「吸われる話」
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「吸われる話」

世にも美味なる夢スープ、淫夢に怪夢に酔夢に悪夢、どれもが絶品夢スープ…
「お母さんが死んだらどうしよう?」
心の中に最悪のもしもが芽生えた坊やは母親に泣きついた。
あまり力一杯抱き締めるものだから、そのまま母親に溶け込んで子宮に帰りたがっているようにも見える。
「お母さんが死んだらどうしよう?」
夜も深く、自身も眠りの只中にいた筈だが母親は嫌な顔一つ見せない。そして混じり気ない純度百の優しさを込めて、「大丈夫よ、お母さんは死なんよ」と何度も抱き締め繰り返す。「今はまだね」とさりげなく付け加えるあたり、母親の子どもに対する正直な姿勢が伺えて微笑ましい。
「お母さんが死んだらどうしよう?」
「大丈夫よ、お母さんは死なんよ」
「でもね、今見た夢の中でね、お母さん死んだよ?」
またか、と母親は思った。近頃坊やがなんとなく死の概念を理解してからというもの、そういう不吉な夢に度々うなされているようだった。
 すぅぅぅううう!!!
母親は坊やのつむじにそっと唇を寄せて、その夢を一息に吸い込んだ。何故そういうことをして、何故そういうことが出来たのか、母親自身も判っていない。無意識の領域。それから母親は恍惚の表情を浮かべては言うのだ。
「ああ美味しかった。夢スープ、ご馳走様でした」
先程までが嘘のように、憑き物が取れたかのように、ピタリと泣き止んだ坊や。その表情は幼児に似合わぬ、快楽の果てに昇天してしまった強蔵か如き背徳感を漂わせていた。

          ※

また吸われる話を書いていた。いつの間にか流れていた涙を拭う。なぜだろう。僕はなぜ吸われる話を書くのだろう。酒を飲む。意識がふやける。結果、なぜ僕は生きているのだろうまで行き着く。なぜ吸われる話を書くのだろう。なぜ生きているのだろう。二つの問いが曖昧になって溶けていく。
生き続けなければならない。本能的にそう感じた僕は、吸われる話を書き続けることにした。 【続く】


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お笑い芸人。 「文章でもお笑いを」そんな耽笑主義とも言うべき精神でゆるりと低俗に失礼します。 ネタ動画→https://youtu.be/wn8RXdVM_dk