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「振り向けば手遅れ」

 物語のイントロとか設定とか考えるのってなんでこんなに楽しいのだろうか。いざ書くのはクソだるいのに、タイトルとセリフとキャラクターだけ考えている時のアイディアの氾濫は凄まじい
 私はタイトルとセリフから話を考えていくタイプなんだけど、今回ばかりは序文を思いついた所から始まった。そんな自分が珍しくてたまらず、思わず一気に書き起こしてみた。他の登場人物もこの後の展開も何一つ考えちゃいないけど、我ながら意外と「アリ」な感じだ。またなんか思いついたら続きを書きたいですね、書けたらいいですね、書けない気がしますね。これが文字書きヤルキナシ3段活用です。

それでは聞いてください、

「振り向けば手遅れ」


 まるで徹夜明けの睡眠から目覚めたかのようだった。
 朧げな記憶と突き刺す頭痛が押し寄せ、また引いていく。充電コードを手繰ってスマホを覗けば、推しが微笑むロック画面に10:26の数字が浮かんでいる。やけにクリアな思考回路と、背中に感じる気配と寝息の温もりが、手遅れであると冷たく告げていた。

「…まじでか。」
マジモンの朝チュンじゃん、と口の中だけでつぶやいた。一夜のあやまちって実在するんだ…とオタク心がソワソワしているのが、我ながら癪に触る。深いため息を吐こうと息を吐き出しながらも、音量を抑える冷静さがあるのが少し哀しい。ここから恋が始まるのは平成月9ドラマだけなんだよ、と言い聞かせながら、服を着て、サイドボードに一万円札を置いてそそくさと部屋を出た。手痛い出費だ、漫画なら15冊は買えた。

 記憶にないけど多分処女を失った。
 漸く、といった気持ちと、こんな形で、と憤慨する気持ちがない混ぜになっていて、そんな思考を切り裂くようにヒールを鳴らす音を強める。タイルを尖ったヒールで叩くことで、地団駄を踏みたい欲求を抑えているのかもしれない。そんな地味に理性的な自分が情けなくて、早朝の人気のなさを盾に、踵で地面を強く蹴った。
 ガキン、と恐ろしい音と硬いものが割れる感触がして、振り向いて足元を覗く。黒いハイヒールをずらせば、美しくふたつに割れた反射板があった。自転車につけるようなタイプで、土ぼこりでかなり汚い。ゴミ未満落とし物以上って所だろう。
 踏んづけてしまったのが、大事なものじゃなくてよかった。ほっと強張った肩の力が抜けた途端に、肩にかけたバックがずり落ちて手首まで滑る。瞬間、私は思い出した。

 あの時壊したあいつのメガネ、ちゃんと弁償したっけ。



(続かない、と言うつもりが、意外と面白い話になりそうなので続く可能性を捨てきれない。)

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