だらねこげーむず2

意外とゲームデザイナーの腕が問われるHPと防御力の扱い方

私は、RPGとかを作っている人に常に問いたいのです。

HPと防御力、ちゃんと扱えてますか?
なんとなく、色んなゲームにあるからといって採用してませんか?
というかHPと防御力の役割の違いを把握したうえで設定していますか?

HPと防御力は、RPGのド定番のステータスであり、アクションやシミュレーションにもちょくちょく顔を出してきます。どちらも、相手の攻撃に耐えるのに必要なステータスですね。

しかし目的が「相手の攻撃に耐える」だけなら別に2つに分ける必要はないんですよ。HPだけで良い。防御力なんて面倒な物イラナイ。

HPと防御力は、明確に役割と特性が違います。そしてその役割と特性の違いを把握したうえでレベルデザインを行うのと、なんとなくでレベルデザインをするのでは雲泥の差があります。

というわけで、今回はHPと防御力の扱い方について考察していきます。


◆HPと防御力の役割と特性

ではさっそく、HPと防御力の特性について見ていきましょう。

-------- HP --------
◆役割:より大きなダメージに耐えるために必要
HPが0になると死ぬので、より大きなダメージに耐える必要がある場合はHP自体を大きくする必要がある。大きなダメージに耐えるのがHP。
◆特性①:インフレ感を作りやすい
HPが上がっていくと適正なダメージ量も増えるので、全体的な数字が上昇する。「前よりも強くなった」というインフレ感が演出しやすい。
◆特性②:扱いが簡単
ダメージ量に応じて最大HPを調整すればいいので、適正な数字が分かりやすく扱いやすい。
◆特性③:コストとして使用できる
コスト型のパラメーターではあるので、スキルを使用する時のコストとして使うことができたりする。発想次第では色んなものに使える。

ダメージ100くらうと即死していたけど、成長したら耐えられるようになった。さらに成長したらダメージ100なんてほぼ意味のないダメージになった。

みたいな形で、インフレ感を演出しやすいのがHPです。

-------- 防御力 --------
◆役割:ダメージを小さく抑えるのに必要
ノーガードなら即死級のダメージをくらう攻撃も、防御力を高めれば十分耐えられるダメージにまで下がる。大きなダメージを小さくするのが防御力。
◆特性①:バリエーション豊富でボリュームアップができる
物理防御や魔法防御など、防御力の中にもバリエーションを作ることが可能。バリエーションが増えれば、装備のパターンも増え、ゲームのボリュームが増す。
◆特性②:装備の戦略性が増す
特性①でバリエーションを作れば、「この敵は魔法攻撃が強いから魔法防御が高い防具を装備して戦おう」的な、事前準備の戦略要素が増す。
◆特性③:扱いが難しい
防御力が強すぎると全然ダメージが通らず、逆に弱すぎると防御力の意味がない。調整をミスるとクソゲーになりやすい。

ダメージ100くらうと即死していたけど、防御力を上げたらダメージ20まで抑えることができた、的な事ができるのが防御力。

HPだけだと数字のインフレが激しすぎるので、それを抑えるのに使ったりもします。というかスタンダードな使い方はこっち。

ちなみに属性耐性も役割はかなり似ているので、これも広義の防御力として捉えられなくもない。

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ざっくりとした役割と特性はこんな感じですね。次に、HPと防御力の特徴を把握した上で、こいつらの使い方を考えていきます。


◆HPと防御力、どちらを重視するべきか

自分の好みで決めてください。あなたが何をしたいかで変わります。

って言っちゃうと身も蓋もないので、強いて言うなら……

①インフレ感やレベルアップの強さを強調したい⇒HPを重視

装備の使い分けとかするようなゲームでもなく、とりあえずレベルアップをしていくと強いよ!っていう場合はHPを重視した方が分かりやすく調整しやすいです。

戦闘中に防御力は目に見えないUIがほとんどですが、HPは出していると思います。どうせなら見える数字を重視した方が良い。アクションゲームとかでも、HPバーが初期の倍以上の長さになってたら強くなったなぁ感が出たりしますし。

この場合、極端な事を言えば防御力は存在しなくても良いです。「攻撃に何発耐えるか」みたいな計算も、防御力が無い方がやりやすい。ただし無限にHPをインフレさせていくとよく分からない事になるので、シンプルでクリアまでの時間が短いゲーム向けですかね。

