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サービス・デザイン分野における研究者の役割

2018年6月18-20日にミラノ工科大で開催されたサービス・デザインの学会「ServDes2018」に参加してきた。ServDesの参加は今回が初。論文(The Coconut Innovation Framework: An Innovation Framework focusing on Resources)が採択されたので、口頭発表をしてきた。

ServDesは2年に一度開催される学会で、参加者はほぼ研究者だ。もう1つのサービス・デザインの大きなカファレンスと言えば、Service Design Global Conference(以下、SDGC)で、毎年開催されている。こちらの参加者は、事業会社、コンサルティング・ファーム、パブリックセクター・がメインで、研究者の割合は少ない。

初めてServDesに参加し、いくつかのセッションで発表を聞いてみて、個人的に妙に変だなと感じた違和感について、ビールを飲みながら整理してみたい。まず、前提として、自分は大学に勤務する研究者であるから、ポジションからくるバイアスは存在する。コンピュータ・サイエンスの領域でも近いものはあるが、端的に言えば、「大学・研究機関が取り組みやすく、かつ、民間(サービス・デザインの場合、企業やパブリック・セクターの実践者)が取り組みづらい研究」が少なかったことから来ているのだなという仮説を立てた。

自分にとってSDGCで刺さる発表は、事業会社、コンサルティング・ファーム、パブリック・セクターの実践者による、複数年に渡り、結果を出したプロジェクトから得られた知見の話だ。これは、研究者が取り組むにはなかなか難しく、彼らにしかできない類いの発表だ。かつてTakramの隅の方で働いていたときのことを振り返ってみると、クライアントの話を含め、NDA絡みで公開できない話と公開できる話を比較すると9:1くらいの割合になる。公開できない部分を削っても、現場で得た生の声は非常にいきいきとしている。聞いていても非常に興味を引かれるだけではなく、実際に自分が現場で活かすこともできる。

先に挙げた「研究者が取り組みやすく、かつ、民間(サービス・デザインの場合、企業やパブリック・セクターの方)が取り組みづらい研究」とはなにか?サービス・デザインの領域に関していてば、骨太のサーベイ・ペーパー、複数のケースをデータとして扱う理論研究、複数の企業を対象とした横断調査、長期に渡る縦断調査、新しいツールやメソッドの緻密な検証などが挙げられる。中途半端に、既存のツール、例えば、今更Double DianmondやJourey Mapをつかって、(プロダクト・)サービス(・システム)のプロトタイピングをしました、運用?なにそれ?といった事例を発表されても、正直、2018年現在では、あっそう、程度の感想しかなない。現場で回して改善してこそのサービスであるためだ。

同じセッションの別の発表者の質疑の中で、サービス・デザインにおける企業と研究機関の違いに関する話題があった。詳細は省略するが、アカデミアの持つデータは古いなどと揶揄されていた。この指摘については納得する部分が多い。研究者が参照するデータは、国際会議であれば1年前、ジャーナルであれば2-3年前、書籍であればさらに前のデータが対象となる。ことサービスデザインの分野に関しては、現場に近い分、企業の実践者の方が最新のデータへのアクセシビリティは高い。

冒頭のキーノートにてミラノ工科大のチームが作成したService Design Mapでは、日本の存在感のなさが際立っていた。高等教育機関は0、企業はGood Patchのみが登録されている。古巣のKMDには、今年からサービス・デザインコースができたそうだが、SEOがうまく効いてないのか、彼らはキャッチアップできていない。ムサビの大学院造形構想研究科が設立されれば、登録はされそうではある。

現在、いくつかの国内学会(デザイン学会、ヒューマン・インタフェース学会など)にサービス・デザイン部会は存在するものの、国内にサービス・デザインを主軸とする学会は存在しない。SDNのJapan ChapterであるSDN Japanは、コミュニティであり、ミートアップを行っている。しかしながら、いわゆる学会ではなく、論文誌も存在しない。仮に新しいサービス・デザインを主とする学会が設立されるならば、研究者は、そのポジションから取り組みやすい研究を真摯に追求し、一方、事業会社、コンサルティング・ファーム、パブリックセクターは、現場に近い実践者としての知見を共有できるような場であってほしい。どちらが優れているという議論ではなく、どちらも必要なのだ。

以下余談。前のセッションが押しすぎていて、我々のセッション(Producing, Distributing & Organizing)は、15分遅れで開始した。セッションが終わったときには30分押しだったのはさておき、自分の質疑がカットされたことにはかなりフラストレーションを感じた(正確にはあとでまとめてのあとでがなかった)… 若干、人種差別か?と思ったのだが、まぁそこはアジア人が言ったところで仕方がない。男は黙ってジェラートを食べて気分転換をするしかなかったのであった。

それではごきげんよう。

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