見出し画像

シンお笑い大惨寺超短編4月募集「ガマン大会」500文字以内の選評結果

シンお笑い大惨寺超短編競作大会 4月
題「ガマン大会」500文字以内
撰者 タカスギシンタロ

【撰者より講評】
「笑い」ってなんでしょう? いろんな人がいろんなことを言っていますが、難しいですね。大惨寺のキビシイお題にヒイコラしているわれわれの姿はきっと側で見ていて面白いに違いないでしょうけど……。超短編は物語のカケラ。それ自体、不完全なものだから、無理に面白くしようとしなくても、どこか不思議に笑えるものになる気がします。
 さて、今回のお題は「がまん大会」。ぐぐっとストレスを感じる作品が集まりました。以下、選評です。

<<最優秀作品>> 1本

【06 緑青】

「いけ!囲い込め!」
群れで最古参のアルファが吠え立てる。
私は、必死に逃れようとする鹿の喉元噛みつき、牙から伝わる鮮血を味わう。
縄張り争いで元の群れを追われた私は、アルファより年長ではあるものの、群れの序列では最下位に甘んじている。
鹿の筋肉や筋を噛み分け終わると、真っ先にアルファが、奥で赤黒く光る内蔵を貪りはじめる。
他も順に、次々に獲物へと群がっていく。そうして柔らかい部位の肉はたちまち無くなっていってしまった。
いつからだったろう。コイツらのクチャクチャと肉を咀嚼する音が、堪らなく嫌になったのは。
仲間があらかたの肉を引き離してしまうと、私には残った足のスジ肉が与えられた。
固い骨と肉を砕くのに苦労しながら、ふいに顔を上げると、鼻先を鹿の血で赤くしているアルファと目が合った。
なぜ、こんなにも憎らしくなるのか。ときどき、コイツの頭を噛み砕いてやりたくなる。
―殺してやりたい
そう思った瞬間、私はアルファに飛び掛かって、首元を甘噛みしていた。
「やったな!」
そうしてお互い笑いながら絡み合うと、そのまま転がってじゃれ合い始めた。
様子を見ていた仲間も、つられて無邪気に遊び始める。
耐えた。今日も私の勝ちだ。

●撰者より:血なまぐさい狩りの場面からはじまり、グループ内に渦巻く不穏な空気が最も高まった瞬間に、まさかの甘噛み。緊張と弛緩! おみごと!

<優秀作品> 3本

【07 植木屋】

 山寺の裏庭に、天体人の集まりがあった。初のオフ会で、それぞれ独特の体質を自慢げに話していた。
「私が水の中で一番長くいられる!」と水星人。
「それなら私は光の中で一番長くだ!」と金星人。
「じゃあ私は酸素がない所で一番長くだな!」と月人。
そこへ寺の小僧が近づいてくると、天体人は驚いた。
「地球人も参加するのか? 特色がないと聞いたが…」
そんな決めつけに反発した小僧は勢いづいた。
「ボクだって君らよりずっと長くいられるさ!」
 天体人は小僧の挑戦を受けることになった。最初の挑戦は池に浸かり、次にUFOで昼の地球を周回した。小僧はいずれもギブアップだ。3人の説得により、無酸素
チャレンジは断念させ、月人はホッとした。そんな小僧がうなだれているところに、和尚が現れて声をかけた。
「お前にしてはアッパレだ。よおくガマンできたな」
天体人は仰天した。声を発するぞ、と。小僧まで声をあげ和尚に泣きつくのを見て、彼らは膝を落とした。天体人はテレパスの民で聖なる音神ヤーマンを崇めている。
和尚の口はその名を象っていた。畏れ多い聖ヤーマンに話すことなく天体人は去り、その日は聖大会とされた。

●撰者より:この作品のように、くどくど説明しないで「天体人」と言い切ってしまえば良いのですよ、超短編は。嘘がバレる前に終わってしまうほど短いので……。

【12 栗家猿朝】

出たい、早くここから出たい。
じんわりと包み込むようにまとわりつく、なま温かい空気がゆっくりと締め付けてくるのだが、まだ息はできている。
閉ざされたまま、宙に浮いているのだろうか。ゆっくりと深呼吸し、首を左右に動かしてみるが感覚がない。と、強風が吹きつけ、身体全体を右へ左へと揺り動かされるがままに身を任せながら、瞼を開いてみる。眩しい光を感じることができる。やっとここから出られるのか!
「早く起きないと遅刻よ。」

●撰者より:眠りに囚われたらなかなか抜け出せませんよね。そんなときはあきらめて寝てください。夢の中で。

【16 空虹桜】

 週末のイベントに占拠されてたトー横が返ってきたから、ストゼロで乾杯してたら・・・木魚?
『南無阿弥陀仏』
 たまに虚無僧?見かけるけど、トラップっぽいビート感のお経は、なんか違う。
「『南無阿弥陀仏』を唱えよ。極楽浄土へ行ける喜びが踊りや歓喜となって現れる。一切衆生の往生は阿弥陀仏によって決定されておる!」
 お坊さんじーさんがシャウトし、歓声に木魚が応え、チンと高い音が鳴る。汚い格好の男女が不揃いに踊り、ライオン像に上った子どもがなんか撒く。
「エコじゃねぇ」
 とアキが拾うと「南無阿弥陀仏、決定往生六十万人」書いてて顔を見合わせる。客引き注意のアナウンス掻き消す「南無阿弥陀仏」がビルに木霊し、ゴジラのテーマが19時を告げる。誰かがゲロを吐く。
「自力他力は初門のことなり。自他の位を打ち捨てて唯一念仏になるを他力とはいふなり」
 再びのお坊さんじーさんシャウトでBPMが上がり、匂いで線香と野菜の区別が付かず、マツはメイドと踊りに加わる。
 なに?これ。
「来世なら幸せになれるの?」
 不意にアキが言う。
「今を幸せに出来ない人を信じない」
 答える。
「人じゃなくて阿弥陀様」
 アキの声は「南無阿弥陀仏」に消えた。

●撰者より:近未来的疾走感と爆音の南無阿弥陀仏……。2024年にしてもはや渋谷は世紀末なのか? いつか解放されるまでががまん大会!