またTCGのように「1体のユニットが死んで当たり前」なゲームデザインも、HPのみでも大丈夫です。防御力でアレコレするところに戦略性をもたせないなら、防御力はいらないっちゃいらないですね。むしろプレイヤーに「次に攻撃をくらったら死ぬか」みたいな計算をさせたい場合は邪魔です。

②装備の強さや防御系の戦略性を重視したい⇒防御力重視

どうやってダメージを抑えるのか考えさせるような遊びにしたい、レベルアップよりも装備の性能や組み合わせが強い形にしたいなら、防御力重視のデザインをおすすめします。

RPGで言うとサガシリーズが防御力重視の傾向がありますね。フリーシナリオ型のRPGで、ダンジョンを探索して強い装備を手に入れるのが楽しさの1つになってたりもします。正規の5人PTでも難しいけど、突き詰めていけば1人PTでもクリアできるのは、防御力を上手く使ったゲームデザインの賜物です。

あとはモンハンみたいに、装備を作る(手に入れる)こと自体がゲームデザインのメインになっているのはやはり防御力重視になると思います。

防御力をつきつめて考えていくなら、極端な事を言えば最大HPは上昇させなくても良いです。どうやってダメージを抑えるのかを考える遊びにしたいのならHPは下手なインフレをしない方が戦略性が出ます。SlayTheSpireなんかはその好例。

③こだわりなし ⇒ HPと防御力のバランスは同じくらい

レベルアップも装備も重要度は同じくらい。探索要素などは薄く、とりあえず新しい場所で手に入れた新しい装備をつければ強い。みたいな場合は半々くらいのバランスで良いと思います。

中途半端な印象は受けますが、プレイ時間長めのRPGなんかではわりとスタンダードです。ドラクエとか。プレイ時間が長いゲームだとHPのインフレだけに頼った場合、最大HPやダメージの単位がどんどん上がっていっちゃうのでそれを抑えるためにも防御力を使ったりします。

突き詰めて考えるよりも、物語を進めて強くなっていくのを楽しむようなゲームはこれが向いていますかね。

④「耐える」以外で戦略性を出す ⇒ HPと防御力のどちらも使わない

私の知っている、最も戦略的(というか戦術的)なゲームは、HPも防御力もありません。

将棋って言うんですけどね。将棋の「飛車」は素人でも分かるくらい強力な駒ですが、最弱の「歩」にも一撃で殺されます。この「どんな駒も一撃で死ぬ」というデザインが、戦略性に大きな深みをもたらしています。

デジタルゲームではやりにくいかもしれませんが、シンプルで戦略性の高いゲームを目指すならいっそ両方を扱わない、というのも手です。


◆計算式が防御力を殺す

ちょっと話の流れを変えまして、計算式の話です。防御力もつまるところ「ダメージの計算式に使う要素の1つ」でしかないので、計算式やそのバランスをミスるとですね。防御力は死にます。

長期運営型のソーシャルゲームなんかでたまにみかける事案なんですが、「防御力はとりあえず存在するけど防御力の意味が無い」というのがあったりします。状況としては

キャラのステータス上は攻撃力と防御力は同じくらいだけど、数字1あたりの価値や重要度は攻撃力の方が圧倒的に上

みたいなパターン。これ、何で起きるんでしょうかね?

私が関わることになったタイトルでも遭遇したことはあるんですが、原因の1つとしてインフレが想定外の形で起こった結果、計算式が対応できていないというのが挙げられます。

これだけだとよく分からないと思うので、例を挙げましょう。ダメージの計算式として、

ダメージ = (攻撃力 * スキルでの攻撃力倍率) - 防御力

を使ってダメージを出したとします。インフレが浅いうちは特に問題は起こしません。例えば

ダメージ = ( 100 * 1.5 ) - 100 = ダメージ:50

みたいな状態であれば、防御力の意味があります。防御0と比較すると、ダメージが1/3になってますから。

次に、攻撃力や防御力を1.2倍してみましょう。+20増加です。(数字とにらめっこしなくて大丈夫ですよ。話の流れをふわっと把握してもらえていればOKです)

