職員の谷査恵子が自発的に財務省への照会しただけのこと」と答弁したが、実際は財務省の交渉記録には「昭恵総理夫人に国有地払い下げについての照会があり、昭恵氏付き政府職員の谷査恵子が財務省に問い合わせた」とある。
2017年3月の参院予算委員会で民進党の初庵議員が「森友学園から埋設物があった際の金額の指示はあったか?」と聞かれた際、佐川理財局長は「そういう価格については、こちらから開示していない」と答弁したが、実際にはジャーナリストの菅野完氏が入手した音声データには近畿財務局と森友学園の金額交渉していた様子が録音されていた。その中で財務局担当職員が「国有地払い下げについて理事長がおっしゃる通りの額に近くする努力を今やっている」と発言している。2018年5月に開示された交渉記録にも、同様な記載があった。
アベノミクスについては、2018年3月の衆院本会議で安倍首相が「名目上GDPは、58兆円増加しアベノミクスは成功した」と答弁しているが、金融緩和による底上げに加え2015年に改定したGDPの基準による嵩上げという批判が根強い。
働き方改革の裁量労働制の対象拡大を取り入れた法案について2018年1月の衆院予算委員会で安倍首相は「裁量労働制で働いている人の方が、労働時間は少ない」と答弁していたが、実際は「労働政策研究・研修機構」が「裁量労働制で働いている人の方が労働時間が長い」という調査結果が出ているのを安倍首相は答弁準備の時に知りながら首相答弁で触れず厚生労働省が不適切な調査をした結果の方を根拠とした答弁をした。厚生労働省の調査結果の原票は加藤厚生労働相は「調査票はなくなっている」と答弁したが、実際は厚生労働省の地下倉庫から見つかった。
2013年9月の国際オリンピック委員会で安倍首相は「福島第1原発から出た汚染水は完全にコントロールされている」と答弁したが、実際は2013年8月に汚染水を貯めているタンクから約300トンが漏れていた事故も明らかになった。
2016年2月の松本市内の講演で丸川珠代環境相は「福島第1原発の追加被曝線量の長期目標となっている1ミリシーベルトは、当時の細野環境相が科学的根拠もなくここまで下げると決めた」と発言しているが、実際は1ミリシーベルトという被曝線量は国際放射線防護委員会が決めた基準値を元にしたもの。後に丸川珠代環境相は、発言を撤回している。
2016年10月の参院予算委員会で稲田防衛相は「2016年7月南スーダンで多数の死者を出した出来事を戦闘ではなく武力衝突であると認識している」と答弁したが、実際は2017年2月に開示された陸上自衛隊の日報には「戦闘」と記載されていて実体と解離しており、稲田防衛相が「事実行為としての殺傷行為は行われたが、憲法9条に触れる言葉は使うべきではないということで、武力衝突という言葉を使った」と説明したことは非難された。
自衛隊を憲法への明記を掲げる安倍首相がその根拠に持ち出したのは、採択されている多くの教科書で「自衛隊は違憲」という記述があるということだが、中学の教科書ではそのような記述はない。「自衛隊が違憲ではという議論がある」という記載が、あるだけ。
共謀罪の主旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正を安倍首相は「テロ対策目的に国際組織犯罪防止条約を締結するため」としているが、既にテロ対策防止の国際条約を13本締結しており、テロ対策防止のために共謀罪をというのは強引な理屈。
それ以外にも菅官房長官の会見でのファクトチェックにも踏み込んでおり、最近でもアベノミクスにより雇用改善したと説明されていたことが勤労統計などのデータ改竄による虚異なものだったことが発覚したり、印象操作や事実や数値の操作やねじ曲げなどを織り込む安倍政権の会見や答弁に騙されないためのファクトチェックする時の有効な資料となるファクトチェック本。

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