<佳作> 2本

【02】椿亭八枝

 今日は、大惨寺恒例のガマン大会だ。早朝のお百度参りの99日目を記念し、完成の見えない四度目の短編づくりの無間地獄に取組む。まるで、舟を編む、の旅に強制連行されたみたいに・・・
 この修行には、初めたくさんの参加があったが、毎日行は正に、辛い常在ガマン大会だ。そんな中、年甲斐もなく張り切っているのが、阿99だ。この名の由来は、汲々としている様からなのか、容貌がもっちりしているからなのか、生い立ちが哭々しているからなのか、定かではない、なんて、あきらめる?・・・
 ところで、ガマンといえば、巌窟王や夜と霧などの飽くなき希望を想起する。果たして、阿99の希望はなんだろう?舟を編んでいる人たちは、何かを見出そう、後から来る人に、何か手がかりを残そうとしてるのかな・・・
 とりあえず、阿99の目的は、懸賞狙いかもしれない。聞くところによると、この後しばらくは、大惨寺参りを続けたいらしい。他に、生きがいもないのかもしれないが・・・
 編集後記:ガマンといえば、生きることはガマンなのかなと、ふと思った。しかし、四苦八苦は、捉え方次第という。阿99は、もしかしたら、ゾーンを三昧してるのかななどと、羨ましくなった。

●撰者より:ガマンの彼方に希望を見る前向きな姿勢に拍手。大惨寺というガマン大会は始まったばかり。目指せ千日!

【05】棗絽

200年ほど前、「欲しがりません勝つまでは」という標語を掲げて他国と戦っていた時代がありました。ガマンを素晴らしいことだと定義することで戦う意欲を向上させようとしたのです。その後ガマンの功罪が検討され、罪が勝ると結論が出たのが100年前。それ以来あなた方はガマンをする必要がなくなったのです。~~どこからかエアーティーチャーの声がする。今日は歴史の話なのだろうか。話を聞くことは義務ではないけれど、この住居の方針で毎日何かしらの声が聞こえる。聞きたくても聞きたくなくても。これをガマンと言うのではないだろうか。

●撰者より:ガマンから解放されたと思われる未来にもあるガマン。ガマンは人間の本性なのかも。

以上です。最後に撰者作。

【撰者】タカスギシンタロ・作

「さきにおとなになったこがまけだよ」
「なるもんか、なるもんか、おとなになんかなるもんか」
 みんな口々に囃し立てる。夏が過ぎ、秋になり、やがて厳しい冬が来て動けなくなっても、みんなは心の中で囃し立てた。
(なるもんか、なるもんか、おとなになんかなるもんか)
 そしていよいよ春が来た。どうにもこうにもからだがむずむずして、にっちもさっちも、ああ、なるもんか、なるもんか、おとなになんか、おおおおっ!
 気がつけば蝶となり、空を飛んでいた。お花畑をひらひら飛び回るが、誰一人出会わない。みんなは大人にならなかったのだろうか?
「なるもんか、なるもんか、おとなになんかなるもんか」
 そう歌ってみたものの、その言葉はもはや何の意味もなさない、ただの呪文に過ぎなかった。

================================================

互選投票の結果(ひとり2票まで投票可)

互選1位 【13】痴喜笑

 幼い頃から、我慢ばかりさせられてきた。
父子家庭の上、ステレオタイプな昭和の頑固親父。評判のプリンも、可愛い人形も、流行っていたアニメの下敷きも、すべて「我慢しろ」の一言で済まされた。東京への大学進学の時、とうとう喧嘩になった。叔母に説得を頼んだが父は納得せず、結局、叔母が入学金やら諸々を引き受けてくれることになった。 卒業して就職し、結婚相手を紹介する時、七年ぶりに父に会った。彼がトイレに立った隙に父に印象を聞いたら「あいつは駄目だ。我慢が足りん」と言われて、喧嘩別れした。結局、父の言葉通り三年も経たずして離婚してしまったけれど。
 父と断絶のまま何年も過ぎたある時、叔母から連絡がきて、突然、父は逝ってしまった。葬儀の間、何故だか、泣いちゃいけない、と思って、ずっと我慢していた。読経する坊主が三人に滲んで見えた。必死で、堪えた。葬儀の後、叔母が、大学の入学金も引越し費用も、結婚祝も、父がすべて出してくれていたと明かした。私には言うな、叔母が出しておいたことにしてくれ、と。とうとう我慢できなくなった。「まったく、お前は我慢が足りん」。父の声が聞こえたように思った。

互選2位 【01】薄墨桜餅

「死ぬもんか、死ぬもんか、生きるんだ、生きるんだ!」
「さぁ、料理しようか。どさっ。まな板に載せたら、やっと静かになったなぁ」
「そうか、生きとし生きるもの、いずれは死ぬんだ」
「おや、こいつ、覚悟したのか、目ぇをつぶりよったデェ」
「親方、そら、そうですわ、恋は盲目っていいますやろ」

入選された皆様、おめでとうございました!

=================================================


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?