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『素材を集めて装備を作る』が『探索の面白さ』を殺す

皆さん、ダンジョンの探索は好きですか?

ストーリーが―進みそうな道とは違う道を進んで、その先にあるお宝を手に入れるのは好きですか?

メトロイドヴァニアなゲームで2段ジャンプなんか手に入れて、今まで行けなかった場所に行ってお宝を手に入れるのは好きですか?

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1口にダンジョン探索と言っても色々とありますが、今回題材にするのは

ダンジョンの宝箱や敵から素材を手に入れて、装備を作れる

タイプのゲームについてです。

たまに見かけるゲーム仕様でして、例えば『CrossCode』とか。

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最近発売したのだと『Olija』とか。

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私、この仕様については特に『CrossCode』には不満がありまして。「装備を作る」システムを使わずにクリアしました。使おうと思ったけど、どうしても私の中で

探索の面白さ <<< めんどくせぇ!!!

な状態になってしまったんですね。それでもクリアはできたし。

「面白いよりも面倒くさいが上回る」というこの状態、ゲーム制作者の意図したものではないでしょう。こうなって欲しくはなかったはずです。
「もっと探索たいな!色んな所に行きたいな!」と思って欲しかったのではないかと思います。

今回の記事では、この「素材を集めて装備を作る」という仕様が

どういう仕組みで、探索の面白さを殺すのか
どうすれば、面白さを殺さずに扱えるのか

という話をしていきたいと思います。

(あ、念のため言っておくと、『CrossCode』自体は良いゲームですよ。ぬるぬる動くドット絵2Dアクションとしては最高峰のグラフィックと気持ちよさをしていると思います。大量のアクションパズルが気にならないならお勧めします)


◆『素材を集めて装備を作る』仕様のメリット

さて、批判的な話をする前に、この仕様のメリットを話していきます。皆、何にもメリットの無い仕様を採用しているわけではないですし。

考えていくと色々出てくるのですが、話が脱線しそうなのでここでは1つに絞ります。それは、

『報酬』の「数」と「価値」をコントロールしやすい

こと。例えば、分かれ道を進んだら何もない行き止まりが多かったりして、

・ゲーム内で色々やっても、別に良い物が貰えない

みたいな状態になったら、プレイヤーのやる気を削ぐことになります。でも、貴重な強い装備品なんかを大量に置くわけにもいかない。

しかし、装備を作るための素材ならいっぱい置けるわけです。作るのに必要な素材の必要数を増やせば、素材の「価値」は下がるけど「数」は出せる

逆に、レアな感じを出したいなら、特定の素材の必要数と手に入る機会を絞れば「価値」を出しやすい

なので、上手く使えば

・ダンジョンの道中など浅い所には「価値の低い素材」を色んな所に置く
 → プレイヤーのやる気を維持する

・分かれ道の奥など、深い所には「価値の高い素材」を置く
 → 「探索を頑張った甲斐」を作り、探索して良かった!と思わせる

みたいな事ができるわけです。

いやぁー、こうしてみるともう完璧ですね。「探索の面白さ」を殺すどころか、最大限に発揮させているじゃないですか。うんうん。

……まぁ、それで済んだらこの記事はいらないんですけども。


◆なぜこの仕様が『探索の面白さ』を殺すのか

さて、先ほどメリットを挙げましたが、ちょっと考えてみましょう。

「価値の高い素材」が手に入れば、本当にプレイヤーは嬉しい気持ちになるだろうか?

