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Twin Peaks The Return/デビッド・リンチ監督

2017年アメリカTV番組。ツインピークスが25年ぶりに帰ってきた。1990年のテレビ版にて、「25年後に会いましょう」と囁いたローラ・パーマーの予言通りである。

90年に放送したツインピークスは一世を風靡したけど、ReturnはWOWWOWでの連続放送だったからか一部の人の間でしか話題にならなかった印象がある。色々と調べてみると…
パーカーはどうなったか?
ツインピークスの誰がどこまで出演するのか?
そのほか「意味不明」だの「ジジババばかりでうんざり」など、あまり踏み込んでない情報やマイナスの評価が目立つのが気になる。

が、リンチ監督が「もう映像界に私に居場所はない」と引退宣言したのにも関わらず全話監督を担当し、カイエ・ドゥ・シネマ紙のベストオブ2017年に選ばれた(映画作品を差し置いて!)見逃すわけにはいかないでしょう。

そしてやはり…ツインピークスthe returnは最高に面白かった。
ただ面白さを伝えるのが非常に難しい…だからといって匙を投げてはダメよね、、、。
※90年のTV版未見の人はネタバレが多いのでお気をつけください

あらすじ
NYとバックホーンで謎の殺人事件が起きているアメリカ。その死体となって発見されたのが25年前、ローラ・パーマー殺人事件が解決して程なく亡くなったブリッグス少佐のものだったと判明する。これを長らく解明されていない「ブルーローズ」事件として、FBIのゴードン捜査官とローゼンフィールド捜査官(アルバート)が解決に身を乗り出す。一方で、25年前に失踪してしまったクーパー特別捜査官が突然発見され、事件は混迷への一途を辿る。

Returnの訳のわからなさを楽しむ
おそらく、色んなところで色んなあらすじが書かれているが、どれが明確で一何わかりやすいのか判断しづらい。何が謎で、何を解決するのか、ストーリーの主軸が何か、パッとは分からないのがthe Returnの面白いところだと思う。

おそらく、クーパー特別捜査官がどうなっちゃったのか?という所を見据えていれば、興味を持って見進められることができる。が、それだけを目的に見てしまうのは勿体無い。ちょうど良い塩梅で「普通に理解できて楽しめる」ストーリーの中に、デビッド・リンチワールドが広がっているので、超独特な世界観のなかに気軽にどっぷりと浸れる快感がある。

もっと言うと、90年TV版のツインピークスはシリアスな殺人事件ものの雰囲気を携えていたけれど、the Returnはどちらかというとギャグ要素がふんだんに詰まっている。節々で「笑っちゃう」シチュエーションが登場し、ユーモア溢れるストーリー展開に癒されてしまう。

一方で、暴力描写が強烈になっているので怖く感じられるところも多い。この怖さとユーモアの対比が一層、作品を魅力的にしているのだろう。

…で、結局表層的なことしか書けていないのだけれど。
the Returnのどこが面白いのか。

明かされる謎と明かされない謎
The Returnの冒頭で、 ブラックロッジに閉じ込められているクーパーは"is it the past or the future?"と片腕のマイクに問われる。

頭からわけのわからない質問が飛ぶので「あーこれはインランドエンパイア並にカオスな作品かもしれないな」と不安になる。
が、その不安をかき消すようにクーパー特別捜査官の行く末をテンポよく見せてくれるし、キラーボブは何者かというベーシックな謎はしっかり解かれる。その解決への過程を観るだけでも十分夢中になり、クーパーが辿る数奇な運命に心はジェットコースターに乗れる。

