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情報を「見せる」か「隠す」かで変わるゲーム体験

例えばですよ。スロットゲームを思い浮かべてください。こういうの。

777slot_はずれねこ

あとちょっとで「777」が揃ってがっぽり儲けられるところだったのに、最後の1枠が変な猫で埋まってしまった……みたいな時、悔しくないですか?この変な猫が憎くならないですか?

では、こういう表示の仕方だったらどうでしょうか。

777slot_はずれ隠し

何が揃っているのかは教えてもらえず、ただ「はずれ」という結果のみが伝えられる場合。前者のパターンよりも「よくわからない」というのが先だって、悔しさは少なくなるんじゃないでしょうか。

これ、どちらも結果は同じ「はずれ」です。変わらないんです。結果は変わらないけど、プレイヤーの感情は変わります。

ゲームってのは、プレイヤーの感情を揺さぶってなんぼだと思うんですよ。感情が揺さぶられるからこそ面白い。なので情報の見せ方1つで揺さぶられる感情が変わるのなら、ゲームデザインとしては外せない要素になると思うんですね。

何を見せて何を隠すのかはゲームデザインの思想にもよりますけど、ここでは参考にいくつか考察をしてみます。

 ①『確率』の可視化【表示して感情を動かす】

これについては、冒頭で説明したスロットの例と同じような感じですね。「情報を見せなくても結果は同じ」でも、動く感情は変わるやつです。

TRPGのダイスロールなんかが良い例でしょうか。サイコロを振って、数字いくつ以上(以下)なら成功、とか。画像にするとこう。

ぎりぎり失敗

上の画像を簡単に説明すると、

1~100の数字の中で、65以上の数字が出れば成功。つまり確率は65%。
 ↓
上の画像だと、64なのでギリギリ失敗。

てな感じです。確率を可視化することで同じ失敗でも「ぎりぎり失敗した悔しい」と思わせることができます。

特に同じ失敗でも「よくわからないけどダメだった」と「惜しかった」「あと少しだった」では大きく違います。よくわからないと諦めがちですが、「惜しい」と思えば「次は成功するかもしれない」という意識につながるので、プレイが楽しくなります。

あとは成功であっても「66」みたいなギリギリな数字だったら「あっぶねー、良かったー!」みたいな感情が生まれます。

プレイヤーの感情を動かしやすい、というのはゲームデザインとしてはそれだけで武器になるので、私は「確率系は邪魔にならなければ表示した方が良い」派ですね。無理に表示してUIがグチャグチャになるのは論外ですけど。


②進捗率の可視化【成長かハラハラか】

進捗率…とだけ言ってもピンとこないと思うんですが、例えばボス敵のHPゲージ。あとはゴールまでの距離とかがこれにあたります。

高難易度_ブラッドボーン

進捗率については表示・非表示で得られる効果が変わりますね。簡単にまとめると以下の2つです。

①表示することで「成長感」を感じられる

これは ↓ みたいなゲームとかで特に有効ですかね。

▼ キャラや装備を強化してインフレを楽しむゲーム
レベル上げて装備を新しくしたら、敵のHPをごっそりと削れるようになったとか。
▼ 強敵に何度も殺されながら挑むゲーム
最初はボスに敵わなくてすぐ負けてたけど、だんだんとボスのHPを削れるようになり、やがて倒せるようになったとか。
▼ ゴールを目指して何度も挑戦するようなゲーム
1000mがクリア地点で最初は20mくらいまでしかいけなかったけど、やがて100m、500mと進めるようになってやがてクリアできるようになったとか。

進捗率を表示をすることで、明確に「前より良くなった」ことを意識しやすくなります。つまり成長を感じやすいわけです。

成長感というのは面白さとしてかなり強い存在です。何かを「良くする」「上手くなる」というのは人間…だけでなく、生物の根源的な欲求と言っても良いくらいです。上手く使えば、ついこのゲームを遊んでしまう…みたいな所にも繋がりますね。

また、逆にテストプレイをしてもらったときに制作者の意図しない所で、多くの人が何度も詰まって成長を感じられなくなる」ようであれば、見直した方が良いのかもしれません。

ちなみに、ここの部分についてはこっちの記事でも触れています。詳しく語ろうとするとめっちゃくちゃ長くなるので、この記事では省略します。興味あったらリンク先をドゾー。

