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今という瞬間は一度切りだから【エブリシング エブリウェア オール アット ワンス】

公開中の話題の映画。マイノリティの嘆きを楽しく映画にしたアクションコメディ。本年度アカデミー賞受賞の期待がかかる映画制作会社A24とミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァンに目が離せません。



エブリシング エブリウェア オール アット ワンス
2023年/アメリカ



【ストーリー】

コインランドリーを経営しているエブリンは
頼りない夫と年頃の娘を持つどこにでも居る主婦。
彼女は毎日仕事や家事、娘の教育に大忙し。
そんなエブリンが困っている事、それは税金。
そして夫との離婚問題。さらには娘との関係。
もういっぱいいっぱいの毎日。
だがある時、
夫のウェイモンドに別の宇宙から来た
ウェイモンドがのりうつる。
ウェイモンドからエブリンに告げられたのは、
全宇宙を襲う強大な悪と戦うために
開眼せよとの事だった。



【解説というか、レヴューというか】

地味な悩みに時々病んでしまう主婦。その姿にとても共感する
女性が多いのではないかな。

毎日の生活に追われ、追い詰められた時
つい過去を思い巡らしてしまいますよね。
どこでどう人生を間違えたのか、、
エブリンは頼りない夫を見て、
自分はコインランドリーで
税金に悩むような人生ではなかったはず、、
と過去を後悔しています。
もし、違う道を選んでいたら料理人だったかもしれない、また違う道を選んでいたなら女優だったのかもしれない。はたまた歌手だったかも、、

エブリンはスタイル抜群。
娘のジョイの体型に口を挟みます。
ジョイのタトゥーや同性愛は認めてはいるものの、
本音では認めたくない母エブリン。

なんか指がへーーん



そんなエブリンは中国系アメリカ人です。
アメリカは多文化、多様性を認めていると言いながらも白人優位な国であることは未だ否定できない。
多様性を推し進めながらも、
実際にはすぐ変わらない現実をエブリンを通して
知らせているのです。

そして差別的な扱いは映画の中だけの話しではない。

主演のミシェル・ヨーはハリウッドの映画界において、
アジア系の人間にくる役は、
いかにもステレオタイプな奥深さのないアジア人の役ばかり。
断っていたら2年も仕事がなかった時期があったという。
さらに女性俳優が歳を重ねると、仕事が減る現実にも直面している。

マイノリティであるアジア人が、
世界基準で活躍するのは難しい事を体現している。
夫役のキー・ホイ・クァンもハリウッドで活躍の場が
少なかった人物だった。

そうなんです、出演者たちのこの部分に
この映画の本質が見えてきます。

頼りない夫が急に、、




エブリンやウェイモンドは一体何と闘っているのか。

それは人種、年齢、性別、体形、身障者、同性愛など
マイノリティーを理由に不当な扱いを受けた時の

疎外感

と闘っているのです。



以下ネタバレします

そうゆう強大な闇にのまれそうになっても、
ちっぽけな力だけどマイノリティの存在を少しでも残したい。
見た目の先入観を持ってしまいがちな世間に対して、
自分はあなたが思うような人間ではないし、
もっとやれる事がある、いろんな可能性を持っている。
微力ではあるけど自分の能力は無力ではない。
そう主張したいのです。

たとえ世の中がベーグルみたいに穴が空いた無意味な世界でも、
私たちの存在を証明させたい。

なぜなら今という時は一度きりだから。


コレよコレ。
これこそがこの映画のでーっかいテーマ。
自分の存在を大・肯・定
アーンド、アッピール。

強大な闇にファイティングポーズで戦うのではなく、
手を大きく広げて、ほら見てごらんなさいと、
包容力全開で変幻自在のパワーを見せようとするエブリンには
込み上げてくるものがある。

壮大すぎて想像の遥か彼方をいく異世界ファンタジーに、
エライもん見ちゃった感がある作品です。



【シネマメモ】

白すぎるオスカー(アカデミー賞)批判が数年前に起こり、
多様性をアピールしたいアカデミーに
だいぶ乗っかった感がある今回のA24(映画制作会社)の作品。
オスカー狙いで作った映画という事でしょう。
アカデミーが好むポイントをしっかり押さえています。

お下品なシーンも行き過ぎたコンプライアンスに対抗していて
シネマジェンヌ的には好感あり。
大作映画とB級映画のあいだに位置するような、
新しい商業映画の可能性に新時代を感じます。


日本の枠の中で生きている日本人は
アジア人差別や疎外感を感じる事がほとんどないし、
なおかつアニメや漫画で異世界ファンタジーを見慣れているので
あまり感動しないかもしれない。 

しかし、世界で活躍するアジア人やこれから世界へ挑戦する
アジア系の人、
またはあらゆるマイノリティへの思いが込められている
心強くなれる映画。

この熱意を映像に出来るなんて、
素晴らしい作品だと思いました。



✳︎合わせてみたい映画
『シャン・チー』

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