おのれ冬

よいお年を

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最近の記事

はじまりの行為

私はその行為をいまだにしていないことに対して劣等感を持っていないから、誰かが雰囲気からそうだと見えると言っても何も思いはしない。 だがその人がそのことをもって私のことを人間として下に見ているのだとしたら許せるものではない。 私は真夜中ナイフを持ち出しその人の家に忍び込み怒りのままに殺した。いい気味だ。 数年後、私は恋した人とその行為をした。全ては幸福の名の下に存在をなくした。 その行為のあと、ベッドに横になり、眠り、夢を見た。私が殺した奴が今いるベッドのそばに立ち、私

    • 「結婚なんてしたらもう相手の顔はたった一面しか見られないものよ。結婚なんて同じような毎日で私に見せる顔なんてどうしても一つでしょう?」 そんなことを言う。 私だってあなたの顔はたった一面しか見られていません。同じような毎日の中であなたという存在だけが輝いて見える。どんな顔をしてもあなたという存在のイメージは変わらない。あなたの顔はずっとあなたらしい顔。それが恋でしょう? 「あら、もうこんな時間ね。彼が帰る前にお夕食の準備しないといけないから今日はそろそろ帰るわね」 気

      • 鐘の音

        遠くの幸せの鐘の音が聴こえる幸せ 遠くの悲みの鐘の音が聴こえる悲み 近くの何者かの鐘の音で打ち消さないように

        • 中心

          文学は全て政府によって焚書された。一つ残らず焚書された。 文学を愛した彼は微笑んで「心惹かれるものは他にもたくさんあるよ」と言った。だが彼は見るのがためらわれるくらい元気を失なっていった。会うのも途切れがちになった。彼がそう望んだ。軽蔑されるかもしれないが私もそう望んだ。 そして数ヶ月したある日から彼は天命を受けたように何かの作業に没頭しはじめた。それは愛した物語の文章を記憶の中から取り出し元の通り再現するといったものだった。短くないその物語を一言一句完璧に再現するなど到

          未来

          未完の文学は誰かに読まれることを望んだろうか。未完の映画は誰かに観られることを望んだろうか。未完の研究は、未完の城は...。それは誰にも分からない。 私は未完の文学を読んでいる。畏れの生んだ倒錯からだろうか。むしろ一種の憧れだろうか。単純な興味だろうか。 私は誰かに読まれることを望まなかった。書かれることを拒むことが出来れば拒みたかった。終わるため紡がれた言葉は終わりを迎えずに意味を失っていく、とは思わないが。 いつか誰かが、私を読むだろうか。 私はまた書かれ始めた。

          主語

          あいつはいつもいつも主語がなくて話を理解するのに苦労する。それをいつもいつも注意してる。別に怒っているわけじゃない。俺が刑事という職業柄、最初に話される言葉の雰囲気や特徴を大事にしていたというところもある。注意してあいつはへらへらと謝るけど主語を言わずに喋り始める癖は中学から今まで抜けたことはない。まあとるに足らない話だ。あいつとは中学からずっと仲良くて唯一無二の親友だと思ってる。あいつも同じように思っていたら嬉しい。 そんなあいつが殺された。連日続いた事件の捜査が終わり、

          森の家

          私はある国の、森が開けた場所にある小さな小さな町に住んでいる。この町でものを売って生計を立てていたのだが、少しずつ生活は厳しくなり、この森を抜けて少し人の多い街に出て、ものを売ろうということになった。ほとんど毎日通ることになった森の中に1軒の平屋の家があった。森の雰囲気によく合っている家、というよりごく普通の森の家だった。 ごく普通の外観の家だが特徴的なところがひとつあった。それは通るたび決まっていつも同じ曲が流れていることだった。のちに分かったことだが、24時間いつなんど

          入院と不安

          入院することが決まった 3ヶ月ほど検査をやってきて、前回病院に行った時、手術するか、服薬をずっと続けることになるかどちらかになると言われていたから 入院して手術しようと言われたとき あぁ、そうか と思うだけだった その後すぐに入院の説明を受けることになった 同意書やらなんやらを色々書いた 動揺はなかったものの、決まったばかりで、分からないことも多くて僕はふわふわした気持ちだった そして記入を間違えてしまった その時の僕の気持ちを知って誰がこの間違いを責められ

          入院と不安

          どうにかしたいこと

          以前から思っていたけれど最近になってすごく確かに感じるようになって辛いことがある。 それは記憶力のなさ。僕は月に30冊ほど漫画ほど読んでいる。その中の作品数は数えていないけれど10作品以上はあるくらいだと思う。それをコンスタントに読んでいるとロケット鉛筆のように古い記憶は脳から振り落とされて忘れることになる。僕は誰かと今まで読んだ作品について話すという場はないのでまあそれでも良いかと思ってきた。だけど友達と読んだ漫画について話す機会が出来たときに、まあ内容なんて覚えていなく

          どうにかしたいこと

          秘密

          ときどき自分のことについて、このことは誰かに話したっけとかこれは誰かは知ってることだっけと考えることがある。 共有されたことはどんなものでも誰かの検閲を通ったような気がして安全な話だよなと誰かは覚えてくれている話だよなと自分の中ですごく扱いやすいものになる。 だけど誰にも話してないこと、これはシモ的な話もそうだし誰かに知られたくないあらゆる話から別に話すようなことでもないから話していないだけの取るに足らない話まで全てを含めて、自分だけが知ってる自分の秘密として頭に格納され

          音楽と生活

          僕の生活にはいつも音楽があって、いつも外を歩くときは音楽を聴いている。特に僕の思い出はボーカロイドの曲とともにあって。 ボカロのいいところはジャンルの垣根がないところだと思う。普通音楽だったら演歌とかHIPHOPとかROCKとか色んなジャンルがあって自分の好きな範囲を越えて聴くことってほとんどないと思う。だけどボカロの曲を漁るのはそんな壁は一切なくてサムネイルが良さそうだから聴こうとかマイリスト(お気に入りみたいなもの)が多いから聴こうとか人がおすすめしてたから聴いてみよう

          音楽と生活

          怖いものをだらだら綴る

          僕は変化が怖い。何よりも怖い。 いつからこういう考えになったんだろう。 中学も高校も友達に恵まれて大学では友達もいたしサークルも入ってたけれどなんか居心地が悪くて僕の居場所じゃなかった。時間だけはあって初めての一人暮らしでみんな大人として変わりつつあって自分だけが取り残されてる感じがして怖かったのかなあ。 ずっとやりたいことなんかなくて高校のとき公認会計士目指してるやつがいてすごいなあと思ってた。なんか公認会計士の人の講義?みたいなの聞いてこれだ、ってなったらしい。意味

          怖いものをだらだら綴る

          デートは大変

          僕と彼女はアウトレットで買い物中だ。 彼女は2つの服を持ってこう聞いてきた。 「この服とこの服どっちがいい?」と。 僕は戸惑った。持っている2つが同じ服だったからだ。 「どっちって?」と聞くと、 「この服のSとMどっちがいい?」と聞いてきた。 色とかじゃなくてサイズかい。試着して決めればよくない?と思ったので 「色とかじゃなくてサイズかい。試着して決めればよくない?」と言った。 彼女は確かにと思ったのだろう。 「サムゲタン」と言ってきた。 2人で試着室に行き、まず

          デートは大変