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元世界王者の木村翔が2年3カ月ぶりのリング 紆余曲折乗り越え進化した姿を見せられるか 2022年5月9日

◇フライ級8回戦
 木村翔(花形) 24戦19勝(12KO)3敗2分
 ×
 堀川龍(三迫) 5戦3勝(1KO)1敗1分

 元WBO世界フライ級チャンピオンの木村翔が2年3カ月ぶりの試合に臨む。日本国内での試合は、世界タイトルを失った2018年9月の田中恒成(畑中)戦以来、実に3年8カ月ぶりだ。

 もちろんブランクには理由があった。

「前回、フィリピンでの試合(20年2月、元WBOミニマム級王者メルリト・サビーショに2回TKO勝ち)が自分の中では世界前哨戦くらいの気持ちだったんです。だから次は世界タイトルマッチなんだと。そうでなくちゃモチベーションも上がらない。それがコロナもあってなかなか決まらなかった。結局、ズルズルきてしまったという感じでした」

 日本でも無名の存在だった木村が上海で中国のスター選手、ゾウ・シミンを番狂わせで下して世界王座を獲得したのが2017年のこと。一躍スターダムにのし上がったシンデレラ・ボーイは2度の防衛を成功させ、我が世の春を謳歌した。田中とのV3戦に敗れたものの、手に汗握る激闘ファイトは年間最高試合に選ばれ、ボクサーとしてのステータスをさらに高めた。

2018年9月24日 WBO世界フライ級 タイトルマッチ12回戦  VS 田中 恒成

 ところが19年5月、WBAライト・フライ級王者のカルロス・カニサレス(ベネズエラ)に敗れると、表舞台に姿を現す機会はめっきり減った。そして木村の名前をほとんど耳にしなくなったころ、思わぬ形で“事件”は起きたのである。

21年12月、木村は中国で行われた格闘技イベントに出場した。そこで中国の格闘技選手を相手にボクシングルールのエキシビションをすると聞かされていたのだが、蓋を開けてみれば蹴られ、投げ飛ばされ、という衝撃の内容。この映像がSNSで拡散されると、中国でも、日本でも、大騒ぎになってしまう。木村をぶん投げた中国人格闘家へのバッシングはもちろん、そのようなイベントに出場した木村を軽率だったと非難する声もあった。

 木村はいまだなぜ“事件”が起きたのか、理解できずにいる。

「なんであんなことが起きたのかいまだに分からない。今になって思うのは、自分一人で中国に行ったのがまずかったということ。あのとき、コロナ対策の隔離期間が中国に入って3週間、日本に帰ってきて2週間あった。だから周りに負担をかけるもの悪いと思って自分一人で中国に行った。現場では片言の日本語を話せる通訳がいるだけで、完全に一人の状態だったんです。だれかがいてちゃんと向こうの人とコミュニケーションを取れていたら違ったと思う。僕一人だったから“やられた”という感じはすごくしました」

 当初はエキシビション後も中国に滞在し、翌年3月に現地で試合をするというプランもあった。しかし、予想外の事態に見舞われて計画は白紙となる。SNSで批判を受け、「けっこう精神的にダメージを受けた」という木村は逃げるようにして日本に帰国。日本ボクシングコミッションは年が明けて3月、木村に戒告処分を下した。

 とんでもない災難ではあったが、この一件で木村の気持ちが吹っ切れたのは“けがの巧妙”と言えるかもしれない。木村は帰国してすぐに「日本で試合を組んでください」とジムに申し出た。目標とする世界再挑戦に向けて、原点に立ち返って日本で再スタートを切ろうと決めたのだ。

 木村は試合ができなかった2年3カ月を無駄に過ごしたわけではなかった。特に力を入れたのがフィジカルトレーニングだ。世界3階級制覇の八重樫東を指導した和田良寛トレーナーのもと、体の使い方を勉強しながら強靱な肉体造りに励んだ。

「パワーはついたと思いますけど、どれだけ力を抜いてパンチが打てるか、というところにもフィジカルトレーニングの成果が出ると思います。そういうことを和田さんに教わってきた。いまは一発で倒せるパンチ力がついたと思います」

花形進会長、木村章司トレーナーと

フィジカルが和田トレーナーなら、ボクシングは木村章司トレーナーだ。こちらもタッグを組んで1年あまり。技巧派だった元日本王者の木村トレーナーの指導を受け、木村のボクシングは「以前とはまったく違う」と本人が胸を張るくらい進化したという。

「昔のボクシングはスタミナをつけて前に出て殴るだけ。詰めて自分の距離になれば強いけど…という感じです。あのスタイルも好きですけど、今は脚も使えるし、ディフェンスも章司さんに教えてもらってたいぶ変わったと思います。もうね、30歳すぎて殴られてたらダメですよ(笑)。あとは練習したことが試合で出るかどうか。そこを楽しみにしています」

24歳という遅いデビューから階段を駆け上がり、世界チャンピオンまで登り詰めた木村も33歳になった。悲壮感を漂わせるわけではないが、「負けたら引退」という気持ちに変わりはない。

「もう一度世界戦をやらないとすっきりしないというのがあるんですよ。だから次の試合で負けて引退だったらもっとすっきりしない。そうなると世界戦のチャンスをつかめるまで勝ち続けるしかない。背水の陣? そうですね。次も調整試合なんてまったく思ってないですよ」

 対戦相手の堀川は高校時代にインターハイ優勝経験のある22歳。崖っぷちの雑草チャンピオンが恐れを知らないホープを全力で迎え撃つ。

<渋谷淳>


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