見出し画像

インクへの恋。Rainbow Palette の『神峰の色』8色インクセットを買ったのよ。

●小さな頃からインクには憧れがあって、特に瓶入りのインクは売り場に並ぶカラーインクの瓶を眺めるだけでも何時間も過ごせた。父に連れられて丸善のインク売り場に行ったのは何十年前のことだったか。

●インクは実用品であると同時に趣味性が高い(文具って、そういうものだ)。だから、画材として用いられるカラーインクは、パッケージも面白いものが多く、店頭鑑賞の対象としては最高。

●問題はそのインクで何をするかなのだ。インクに惚れる、というのは実は残酷な話で、食べ物や造形品と違って、インクはそれ単体で愛することが難しい。飲み込むわけにいかず(飲むと色がわからない)、抱きしめるわけにもいかず(まさか液体を被るわけにもいかないから、インク瓶を抱くことになり、それは宇宙服の美女を抱きしめるようなもので、かえってもどかしい!)、インクにアクセスするには『何かを描かなければ』ならないのだ。

●そんなもどかしい恋愛対象がついに手中に落ちた。Ink lab. Rainbow Paletteの『神峰の色』シリーズ8本組だ。バラでも買えるのだけど、小ロット生産の初回生産分で、しかもボトルやパケージがそそるので早く手にしなければ売り切れる!と、迷わず8色全部セットで注文したらなんと、特別にセット用の箱まで手作りしてくれました。ラボから近い市川市の『道の駅』で直接お目にかかり、受け取りました。まずは8本揃った絶景をご覧ください。

画像1

●インク作者は高橋貴子さんと嶋倉恭子さん。高橋さんはガチの職人肌とガチの前衛感覚を具有する貴重な美術作家しかも職業デザイナー。嶋倉さんは今世界に一番必要な『スーパー目利き』。高度な審美眼と評価眼の持ち主。

●高橋さんのお父様は現役のインク製造者。現役の職人であり、現場の科学者。インディペンデントのインク製造をしながら、実は大手有名メーカーの人気色のレシピを持ち、実際に配合もしているという貴重な方。

●そんな『実家』で生まれ育った高橋さんは、人生の中で触れてきた『色』のアレコレを背景に、まさにその職人気質と科学者的探究心を引き継いで、このインディーズ・ブランドに挑戦したというわけです。

画像2

画像3

●ラベルを実用品的なフォーマットのデザインにしたことで、かえって、このシリーズが持つ色のキャラクターが際立ちました。これは、相当に研究しなければ導き出されない結論。だって、タイトルの『神峰』は常陸国に実在する霊山で、そこからいろんなモチーフを借りてパケージに盛り込むこともできたのです。お土産品感覚ならそっちの方が売れるかもしれない。

●しかし、このラベルにシンプルに示された色とタイトルは、かえって『作品の神秘性』を際立たせ、まさに瓶の中の世界(それは神峰山と結ばれている!)と外とを聖別しているがごとし。中身のインクに全ての関心と感覚を惹きつける素晴らしい演出。通好みですが、日本の伝統美は、まさにこうしたシンボル化や洋式化にこそ本質があるわけで、この瓶のよさがわからぬ人にこのインクが使いこなせるか、とさえ思います。手は出せても心まで落とせない悩ましい相手。インク沼という、ほとんど恋愛の苦悩みたいな世界に引き摺り込む相手としては最強です。

画像4

●色はこの8つ。どれもニュアンスを含んだ複雑な色味ですが、紙の上で解けてゆく時にいろんな光を発します。だから、書き手がわからない色もでてきます。まさに、インクとデートするようなワクワク感。

●色を解く遊びは紙の上ばかりではありません。『神峰の朝』は、他の色を薄めるためのものですが、これを『無彩色インク』と数えてラインナップに入れているところが素晴らしい。これでインクと水中デートを楽しめます。

●そして『神峰の夜』はblackとは書かれていますが、ペンや紙によってニュアンスの変わる『揺らぐ玄(くろ)』です。大地と宇宙からより集まったあらゆる色が積み重なってできたクロ(炭に繋がる黒ではなく、特別に『玄』と書く)が、ペンや筆によって微妙に解けてゆく楽しさがあります。微妙が『絶妙』になるかどうかは、書き手次第。真夜中のデートは深さと優しさで勝負。

●『神峰』シリーズはトータルに設計されたシリーズなので、たとえば一枚の紙にめちゃくちゃに書き散らしても汚くなりません。全て神峰から産まれた色なので、寄り集まれば神峰山の神秘に近づくわけです。だから、すごく近寄りがたい雰囲気はあるけれど、こころを緩めてこの世界に飛び込めば、優しく、寛容に受け止めてくれるインクでもあると思います。だから、カリグラフィーを習ったことがない、とか、絵心がない、なんて思っている人にこそおすすめします。白い紙にただの渦巻きを描いただけで、ただならぬ味わいが出てきます。今まで描いたことがないような渦巻きができますよ。素人と自称しているような謙虚な人こそ、このインクで気持ちを輝かせて下さい。自分が世界一の画家に、書家になったような気持ちになれますよ。まずは自分から気持ちよくなりましょう。

画像5

●二人で勝手に試し書きをしていたら、こんなになりました。竜胆色、深紅は文字通り『出色の出来』。さらに、蜜柑や光藻の優しさ。蒼の拡がり、碧の引き込むようなチカラ。こんなにまぜこぜに乱書きしても、美しいでしょ? そのまま額に入れて壁に飾れます!これが『神峰の色シリーズ』の実力なんですねぇ。

●Rainbow Paletteの『神峰の色シリーズ』インクに関する情報はこちら。お早めに!

またはInstagramで、こちら。

●とにかく、生産量が少ないので、お早めに!





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?