
【DAY PEOPLE Vol.3 田原聖也】 デザインすることではなく人と関わることが「仕事」
企画、デザイン、設計、運営の領域を横断しながら「新しい場所と価値」を生み出す活動をしているニューディベロッパー・DAY。
連載【DAY PEOPLE】は、そんなDAYで働いているスタッフが「日々考えていること」にフォーカスを当てたインタビューです。
3人目の語り手は、デザイナーの田原聖也さん。DAYで働く中で変化した考えや大切にしていること、これからの夢についてインタビューしました。
プロフィール
田原聖也(たはら・せいや)
1988年大阪生まれ。大阪デザイナー専門学校インテリアデザイン学科を卒業後、約6年間施工会社にて物販や飲食店等の現場管理・設計に従事。その後、インテリアデザイン事務所にて商業施設の設計に携わり、2018年DAY inc.入社。自社事業のクラフトビアバー「HANTICA」、嵐山のホテル&レストラン「儘」「嵐山邸宅MAMA」の設計・デザインの担当、外部案件も携わる。
「感覚が似ていそう」と引き合わせられて

―田原さんはDAYの一人目の社員だったそうですね。
はい。2019年入社なので、今ちょうど5年が経ったところですね。
ーその前は何をされていたんですか?
専門学校を卒業後、大阪の施工会社に入って、物販や飲食店などの現場管理や設計に携わっていました。そこで6年ほど働いたんですが、そのうちインテリアデザインの方へ進みたくなって。東京のインテリアデザイン事務所へ転職して、1年半ほど商業施設の設計に携わっていました。
ーDAYに入るきっかけは何だったんでしょう?
友人が「なんとなく感覚が似ていそうだから」と、DAY代表の渡部を紹介してくれたんです。実際初めて渡部と食事をしたとき、お互い着ているTシャツが色違いでびっくりしました(笑)。しかも会計のときに財布を出したら、それも同じブランドのもので。
ーすごい! 本当にお互い好きなものが近かったんですね。
だから紹介してくれたんだなって納得しましたね。その頃すでに渡部はDAYとして京都で活動していたんですけど、そのうち「人が足りないから来ないか」と話をもらって。それで京都に引っ越して、DAYに入ったって感じです。

ーDAYに入る決め手はなんだったんですか?
前職では商業空間で物を売るお店のデザインに携わっていたんですけど、僕自身、社会人になってから一人旅をすることが増えて、非日常のホテルの空間に憧れるようになったんです。それで、いつかホテルのデザインをしたいなと思うようになりました。そんなときに渡部から京都でホテルやゲストハウスの設計の仕事をしていると聞いて、自分のやりたいことに近そうだなと。
―実際、その期待通りでしたか?
そうですね。自社設計では「儘・嵐山邸宅 MAMA」の設計からデザインを担当して、クライアントワークでもゲストハウスなど複数手掛けさせていただきました。あとはクラフトビアバー「HANTICA」を始めDAYの店舗が入っている御幸町ビル全体など、自社事業の設計デザインにはすべて関わっています。
自分の「かっこいい」は人のためになっているか?

ーDAYに入ってから、一番印象的だったことはなんですか?
僕が入社した当時、DAYは設計とデザインのみを行う会社だったんですけど、途中で渡部から「サービス業も始めようと思う」という話があったんです。渡部は設計をする中でずっと「自分たちはお金をもらって店舗を作っているけれど、その後の運営に何の責任も負わないのはおかしいんじゃないか」と思っていたらしくて。
ーはい、はい。
「どれだけかっこいいお店を作っても、お客様にとって居心地が良くなかったり、スタッフにとって使い勝手が良くないと、お店って簡単に潰れる。それに対して僕らが何も負わないのはどうなのか」と。だから、自分たちでもお店をやろうという話だったんです。
ーそれを聞いたとき、田原さんはどう思いましたか?
それまでは「お金をもらってお店を作って終わり」っていうのが当たり前だったので、結構衝撃的でしたね。かっこいいものを作らせてもらうだけで満足していたところから、180度変えられるような意見だったんで。
でも、確かにその通りだなと思ったので、もうイエスしか言いようがなかったです。だから何の疑いもなくついていきました。その第1店舗目がビアバー「HANTICA」なんですけど。

ー「作って終わり」から「作って育てる」へ変わっていったわけですね。それは田原さんにとっても大きな変化だったと思うのですが。
そうですね。まず、働く仲間が変わったのは大きかったです。サービス業のスタッフが増えて、DAY全体の雰囲気が大きく変化していきました。今まで僕は設計事務所の雰囲気しか知らなかったので、その変化についていくのはなかなか大変でしたね。
ただ、実際に現場のスタッフやお客様のすぐそばにいられるようになったので、ものすごい量のフィードバックがありました。

