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tinderの片隅にある不倫|尾道旅行

どこにもない景色。
福山駅から、尾道への電車は私の住む地方にはどこにもない景色だった。
人が少ない地域にしかない何か。
海と山に挟まれた線路を走る電車。
独自の文化がある景色。
レトロで、新しくなっていかない。
ピカピカの役場や公的なお金が投入されて急にそこだけ新しいことが違和感を醸し出したりする建物がない。
中国地方の独特な雰囲気なのかな。
人は少ないけれど学生は多いんだ。
そういう私の彼もこの辺りの大学に通う大学生だ。

尾道に向かう電車の中で、ドアの前に言葉すくなに2人で立ちながら、そっと手を繋がれた。
ひやっとする長い指。
私がツンッとすましてしていられるのは、彼の私への一心の愛が、私をどこまでも調子に乗らせてくれているからだ。
軽く繋ぎ返した力の何十倍も私はこの子が好きでいっぱいだった。
電車が着くと、そこは世界から切り取られた別世界だった。
私と彼の為に特別に作られた空間。
こんなにも相応しい場所は他にはないんじゃないだろうか。
ここを初めての旅行に選んだこの子はなんて天才なんだろ。
こんな特別な場所に特別な子ときた。
特別な私たち。
この子といると私が特別な存在に思える。
2人でいたら誰もいない別世界にも行けるんじゃないかって気がしてしまう。

今朝までこの旅行は来られないかもと思っていた。
昨日まで風邪が治らず、家にある薬を必死に調べて、合っていると思える薬を飲み、ひたすら寝ていた。
起きる度に彼にLINEで体調を報告した。
朝起きてもまだ頭痛があった。
でも、新幹線でコーヒーをゆっくり飲むと頭痛はどこかにとんでいった。
頭痛の原因はカフェインの不足だったのかな。

「行ったら風邪がうつるかも」

そういう私に

「一緒にいた証拠でしょ。みーちゃんの風邪菌と一緒にいられるなら、みーちゃんと会ってたことが夢じゃなかったって証拠になる。旅行の余韻が楽しめて嬉しい」

と、コロナじゃなかったら頑張って来てほしいとの彼に甘えて、治りきっていな身体のまま来てしまった。
でも、福山駅の新幹線口から出る前に見つけた、柱の影の長身の彼。
俯いて携帯の画面に釘付けでいる。
私からの到着LINEを待っているんだ。
見つけた瞬間、緊張しすぎて、まだ存在に気がついていないフリをしてお手洗いに駆け込んだ。
そこで鏡でメイクをチェックした。
私おかしくない?何歳離れているんだっけ?
そんなことを考えても今更どうしようもない。
精一杯平気なフリをして改札を出た。
彼の顔を見た瞬間、風邪と年の差はどっに行っちゃった。
私が食べたいって言った「八朔大福」を駅ビルのお店で探して買ってくれていた。
それをバックに入れて、尾道に到着した。
海のすぐ向こうにもうひとつの陸がある。
お天気がいい。海風だ。
改札の向こうに見える尾道の景色にどこにもない景色を見た。

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