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2020年3月の記事一覧

月の夜に

月の夜に

人は月まで行き
一歩を踏み出せているのに

ちっぽけな僕らは
一歩が踏み出せない

踏み出す先がとても見えにくく
不安で壊れてしまいそうだから

僕が半歩 君も半歩
二人で歩み寄ればいい

僕らの未来

大切な 大切な
二人で一歩

記憶の薄らい

記憶の薄らい

彼女が眠るその場所へと
歩を進める

忘れないと誓ったはずなのに
時間は残酷にも過ぎていく

思い出せるのは
最後に微笑んだ
儚げな横顔だけだった

薄れていく記憶を
繋ぎ止めようと
幾度となく
頭の中でその姿を再生する

嬉しさも悲しさも
淡く溶けて滲んでいく

全て消えないように
全て失わないように

それでも いつかは
忘れ消えゆくのだろう

その日までは
覚えていたい

彼女を愛した全ての

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言葉の渚

南極を目指す渡り鳥
知床の川を遡上する鮭
雄を食う雌のカマキリ

みんな知っている
生き方も 死に方も

意思なんて
ちっぽけなものに
惑わされることもなく

意味なんて
大それたものに
囚われることもなく

地球は今日も

賑やかに
沈黙している

通行人Aの視野

歯車が狂い出した この世界で 誰かが今日も
落ちかけそうな恋に 頰を赤らめているんだって
歩道脇スレスレを行く車に気を取られていたら
前方の歩行者とすれ違うなり 舌打ちされる現実

寝て起きて 最初に思った事が
『会社は愛情を貰う為に行くのではないのだ』
夢で告げられた一言のせいで 口がやけに渇く
悪夢の続きは 現実のスクリーンでレイトショー

評価と報酬が貰えない組織に 未来を預けて

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放蕩息子の行方

場末の朽ちた聖堂 妖しげなアンティークと燭台
黒い服で 朗読台に足を掛けて座っていた神父
長い前髪の間に覗く瞳 鴉の背中を撫でて云う
君の善意につけ込んで 愛しても 構わないかい

綺麗なものしか見たくないんだ
だから君を呼んだの
会えない織姫より 会える偶像 いや どれも嘘
君はどちらでもないから
そばにいて 真実のマリア

困難な日 祈りで君は救われたことがあったかい
十字架捨ててこっ

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物書きって旅人みたい。
それも、目的地を持たない放浪型。どこにたどり着けるかなんてわからないけれど、どこだっていいよ。
道をたどっても、行きたいところへはたどり着けないから。

花束を持った男の子が電車のシートで涙ぐんでいる

花束を持った男の子が電車のシートで涙ぐんでいる

野原で見つけたものはみんな宝物だった頃、わけのわからないものを拾った。
柔らかくて、でも硬い芯があって、それでいてポケットに入れるのをためらうくらいのトゲが生えていた。

窓の下に置いておいたら、いつしかそいつは羽を広げくちばしを尖らせお話を始める。
それって、世界の秘密。
私がここにいていいことの証。

両手でそっと包んで空に投げたら、もう二度と帰ってこなかった。
たった一枚青い羽を残して。

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春の神話

その昔、
人間が生まれる前の日本には
四季の女神がおりまして

太陽と風と水に
教わりながら

花や虫、鳥や獣を 
たくさん 創り出しました



始まりますね と 誰かが言った

いよいよですね と 誰かが答えた

桜たちは
梢をたわませるほどに
膨らんだ無数の蕾を抱え、

今か 今かと
その時を待ち受けていた 

そして
冬籠もりを終えた
虫たちの声に促され

一斉に

柔らかな
薄紅の羽衣

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