ー例えばどんな?
一番大きかった気づきは「自分が『かっこいい』と思っていても、人のためになっていないこともある」ということです。例えば設計士としては、空間の美しさをキープするために、照明をつけるスイッチなんかはなるべく存在を消したいわけです。それでスイッチを収納の中に隠したりするんですけど、スタッフはわざわざしゃがんだり扉を開け閉めしないといけない。それを毎日やるのはしんどいという声を複数もらいました。それで僕も実際にやってみたんですが、確かに面倒くさいなと(笑)。
―ああ、そういうことは現場で動いてみないとわからないことですよね。
どれだけ素敵な空間でも毎日ここで働くとなったらどうだろう、と具体的に想像できるようになりましたね。
あとは「水ハネで壁が傷みやすい」とか「この作りだと汚れやすい」という意見もよくもらいました。建物や空間って完成した時が一番きれいなので、使っていくうちに汚れたり古びたりしていくんですよね。そこまでイメージできるようになってからは、いかに長く美しく保てるかを考えてデザインするようになりました。そんなふうにいろんな気づきをもらって、考え方が一気に変わったなと思います。
人と関わることが「働く」こと

ーその他にも、DAYで働く中で考え方が変わったことはありましたか?
「食」に対して興味を持つようになって、世の中の見え方が変わった気がします。以前は建築、インテリア、プロダクトなど、デザインだけに興味があったんです。でもDAYがサービス業を新たに展開する中で、食べ物がどのように人に印象を与えるか、それに空間やプロダクトのデザインがどう影響するかなどを考えるようになりました。食を通じて、デザインの解像度がより高くなったように思います。
ー先ほどのスタッフさんからのフィードバックもそうですけど、田原さんの興味が外側のデザインから中身のコンテンツへと移っていっているのを感じます。
ああ、それは仕事観についても言えるかもしれません。今まではデザインや設計をすることが自分にとっての「働く」だったんですけど、DAYで過ごす中で、人と関わることが「働く」なんだなって思うようになりました。
もちろん今までもいろんな方と関わってきたんですけど、以前は「僕はこういうデザインができますよ」「こういう提案ができますよ」と自分から話さないといけないと思っていたんです。でも今は「最近はどうですか? 何か困っていますか?」「どんなことをしたいと思っていますか?」と、相手のお話に耳を傾けるのもすごく大事だなと。その両方をいいバランスで持っておくことが気持ちよく「働く」ってことなのかなと思うようになりました。それがDAYで勤めてから大きく変わったところですね。
―まさにDAYと田原さんの成長過程が重なっている感じがしますね。
そうだと思います。
譲れないものを持つと頑張れる

あとは月に1度、全社会でいろいろな方にゲストとして来ていただいて、「会社とは何だろう」とか「コミュニケーションって何だろう」みたいなことを教えていただく機会が増えたのも、僕にとって大きなことでした。
僕は基本的に「会社は仕事をするところで、友達を作りに来る場所じゃない」と思っているですよ。古臭い考え方だとは思うんですけど、特に昔はそれが色濃くて、一人で黙々と仕事をするタイプだったんです。
でも、組織やコミュニケーションについて学ばせてもらううちに、それは自分の物差しでしなかったなと反省するようになって。一所懸命仕事をしていても、はたから見ると声をかけづらいとか、怒ってるように見えることもあるだろうなと気づきました。特にここ数年は後輩もできたので、自分が機嫌よくいられる工夫をしたり、ちゃんと弱みも見せてみたり、いろいろ試行錯誤しています。
ースタッフも増えて平均年齢もだいぶ若くなったでしょうし、コミュニケーションの取り方も変えないといけない時期だったんですね。
そうなんです。一方で、今のDAYはみんな仲良くてすごくいい雰囲気なんですけど、単に仲良いだけじゃなくて、プロフェッショナルのチームとして自律してやっていくにはどうしたらいいかなと、僕の中ではずっと葛藤があります。
ー緊張と緩和のバランスというか。
そう、そのバランスが難しいです。
ーそれについては、どうアプローチしていこうと思われているんですか?
まずは「プロフェッショナルってどういうことなの?」ってことをみんなで話し合わないといけないなと思っています。きっと人それぞれ答えが違うと思うのですが……。と言いつつ、自分が聞かれたら困る質問なんですけどね。
ー今まさに田原さんに聞こうと思っていました(笑)。

ですよね。準備すればよかったな(笑)。そういえば、ちょうど昨日の全社会で渡部が「粘ること」だって言っていたんですよ。確かにそれも一つだなと思います。……うーん、でもそうですね。僕にとっては「プライドを持つこと」かな。自分の中で譲れないものを持つと、しんどいときに頑張れるから。
ーなるほど。渡部さんの定義と繋がっている感じがしますね。
そうですね。うん。もしかしたら、人それぞれ回答が違っていても、今みたいに繋がるのかもしれない。
ーDAYにはさまざまな仕事があるけれど、今みたいにそれぞれの「プロフェッショナル」が重なる部分はあるんじゃないでしょうか。そこが共有できると、「じゃあ自分はプロとしてどう表現しようか」と一人ひとりが自分らしく考えられますよね。
うん、確かに。いいですね。そこらへん、みんなで話し合ってみたいですね。
ーぜひ。どんな言葉が出てくるか、私も楽しみにしています。では最後に、今後実現したい夢を教えてください。
今は建物や空間のデザインをしていますが、今後はプロダクトデザインにも力を注いでいきたいなと思っています。生活に深く根付いたプロダクトを作って、長く愛されるものを作りたい。幸運にも僕らは京都という魅力的な場所に拠点を置いているので、そのブランドをもっと活かして、ゆくゆくは海外でも仕事をしたいですね。
ーこれからどんなものが生まれるのか期待しています。ありがとうございました!

取材・文 土門蘭
写真 辻本しんこ