「探索の面白さ」が殺されてるとですね。嬉しくないんですよ、コレが。ちょっとここを詳しく語るために、「探索の面白さ」について考えてみましょう。

なお、ここから話すことは行動分析学的な話に基づく……のですが、それを説明すると長くなるのでここでは知らなくても分かるように書きます。もし行動分析学の話が気になる方は、こちらの記事を参照してください。


では続きを。基本的に、探索の面白さが発生するのは

①道に分岐が合って、気になる方に行ってみる
 ↓
②宝箱だ!強い装備が手に入ったぞ!やったぁ!(学習)
 ↓
③また道に分岐がある。
 もしかしたら、この先にも良い物があるのかも?(期待)

という形です。探索して良い物が手に入ると嬉しいし、だからこそ「他に探索できる場所がある」と期待で胸が膨らみ、楽しい。

要するに「報酬と期待のサイクル」をグルグル回すことで、継続した面白さが作られるわけですね。

探索の良いサイクル

さて、報酬として強い装備が手に入るのはですね。問答無用で嬉しいんですよ。手に入ってすぐに「お、この装備は強いなぁ」というのが確認できるので。

しかし、素材だとここのハードルが高くなります。素材自体にステータスはないので強さは確認できないですし、そもそも何に使えるのか分からない事も多い。

制作者はその素材の「価値」を知っているかもしれません。しかし、プレイヤーがその素材の「価値」を把握できていなければ、「嬉しくない」ものに成り下がります。どこかで呈示していたとしても、手に入った時にプレイヤーが覚えていないと嬉しくないので、記憶力に頼ることになります。

なので、場合によっては②以降がこう変わってしまいます。

①道に分岐が合って、気になる方に行ってみる
 ↓
②宝箱だ!なんか使い道のよく分からない素材が手に入ったぞ……?
 ↓
③また道に分岐がある。
 まぁ取りこぼすのも嫌だし、いちおう探索しておくか……

てな感じに。②で手に入る嬉しさが小さいがために、③の期待が薄くなります。「報酬と期待のサイクル」を作る起点が弱いため、グルグル回せたとしても回転が弱くなります。

探索の悪いサイクル

さっきのサイクルは、「良い事があるからもっと探索したい!」というポジティブな気持ちで遊ぶ形でした。
対して、こちらの起点が弱いサイクルでは「損をしたくないから探索をする」というネガティブな気持ちで遊ぶことになります。

こうなることで、探索の面白さが死ぬ わけです。
そしてプレイヤーが「面倒だし別に損をしてもいいや」と感じてしまうと、探索自体をしなくなったりする…という事が起きます。


◆素材を集めた後の装備じゃ不十分?

さて、面白さがKILLされてしまう仕組みは説明しましたが、こんな疑問を抱く人もいるのではないでしょうか。

でも、素材を集めた後で強い装備が手に入るじゃん?
それが報酬になるんじゃないの?

はい。報酬になります。

……が、探索と結びついた報酬にはなりにくいのです。「○○をしたら良い事がある」ことを学習するのには、

○○をした後すぐ(目安として60秒以内)に報酬が手に入る

のが重要になるため、「素材を集めた後」だと遅すぎるんです。遠回りをしすぎてしまう。(目安60秒については行動分析学の記事を参照)

例えば、

◆探索をして装備が手に入る場合
・探索をした → 強い装備が手に入った

 に比べて、

◆素材を集めて装備を作る場合
・探索をした 
 → 素材Aを手に入れた
 → 素材Bを手に入れた
・なんかイベントこなして、ボスも倒した
 → 素材Cを手に入れた
・武器屋に行って素材を使った
 → 強い装備が手に入った

だと時間がかりすぎるのです。これ装備を作るころには、探索をしていて素材Aを手に入れた記憶とかけっこう薄れてます。

なので、「強い装備を手に入れた」という体験も

×  探索したら強い装備が手に入る
○ 素材が集まった時に武器屋に行ったら強い装備が手に入る

ということになるので、「探索したら良いことがある」という学習は弱くなります。探索と結びつかないので、探索の面白さからは遠ざかるのです。


◆「素材を集めて装備を作る」は絶対悪なのか?