では次。

②ハラハラさせたいなら敢えて見せないのもアリ

逆に進捗率を「見せない」ことにメリットはないのか…というと。
あります。いや既にネタバレはしていますけど。

進捗率が見えないということは先が見えないということでもあり、ハラハラ感を出しやすくなります

厳しい道のりを掻い潜りながらなんとかセーブポイントにたどり着いた時とか。
強敵に対して「あと少しで倒せそうだ、この攻撃で倒せるか?くそっ、倒せない…早く倒れてくれ……」とか。

こっちは成長感を楽しませるより、「ストレスを与えて、そのストレスから解放された時の気持ちよさ」を重視するようなゲームに向いています。ホラーゲームとか。


ただ、この辺りの「見せる」「隠す」は「1」か「0」ではないです。例えば敵のHPにしてもHPゲージではなく、

・HPが50%以下になれば名前を黄色く、25%以下になれば名前を赤くする
・敵が瀕死の状態になったら足を引き摺らせる

といったような形で、ぼかして表示することもできます。この辺りのベストなさじ加減については、何を重視してゲームを作るかによって変わってきますね。ゲームデザイナーの腕の見せ所です。


③ゲーム内情報の可視化【計画か驚きか】

ここで言うゲーム内情報っていうのは、敵の弱点であったり、キャラクターの成長率だったりですね。

これも表示・非表示で得られる効果の方向性が変わります。

①計画性の強いゲーム

これについては昔Twitterで語った覚えがあるので一部抜粋。また書くのは面倒ですし。

計画性のあるゲームというか、もう少し詳しく言うと

目標を立てる→計画する→実行に移す→次の目標を立てる

のサイクルを楽しませるゲームでは、目標や計画を考えるのに不自由のないよう情報を出した方が良いよねって話です。


② 新しい情報の方が驚きがある

ただしゲーム内情報も、ただ晒せば良いというものではないです。隠した方が試行錯誤して自分で見つける楽しさもありますし、予想外に良いことがあると驚きがあった方が嬉しいものです。

例えばダンジョンで使えるレアアイテムを手に入れた時も、「そこで手に入るのを知っていた」のと「偶然手に入れた」のとでは、やはり偶然手に入れた方が嬉しいわけで。

基本は「ゲーム内情報は隠す」で、必要があればプレイヤーに見せる…くらいの感覚が良いかなと。思いまする。ただこうなると当然、

●どういう時にゲーム内情報をみせるべきか?

という疑問にも繋がってくるのでちょっと解説します。1つの基準としては

プレイヤーが試行錯誤するには大変すぎるもの

ですかね。

昔のモンハンで言うなら「いろんな種類のモンスターに、有効そうな属性を総当たりでそれぞれ試して比較してみないと一番効くのが分からない」みたいのです。全てのモンスターに対して試行錯誤するのは大変すぎる。

検証好きなゲーマーはともかく、普通のプレイヤーがそこまで付き合うのはかなりツラい。結果、攻略情報を見た方が面白いよね、という状況になってしまう。

試行錯誤が大変だったり、正解の組み合わせを探すのに総当たりで試すようなプレイが生じてしまう場合は、ゲーム内情報を見せたり、ヒントを出したりすると良いかと。


④敵行動の可視化(追記)

ターン制バトルなんかだと、

①事前に敵の行動が分かる(Slay the Spire とか Into the Breach とか)
⇒ いかに「敵の行動に対応するか」が戦闘のメインになる

②ターンが始まるまで敵の行動が分からない(ドラクエとか)
⇒ いかに「味方のHPを保ちながら戦うか」が戦闘のメインになる

といった、情報を見せる・見せないによって適したゲームの方向性が大きく変わる事もあります。

これについては別記事でガッツリ書いているのでそっちを読んでください。


まとめ

今回の話をまとめると、

①ゲーム内のデータや結果は同じでも、情報の見せ方でゲーム体験は変わる
②確率を見せれば結果に対して感情を動かしやすい
③進捗率を見せれば成長を感じさせやすい
④進捗率を隠せばハラハラを感じさせやすい
⑤計画性の強いゲームは、ゲーム内情報を適度に見せた方が良い
⑥ただ無暗にゲーム内情報を見せても意味がない。試行錯誤や新しい発見は楽しい
⑦試行錯誤が大変なものはゲーム内情報を見せたりヒントを出したりした方が良いかも。
⑧敵の行動が事前に分かるかどうかでゲーム性も変わる

ですかね。参考になれば幸いです。


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今回の話を踏まえた上でインディーゲームを作ってます。体験版公開中。

「可視化」を上手く使うことで、各イベントの楽しく、戦闘をより戦略的なものにしています。

そう。このゲームを遊び学んだことを実感することで、このゲームデザイン論は完成するのです。遊びましょう。DLしましょう。

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