#44 コンセッションは単なる手段(ツール)
公共施設を整備・管理する際に、行政の発想や財源だけで整備・運営するよりも、民間サイドのノウハウや資金を活用して、より効率的で魅力的なものにしていきましょうということで出来たPFI法の中にコンセッション制度なるものがある。
今回はそのコンセッション制度について書き綴っていきたい。
PFI法が出来たのは1999年(平成11年)で、もうかれこれ25年になるが(よく考えたら僕が役所に入ったのと同じ年なのね)、そのPFI法が改正され2011年(平成23年)に生まれたのがコンセッション制度である。
比較的新しい制度で、まだまだ導入件数も少ないコンセッション制度であるが、昨年度にはPPP/PFI推進アクションプランの中で「スモールコンセッション」が国の重点施策として位置付けられるなど、少しトレンド感が出始めたところでもある。
僕らのまち(岡山県津山市)では、すでに「旧苅田家付属町家郡整備事業(城下小宿 糀や)」と「旧グラスハウス利活用事業(Globe Sports Dome)」において、コンセッション制度を導入しており、現在、事業を進めている「歴史的資源を活用した施設の整備運営事業(城泊事業)」でもコンセッションでの運営を目論んでいて、これが上手く着地すれば3つ目の事例ということになる。
今回は、そのコンセッション制度について、導入にあたって気付いた点や、トレンドになりかけているからこそ気をつけておきたい制度上の留意点、僕が感じているコンセッション制度における最大のメリットなどについて記して行こうかと思う。
あっ、ちなみに今回の記事は、僕が以前に書いている下2つのnoteと完全にリンクしているので、こちらも必ず読んでね。
そもそもコンセッションって何?
この記事を目にしている大部分の方は、コンセッション制度という言葉を聞いたことがあると思うが、念の為、最初におさらいしておきたい。
コンセッション制度とは、PFI法に基づいた制度で、公共施設の所有権は行政側に残したまま、運営する権利(公共施設等運営権)を民間企業等に付与する方式のことをいう。
これまでどちらかというと、ハード整備の方にウエイトが高かった従来型のPFI事業であるが、運営についても民間側の裁量権を大きくして、比較的自由に運営できる制度がコンセッション制度の大きな特徴である。
2011年に制度がスタートして、当初は上下水道や高速道路などの料金徴収を伴うインフラ系のものと空港などで導入が進められてきた。
ハコモノ系はというと、有明アリーナや愛知県国際展示場(MICE)など、かなり大規模な施設での導入が進み、最近では新国立競技場の優先交渉権者がNTTドコモグループに決まったというニュースが記憶に新しいところだろう。
国が進めたいスモールコンセッションとは
前述のアクションプランの中に「スモールコンセッション」が盛り込まれたこともあって、昨年度(2023年度)には、「スモールコンセッションの推進方策に関する検討会」なる委員会(国交省)が立ち上がり、僕自身もその委員に名を連ねることとなった。
今年度も、各省庁が連携して、全国でスモールコンセッションの動きを加速させて行きたいという動きが強まっている。
一般的なPFI事業は大規模な施設整備を伴う事業が中心で、事業規模が100億円を超えるようなものも珍しくない。
ただし、これだと政令市や中核市くらいの自治体でなければ現実的ではないし、そもそも行政主導型のPFI事業は、大多数が税金投入型であり、大企業による寡占的市場ということもあって、地域経済に対するインパクトも薄いというのが実情である。
そこで、地方都市でも比較的導入しやすく、公共施設の維持管理費の軽減にも効果が高く、地域経済への貢献も期待できるスモールコンセッションを推しているという訳である。
ちなみに、スモールコンセッションとは、事業規模が10億円未満くらいのものを指すらしい。(←明確には決まっていないようだ)
こういった動きが加速していくこと自体はもちろん悪い話ではないし、歓迎すべき流れであろう。
まずPFI法を理解する必要がある
コンセッション制度は、空港やMICE施設のように大規模な施設でなくとも導入可能であり、決して市場の大きい大都市に限定されるものでもない。
事実、僕らのまちで最初に取り組んだ「旧苅田家付属町家郡整備事業(城下小宿 糀や)」の床面積はわずか540㎡ほどの公共施設である。
今はどうか知らないが、当初は自虐的に日本一小さいコンセッションと呼んでいたが、国の方でスモールコンセッションなる呼び名を作ってくれたので、今では対外的に説明しやすくなって、ありがたく感じている(笑)
余談はさておき、コンセッションを導入するためにはPFI法をしっかり理解する必要があるが、特に重要なポイントとなる条文を下記に列記する。
第16条も第23条もさらっと書かれているので、深掘りする人は少ないだろうが、ここにコンセッション制度の本質的なことが定義されている。
公共施設等の運営権を民間企業に設定することができる上に、その利用料金も、その運営権者が決めて良いと書いてあるのだ。(届出は必要だけど)
これがいかに凄いことなのかは、地方自治法と見比べるとよく分かる。
公共施設と切っては切り離せない地方自治法というジレンマ
公共施設の整備や維持管理・運営とは切っては切り離せないのが地方自治法で、こちらは身近に感じている公務員も多いことだろう。
身近な法律だけに、PFI法と混同しがちで、そこに落とし穴が潜んでいるのである。
特に「公の施設」について書かれている第十章に着目してほしい。
PFI法と地方自治法には、同じような感じで利用料金のことが書かれている。
これ、自治法をよく読んでみると、公の施設は設置管理条例を定めなければならず、利用料金もその条例に定めるところによる、と書かれてある。
指定管理者によって利用料金が決められるように書いてあるが、その前に条例で定めなければならないのだ。
両者の法律の違い、制度を運用する上でのポイント、2つの法律を上手に使いこなすためのコツなど、答えは上にリンクを貼り付けているnoteに書いてあるので、そちらを読んでほしいのだが、これをちゃんと理解しないとコンセッションの最大の特徴である利用料金設定のメリットは発揮できない。
コンセッション制度の最大のメリットは、その利用料金を条例によらず設定できる点に他ならない。
ただ、このメリットを活かすためには自治法の網をすり抜ける必要がある。
これの理解と手法は、上記のnoteをじっくり解読してほしいのだが、かなりの人が沼にハマると思うので先に断っておく(笑)
大事なのは制度のことではなく中身
さて、今回のnoteと前述のnoteを読んで、コンセッション制度という手段を仮に上手に使いこなせてみたとしても、そもそものところ、一番肝心なのは、制度ではなく中身の方である。
指定管理者制度でもコンセッション制度でも同様に言えることだが、上手くいかないのは制度の問題ではなく、コンテンツそのものであることが大多数である。
つまり中身の問題である。
コンセッションという制度を上手く使いこなせば、民間の裁量を最大化することで公共施設の運営は劇的に向上するだろう。
それは制度の利点を最大限に活用した場合であり、制度のことをちゃんと理解せずにコンセッションだけを導入してみても、あれっ?ということになりかねないし、中身がどうでも良いものに、コンセッションを組み合わせてみても、結局は1.0未満どうしの掛け算みたいになるのがオチなのである。
そうコンセッションは、魔法の玉手箱でもなんでもなく、単なる手段(ツール)であるということを断言しておきたい。
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