さて、この仕様の悪影響について書いてきましたが。これまで書いてきた悪影響は、ゲームデザインの考慮漏れから発生するデメリットだと思っています。

例として、私が『CrossCode』を遊んだ時に感じた問題点を挙げると、

①なんか新素材が手に入った!用途はわからん。
②広大なマップの中、装備毎に作れる場所が違う。探すのが面倒。
  ↓
 手に入れた素材が、どこで使えるのか、何を作れるのか分からねぇ!!

というのがありました。

しかしこれ、逆に言えば

①新素材が手に入った時に、用途が分かる
装備を作る場所が一本化されていて、すぐにアクセスできる

という状態であれば

②宝箱だ!なんか使い道のよく分からない素材が手に入ったぞ……?
(手に入れても、用途が分からず嬉しくない
 ↓
②宝箱だ!すげー良い素材が手に入った!やったぁ!!
(手に入れてすぐに用途が把握できれば、素材の価値が分かるので嬉しい

という状況に変えられるんじゃないかと思います。

このように、上手く扱うことができればデメリットを抑えられるので、絶対悪の仕様ではないと思っています。冒頭で書いたようなメリットもありますし。

ただ、それを成立させるための設計難易度が地味に高い上に、ミスると探索の面白さを殺すので、意外とリスキーな仕様です。
このあたりのバランス調整に自信がないのなら、大人しく装備を生で出して合成機能を捨て去った方が安定して面白くできるとは思います。

やった方が良いと思うならやれば良いと思うけど、意外と難易度が高いから気を付けてねって感じ。


◆まとめ

今回の話をまとめると、

①「素材を集める」形にすれば、報酬の量と質をコントロールしやすい
 ┗ 気軽に渡したいなら、必要数を多くした素材を用意
 ┗ 貰って嬉しくしたいなら、必要数を絞った素材を用意
   ┗ ただし、素材で「貰って嬉しい」は意外と難しい
②探索の面白さは、「報酬と期待のサイクル」を回すことが大事
 ┗ サイクルが強いと、ポジティブな気持ちで探索できる(楽しい)
 ┗ サイクルが弱いと、ネガティブな気持ちで探索する(損したくない)
③サイクルの起点となるのは「報酬をもらった瞬間に嬉しいか」
 ┗ 報酬が分かりやすく嬉しいほど、サイクルは強くなる
 ┗ 用途不明の素材が手に入るだけだと、サイクルは弱い 
 ┗ 報酬が手に入って60秒以内に「嬉しさ」を提供できないと弱い
    ↓
 「素材を集めて装備を作る」だと、「嬉しい」が遅くて弱い。
 そのせいで探索の面白さが殺される。
④条件次第では、素材でも「嬉しさ」は作れる
 ┗ 条件①:新素材が手に入った時に、用途が分かる 
 ┗ 条件②:装備を作る場所が一本化されていて、すぐにアクセスできる
 ┗ 意外と調整難易度は高いので、注意

 ってな感じです。


◆ちなみに、探索が面白いゲームって何がある?

私が真っ先に思い浮かぶのは、フリーゲームの「Nepheshel」です。昔のゲームですけども。

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尋常じゃない隠し扉の数とその先にある新装備で、探索の面白さを最大限に引き出しています。そして大量に装備があるにもかかわらずキッチリとバランスをとっているゲーム。

子供の時から好きな作品でしたが、ゲームを作る人間になってからは「このゲームを作った奴は狂ってる(褒め言葉)」とすら思っています。自分がアレと同等量のダンジョンを作れって言われたら発狂しそう。楽しいだろうけども。発狂する。

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あと、今回お話した「何かをしたら即、報酬を与える」という点について、かなりこだわったゲームがありまして、そう、『いのちのつかいかた』ってゲームなんですけど。

はい、その、作っているの私なんですけどね。はい。体験版が遊べるので、よろしければ遊んでみてください。探索が楽しくなるように作ってます。素材を集めて装備は作らないです。

この作品に関する続報とか、こういったゲームデザインに関する話なんかは、Twitterでバラいてます。

よろしければチェックしてみてください。

(以上、宣伝でした)

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