ベースステ:ダメージ = ( 100 * 1.5 ) - 100 = ダメージ:50
  ↓
攻撃力上昇:ダメージ = ( 120 * 1.5 ) - 100 = ダメージ:80
防御力上昇:ダメージ = ( 100 * 1.5 ) - 120 = ダメージ:30

攻撃力も20上がればダメージは80になるので60%増になります。対する防御力も20上がればダメージは30になるので40%減。両方とも強く、ちゃんと意味がある数字になってます。

では、この状態ならどうでしょうか。

ダメージ = ( 100 * 20 ) - 100 = ダメージ:1900

攻撃力に対する倍率がかなり高くなっているパターン。対して、防御力には何も倍率がかかっていません。そうすると、攻撃力や防御力を1.2倍上昇させた時には……

ベースステ:ダメージ = ( 100 * 20 ) - 100 = ダメージ:1900
  ↓
攻撃力上昇:ダメージ = ( 120 * 20 ) - 100 = ダメージ:2300
防御力上昇:ダメージ = ( 100 * 20 ) - 120 = ダメージ:1880

攻撃力上昇の場合はダメージ25%増。インフレ前に比べると上昇倍率は弱めです。しかしそれ以上に防御力が悲惨で、わずか1%ほどしかダメージを減らせていません。

こうなってしまうともう防御力は役に立ちません。防御力を攻撃力の2倍にしたところで、

ダメージ = ( 100 * 20 ) - 200 = ダメージ:1800

となり、全然減らないので防御力の意味がなくなっちゃうわけですね。同時に防御バフやデバフも死にます。

いや、誰もこんなことしねーよw

みたく思う人もいるかもしれませんが、悲しいことに実際にありました。あったのです……。

コンシューマーみたいに終わりのある売り切り型のゲームだと比較的大丈夫だと思うんですが、ソーシャルゲームみたいに終わりが無く売上を求めてインフレをするゲームなんかは起こしがち。

これは「攻撃力には大きな倍率が乗るけど防御力には倍率が乗らない」故の悲劇なので、攻撃力に大きな倍率を付ける場合は、防御力にも少し倍率を付けてあげると良いです。例えばこう。

ベースステ:ダメージ = ( 100 * 20 ) - ( 100 * 10 ) = ダメージ:1000
  ↓
防御力上昇:ダメージ = ( 100 * 20 ) - ( 120 * 10 ) = ダメージ:800

攻撃力にかかる倍率の半分くらいを防御にもかけてあげると、1%しかダメージが減っていなかったのが20%減るようになって、防御力の価値を保てるようになりました。

この辺の按配はレベルデザインの思想とか調整のしやすさにもよるので、好みの数字は自分で見つけてください。言いたいことをまとめると、

①攻撃力にだけ大きな倍率がつく計算式は防御力を殺す
②攻撃力に大きな倍率をつけたい場合は、防御力にも倍率を付けた方が良い
③防御力を殺すくらいなら、最初から無い方が良い

ってことです。③は説明してないけど、まぁそういうことです。


◆まとめ

今回の話をまとめると、

①:HPと防御は、しっかり特性を見極めて使いましょう
②:インフレをしっかり見せたいならHP重視。
③:プレイヤーにダメージ計算をさせたいなら防御力はいらない。
④:装備がゲームデザインとして重要になってくるなら防御力重視。
⑤:如何に被ダメージを抑えるか、を考えさせたいなら防御力重視。
⑥:遊びとして⑤のことをやらせたいなら最大HPは上昇しなくても良い。
⑦:プレイ時間が長く、工夫よりも成長を楽しむゲームなら半々くらい。
⑧:戦略性重視ならいっそ両方とも使わなくても良い。
⑨:攻撃力に対する倍率だけを上げていくと防御力は死ぬ。
⑩:計算式も大事。防御力ちゃんを殺さないであげてください。

ですかね。

ベテランの人は把握していて当然な話ではありますが、ゲームを作り始めたばかりの人はこのあたりはよく分かっていないんじゃないかなーと思ってます。

HPと防御力は用法・用量を守ってお使いください。


◆宣伝

個人でPC・PS4・Switch向けにインディーゲームを作ってます。

そしてゲームデザインのこととか、制作中のゲームのこととかTwitterで呟いてたりします。

さて、私が何をしてほしいか……聡明なる読者の皆様は分かっていると思います。言うのも野暮なので言いません。

おわり

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