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エリートの、ふりしてアート「寄せ絵にみる、ヒトの認知のしくみ」

 ある要素(果物や魚介類、人々、、etc)を組み合わせ、一つの図像を表現している絵画を”寄せ絵”と言います。今回はこの寄せ絵が、ヒトの認知のプロセスを解き明かすヒントになることを紹介していきます!20世紀美術や現代アートを理解するのに役立つので、ご一読ください。わら


アンチンボルド『四季「春」』

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 1526年ミラノに生まれたアンチンボルドによる作品です。

 花や草、蔓から構成されるこの作品は、それぞれの要素がとても美しい自然物であり、全体は肖像画になっている優美な作品です(奇妙だと感じる人もいますよね?)

 この作品を見るとき、私たちはどうして肖像画だと認知できるのでしょうか?

 構成要素は細胞で出来た皮膚や眼球、耳が描かれているわけではないのに、、、


歌川国芳『みかけハこハゐが とんだいゝ人だ』

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 1798年生まれ、江戸の浮世絵師、歌川国芳の作品です。

 タイトルの通り、一見強面の兄さんが肖像として描かれています。しかし、その顔や手指は、人が様々なポーズをして構成されているではありませんか!

 眉下から鼻を構成している人は窮屈な体勢で、耳を構成している人はユーモラスで愛らしい姿勢をとっています。かわいい

 そして、不思議なのが、それぞれの人を凝視すると、全体を肖像として捉えられないのがお分かりですか?あるいは、絵の一部を手で隠して見てください。隠し方によって、全体が肖像画であると認識できないところがあると思います。一方で、かなりの面積を隠しているのに、顔が描かれていると認識できるポイントもあるかと思います!

 この不思議なヒトの認知を解き明かすキーワードが、”ゲシュタルト”です(厨二感満載www)


『ヒトの認知はゲシュタルトによる』

ゲシュタルトとは、

「ヒトが対象物を認識するとき、個別の要素の合計で把握しているわけではなく、個別の要素の集合体となった対象を認識している」という考え方!

ちょいと分かりづらいので、上のアンチンボルドを例にあげると、

「花と草が複数あり、その集合が肖像画になるのではなく、集合体が肖像画に見える。」

ということです(面白い!)


『無意識の推論』

 ゲシュタルト認知は、目で受容した光を、脳が「ああ、〇〇と〇〇があり、その組み合わせからこれは顔だろうなあ」と推察し、脳内で像を作り上げていることを示しているのです。

 絵画における図像も、現実の対象である絵画を脳に写すのではなく、”無意識”に見る人の知覚や想像、期待、他の知識(記憶から思い起こされる像)を表しているのです!

 同じ対象を目の前にしても、人によってその見え方は異なるという事実が、以上より理解頂けたかと思います。見え方とは単に視覚的な話だけではなく、認知として捉え方が異なるという意味です。

 12人の人々が会食をしている絵を見たとき、東洋人は”会食をしている”というレベルでしか認識しないのに対し、西洋人の多くは”キリストを連想する”という違いがあるように、、、

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『作品で何を認知するか、それがアート史』

 西洋絵画の発展を段階的に探ると、時代ごとに何を認知し(あるいは認知したくて)、描いてきたかが分かります。そして、これがアートを鑑賞する上でかなり重要です!追って見ていきましょう(yeah)

①遠近法や色の原則を用いて、実際に見ているものを描きはじめたのが、ダヴィンチ以降の絵画表現です。

②その後、実際に見ているものを絵画以上に捉えられる写真が出現しました。omg

③当時の写真技術では表現しづらい、戸外の自然光やそこに映る人々の雰囲気を印象派が表現しました。

④そして、視覚の構成要素に疑問を抱き、形の単純化に挑んだのがセザンヌ色で情景の雰囲気や匂いを認知することに挑んだのがナビ派です。

⑤セザンヌが試みた形の単純化(自然は3つの形から構成されている:立方体、円錐、球)に影響を受け、より構成要素を単純化し、さらには遠近法を解体して作品を作ったのが、ピカソやブラックのキュビスムです。

⑥その後、色や線だけで対象を認知するモンドリアンやマレーヴィッチが出て来て、抽象表現主義やミニマリズムへと続きます。

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 以上のように、表現方法の系譜は認知の系譜であり、この流れを理解した上で読み解ける作品がかなり多いです。知っているだけで、アートの楽しみ方が何倍にもなること間違いなしです!

 さあ、外へ出て、鑑賞の場へ繰り出しましょう。


「我々は、物理的世界に直接的にはアクセスできない。直接アクセスしているよに感じるが、それは脳が創った幻想である。」

ー認知心理学者:クリス・フリス


『おまけ』

 歌川国芳の『みかけハこハゐが とんだいゝ人だ』はアンチンボルドの『弁護士』という作品のオマージュだと考えられています。

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 さらに、スペインの画家、ダリは国芳の人を構成要素とした寄せ絵を現実世界で行い、写真に収めているのです。

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これはダリってる作品ですなあ、映え。

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