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《短編小説》霞むと、あなたが、よく見える

 この業界では珍しいことじゃないし、2030年の大インド帝国ではどんな職業でも徐々に増えてきている存在なんだろう。だとしても、こいつらを好きになれない。”本土”から来た、年下の上司だ。

 2022年11月4日に中華人民共和国がインドとの10ヶ月間の戦争に破れ、日本もその1ヶ月後、インドの属州として取り込まれた。。。いまとなっては国という共同体を有するのは、アメリカ合衆国とゲルヒトライヒ、そして大インド帝国のみである。2024年以降、自分が日本人だったという自意識は薄れていき、いま書いている日本語も時折脳から出てこなくなる。死語となった「ぐぐる」こともできず、僕らより前の世代が使っていた、美しい日本語を検索する術はない。

 エンジニアとしてプログラミングが出来た僕は、あの法律が2024年に施行されて以降、なんとか人間として生きてはいるが、カーストの上位に登り詰める手段は無い。一方、本土の人間は努力や経験を伴わずともカーストの三位、ヴァイシャは担保されている。どんな行いをしようとも、シュードラとして扱われることはあり得ないのだ。

 僕より若いヴァイシャの彼は、身分だけでなく、当然、職位も上なのだ。アルゴリズムに対する理解やコードを書く能力は僕の方が勝るのに、だ。この事実からだけでも、読者諸君の生きる時代はいい時代だったのだと、気づいてほしい。その想いだけ伝われば幸いだ。

 2030年の僕が送る事実、素晴らしい時代に生きているあなたたちへ。

『人間とヒトとが分けられ、飼う者と飼われる物に分けられた』

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