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黒塀の梅

黒塀の梅 

波しぶきが崖にうちつけている

大きな白鷺が飛び立った

月光がさして船が進んでいく

漁師たちは海から網を引きホタルイカを甲板にあげた

レインコートを羽織った彼らは無言で作業を続ける

闇が覆い尽くす中で水の音だけが現実を結びつける

漁を3時間ほどで終えると東の空に薄っすら陽が出る

黒い雲は曖昧模糊に鈍く塊になって密集している

エンジン音がブロロンブロロンと鳴り響き海洋を弾く

漁師の頭の中では渋いジャズが鳴り響いている

チャーリーパーカーやソニーロリンズのイメージが湧く

猛々しい男の額は二重の皺になり経験を物語っている

手袋は水浸しで網を握って離すことはなかった

この無限にも思える時間はずっと続くように感じる

永遠の夢に触れながら漁師たちは七輪で烏賊を焚く

パチパチと美味しそうな匂いが焦げと共に立ち昇る

暴れるような嵐が近づいている感触に襲われても無感動だ

炊き立ての米に烏賊を乗せて醤油をかけて一気にかき込む

何の感情も介在しない船の上の孤独の旅路に潜り進む

日光が強くなってきてジリジリと皮膚が陽に焼けていく

頭の中のラジオはビルエヴァンスのソロプレイになる

島が見えてきて茫洋な水平線が陽炎のようになっている

橋がかかっていて彼は船をそこに近づけていく

何人かの人たちがホタルイカを待ち侘びていたように現れる

水が溜まった発泡スチロールに烏賊を詰め込んでいく

その動物はまだ生きていて少し跳ねて逃げ出そうとしている

EDM音楽が島の真ん中から聞こえてきた

祭りが始まったらしい

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