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鰹節シングルオリジンを楽しむ文化復権をしたい

鰹節というと、一般的にみなさんが買うものといえば、小分けにされたフレッシュパックなど削り節屋さんのブランドの名の下に商品されたものが圧倒的に多いのではないでしょうか? というか、よほど自分で出汁を取る以外の人はそもそも鰹節に対しての意識はほぼ何もないでしょう。そもそも、鰹節にそれぞれ味に違いなんてあるの?くらいが一般的な感覚かもしれませんよね。

これは、削り節屋さんが小分けした削り節の品質を安定させて日持ちさせる技術を確立した努力があったからこそではあります。それまでは各家庭で鰹節をカンナで削って使っていたのですから、その手間たるや毎日となると大変なことでした。そこに削り節屋さんのブランドの元に商品が作られ、品質が保たれているのですからいつどこで買ってもあの味が担保できます。しかし、ここにコモディティ化も生まれることになりました。それにより失ったものとしては、産地がどこか、誰が作ったか、どれくらい脂が乗っているか、うま味や酸味、いぶしの香りはどうか、といった鰹節それぞれの個性は選べなくなったとも言えます。

かつて、江戸時代には日本全国各地で鰹節が作られており、その美味しさを研ぎ澄ませ競い合い、その年の美味しい鰹節はどこの鰹節だという番付表まで作られていました。昔から日本人はランキングが大好きだったんです。嘘か誠かわかりませんが、粋な江戸っ子は蕎麦のつゆを一口飲むと、その鰹節がどこの鰹節か言い当てることができたほどだといいます。当時の人にとっては鰹節という存在は気になる存在だったようです。

一方、今の時代に話を戻しますと、現在鰹節の生産は、鹿児島県の枕崎、指宿、静岡県の焼津の三箇所が圧倒的な生産地となり、それ以外は、伊豆や三重、高知など、数軒単位で細々作られるのみとなりました。(戦前は沖縄が全国一位の生産量を誇り、ミクロネシア諸島など南国でもたくさん作られていました。戦後から現代にかけてほぼなくなりました。)そして、そのほとんどは大手削り節屋さんに納品するために、求められた品質を保つような工業製品に近いものになっていっています。

その一方で、わずかながらも、古き良き時代の伝統的な手仕事による製法を家族経営規模で守り抜き、その生産者それぞれのこだわりのある鰹節もいまでも細々と作られています。これらはプロの一流の料理人や一部のわかる人によって支えられています。一般的なスーパーではまず売っていないので、日常的に出会えるものではありません。

私はこちらの家族経営規模で細々と丁寧に作り続けている人たちに目を向けていきたいのです。


違いはある。しかし、それは嗜好品のようでもある

では、こだわりの生産者によって細々と作られている鰹節というのはいかほどのものなのか。そう言われると、これがまた難しい。もちろん量産品と比べると圧倒的に美味しいというのは大前提にはあるのだが、同じ生産者がつくる鰹節でも、良いものもあれば、そこまででもないものもある。実は条件が複雑すぎてこの人のはコレ!という味わいを決めづらい。なぜそんなことが起こるかと言うと、相手が生き物だからだ。人間だって太った人、痩せた人、マラソンが得意な人、短距離走が得意な人さまざまいるように、同じ鰹といっても個体によってバラバラです。水揚げされる時期によっても脂ののり具合も変わる。熟成の具合を見ながら出荷するタイミングを見極める時期もある。そんなわけですから、一匹一匹の個体差というのはかなりあります。(大手はその時々の品質を見ながら大量に削ってブレンドして、時に産地を変えたりしながら一定の味を保っています)

この現代において、食に関して、品質が一定していないというのは、はっきり言って一番ダメなことではあります。あの店のあの味というのはいつ行っても必ず同じでなくてはいけないのです。もちろんそれは十分に納得です。しかし、それだけで良かったんでしょうか。例えば、今年のあそこの誰々さんが作った鰹節は美味しいね、とか、あっちの製法の鰹節だと燻た香りが強いけど、こっちは淡い感じだねとか、そういった個体差や生産者による味わいの違いを楽しめる余地というを捨ててしまってよかったのでしょうか。

そんなことを楽しめるようになったら、それはそれで、食を楽しむ引き出しが一つ増えることになるのではないでしょうか? 江戸時代の庶民がそうしていたように。それは、日常の先にあるちょっと特別な付加価値を楽しめる「心の余裕」、あるいは「美を楽しめる文化」なのかもしれません。

人生ってなんでしょうか。

生きるために必要なカロリーと栄養素を摂取して息を吸って吐いていいんでしたっけ?違いますよね。もっともっとそこに楽しみや喜びがあるから人生は楽しいし、価値があるんですよね。つまり付加価値こそが人生の醍醐味ともいえないでしょうか。いまは江戸時代のように生産地による鰹節の番付をするような粋な文化は無くなってしまいました。(もちろん、業界の品評会というのはありますが、まったく一般向けではありません)

私は、自分のお店では、そんな全国にいらっしゃる素敵ん生産者一人一人のストーリーとこだわりを誰もにわかりやすく伝えながら、実際にそれを手にとって味わえて、その場でお試しもできる、欲しい分だけ少しだけでも買える、そんなビジネスも自分のお店の一つの軸にしたいと思っています。もちろんいまでも一般の方がこだわりの生産者の鰹節を買うことはできますが、それらが一同に介して比較しながら自分のお好みを見つけていけるようなお店というのはありません。

こんなビジネスのネタをこういうところで言っちゃっていいのか、だれかに真似されないか、心配もありますが、おそらくこれをやり遂げるには、相当な情熱と苦労、そして仕事抜きにしてもそれができる「好き」が必要です。そう思うと、きっと大手メーカーさんや老舗の鰹節屋さんにはきっとできないのではと感じます。逆に私のような出汁マニアでデザイナーとかいうよくわらかない人間が業界の古い商習慣のしがらみなく、情熱だけでそれぞれの生産者に会いにいき、膝を付け合わせてお酒を酌み交わすことでできるかもしれないと思っているのです。

そんな商品のある、お店、みなさんいかがでしょうか?

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