そしてキラーボブの最後!あまりにも終わりが3歳児の発想みたいな展開で、失笑する人が多くいるだろうと想像しつつ、私はリンチが大好きになった。

けれど、the Returnの魅力ははこれだけに止まらない。
それはたぶん、未解決の謎がまだまだ溢れているからなのではないかと想像する。

結局ローラ・パーマーは誰なのか…
90年のTV版から引きずられているテーマだが、the Returnでも明かされていない。深読みすると、キラーボブに捧げる生贄のような存在だったのだとも理解できるのだけれども、個人的には、ローラ・パーマーという人は「仮面ライダー電王」における野上良太郎と同じく<特異点>だったと理解すると楽しい。

ローラが過去と未来という概念の影響を受けない特異点だったから、時間に影響を受けず、命を奪われてもブラックロッジの中で存在し続けられるし、ローラではない人生も歩める。
これを前提として考えると、おそらくクーパーもローラと同じく特異点なのだろう。

"is it the past or the future?"とはどういうことなのか…
この意味もなんだかわからないのだけれど、世界はリニアで流れているのではなく、パラレルに流れていることを示唆しているのではないか。つまり、the Returnは純粋に25年前のローラ・パーマー殺人事件が解決した後の話ではない。パラレルに存在し、語るに足る話がローラ、およびクーパー周辺にあるのだ、と理解すると合点が行く部分が多い。

ただ、Twin Peaksの場合、合点が行くことに価値がある作品なのかも甚だ疑問。理にかなう、かなわない、という振り分けは観る上での謎解きの楽しさを与えてくれるが、本質的なところを見誤ってしまう感覚もある。

映画体験とは、今、目の前に起きていることを楽しむこと
Twin Peaks the Returnの素晴らしさは、これを成し遂げているということに尽きるのではないか。謎が未解決のままでも許せるし、物語展開が不条理でもそこを追求しないままでも楽しめる。けれど、表層的な一発芸の羅列なわけでもない。

さらには、90年代のTwin Peaksとはほぼ別物と考えてもおかしくないほど、一つの作品として世界が確立されているのも良い。それはデビッド・リンチの自由さ、聡明さ、遊び心が成せる技だと思うのだけれど、あれだけ一世を風靡した作品を、ここまで踏襲しないでいられる精神はやはり流石だと思う。

もしかしたら、相棒のマーク・フロストがなんとかTwin Peaksに流れる精神をつなぎとめていたから、Twin Peaksとは全くの別物にならずに傑作のまま生まれ変わったとも言えるかもしれない。

何れにしても、the Returnは観る側にも自由の精神を与えてくれるし、作り手の端くれの私にも「もっと気軽に、楽しく作りなさいよ」というエールを送ってくれているようにさえ感じられた。

良い映像作品は時間をかけないと伝えられない<何か>がある
ここで正直に明かそう。
この作品は素晴らしすぎて、私ごときに評などは務まらない。内容がペラッペラで読んでくれている人に申し訳ない気さえしている。

私が書いていることは表層的にすぎず、the Returnには深淵に流れる<何か>があり、もしかしたら映像にどっぷり浸かる時間を設けて初めて感じられる<何か>かもしれない。the Returnは60〜90分?が18話あるので、それだけ多くの時間をかけて物語を語っている。

時間をかけなければ伝えられないことが映像の中にあるのであれば、それは言葉で語れるものではなく<流れる時間を体感>しないと分からないことなんだと思う。謎を明かすスッキリ感を味わうだけではない<何か>が存在しているthe Returnはやはり「面白い」し、映像作品の鑑だと思う。

まとめ
色々と能書き垂れてみたけれど、鯔のつまり、年をとったTwin Peaksの住人の姿を見るのは嬉しかったし、年を取ってもクーパーはクーパーだったり、デビッド・フィンチャー作品のオマージュや、タランティーノへの愛とも思えるキャスティングがあったり、ファンとして嬉しいところも沢山あった。

そのほか、大好きな新キャラが新設定も登場して、18話観続けていた時間は幸せだった。

悔しいけれど、作品の魅力は語り尽くせない。
こんな高レベルの作品がテレビドラマの定番となれば、映像の未来も明るいのだろう。

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