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アートのお話

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アートに含まれるモチーフ、寓意を解説し、アート鑑賞をより楽しくする手立てになれば幸いです!
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記事一覧

ファムファタルのイメージが現代の私たちにもたらした事

 ”ファムファタル”は”運命の女”と訳され、そこから転じて「男をその性的魅力を用いて、破滅させる女」として認識されている。このイメージに大変違和感を感じたのは、私がモローの『出現』を見たときである。 ギュスターヴ・モロー『出現』1876年  本作は少女サロメが聖ヨハネの幻影に対峙しているシーンである。サロメが、ファムファタルの代名詞として、多くの人がこのイメージを取り上げる。しかし、本作を観察していくうち、サロメは俗に言う”ファムファタル像(=男をその性的魅力を用いて、破

虚構と現実の絵画:2つの世界が織りなす”真の現実”

 実際にはあり得ない虚構の世界を描写したシュルレアリスムの画家の絵を見たとき、あなたはどのような感情になりますか? ジョルジョ・デ・キリコ『赤い塔』1913年 「こんな世界はないし、空想を描いても面白くない。」 「毎日の夢で見るような光景で共感できる。」  このように人それぞれ感じ方は異なるかと思います。僕は、彼らの作品を観て大変共感できるし、その夢のような虚構の世界もまた、一つの現実であると感じております。世の中には、虚構と現実を合わせた”真の現実”を絵画に落とし込

セザンヌの親友でマネを評価した小説家:エミール・ゾラ

 こちらの記事で、マネのスキャンダラスな絵画『ナナ』を紹介しました。マネは『草上の昼食』で賛否を巻き起こした後にも、破廉恥な内容の絵画を作り続けたのです。 マネ『ナナ』1877年  当時の人々には受け入れがたい画題を描いたマネは、多くの非難を浴びせられます。一方で、彼を擁護した人物もいるのです。その代表格が、エミール・ゾラでマネの作品の批評を書き、それらを評価します。 【ゾラとマネは仲良し?】 ゾラは小説家として、当時の社会を映し出す作風で執筆していました。中でも、18

『あやしい絵展』見逃した方はYouTubeで楽しもう!:怪しい妖しい奇しい世界を2チャンネルが解説

 緊急事態宣言下で、大規模商業施設から美術館まで多くのエンタメ空間が休業しております。国立近代美術館で開催中の『あやしい絵展』も例に漏れず、臨時休館中ですね。  江戸末期から昭和初期に作成された、怪しい、妖しい、奇しい作品を集めた本展はとても好評で、土日の当日券には列ができるほどでした。期間中、より多くの方々に見ていただける機会を失ってしまった展示をYouTubeで紹介しているチャンネルがございます! 【美術系Youtuberいとはる】 優しい言葉で、配信者いとはるが感じた

マネの衝撃的絵画は『草上の昼食』だけではない!?:寓意だらけの『ナナ』

 エドゥアール・マネ『草上の昼食』1863年  19世紀後半、印象派に先駆け、当時の画壇に新しい風を巻き起こしたマネ。1863年に発表された『草上の昼食』は、その主題が破廉恥な内容として捉えられ、笑いとスキャンダルを生みました。当時の絵画は、神話や歴史を主題にした作品を王道として扱っていた為、それにそぐわない物は絵画として認められなかったのです。『草上の朝食』は男性2人の間にいる裸の女性が問題でした。神話画ならヴィーナスなどの女神が、その物語の文脈で素肌が露わになること

知っているようで知らなかった!?:富嶽三十六景トリビア3選!

 日本のみならず、世界でその名を馳せたのが葛飾北斎。現在の日本国のメインビジュアルに採用されていたり、印象派に強く影響を与えたことで有名ですね。  今回はそんな彼の代表的なシリーズである”富嶽三十六景”にまつわるトリビアを紹介します。作品をよく見ていなければ気づけない事やちょっとした豆知識などを取り上げます。 【三十六景なのに作品数は〇〇枚!?】 そのタイトルのように富士山を描いた作品が36図あると思っている方が多いと思いますが、実はそうではありません。当初は『神奈川沖浪

ジャポニズムの火付け役、葛飾北斎:西洋絵画に引用された作品を紹介!

 LIFE誌が1999年に発表した『この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人』の中に、日本人で唯一選ばれたのが葛飾北斎です。  欧米で認められた彼は、西洋にどのような影響を与え、どんな引用をされてきたのでしょうか。皆さんよくご存知の画家が、北斎の構図を用いた例を紹介していきます。 【葛飾北斎×ポール・セザンヌ 】 セザンヌといえば”近代絵画の父”と呼ばれる存在で、多くの人がその名を耳にし、実際に作品を目にしているのではないでしょうか。そんな彼も北斎から学び

狂った愛の結末は!?:神話の恐ろしい恋愛”メディア”part.2

 愛しすぎた為に相手を憎んだり、人々が理解できない行動にでる。そのような人物が神話や小説に描かれることがありますよね。その代表例として、ギリシア神話のメディアを取り上げてきました。前回までのお話はこちらにございます。 【イアソン金羊皮を奪取!?】 王のいくつかの試練を突破し、いよいよ金羊皮を守る竜と対峙するイアソン。その強さは折り紙付きです。メディアの助けで竜の住処であり、金羊皮のある場所まで辿り着いたイアソン。いざ、戦おうと思ったら驚き。竜が眠っているではありませんか。こ

恐ろしくも美しい愛の物語:映画『ドラキュラ』石岡瑛子の衣装がキャラを引き立てる

  アンソニー・ホプキンスが本年のアカデミー賞で主演男優賞を獲得したことを知り、彼の作品を改めて観たいという衝動にかられ、映画『ドラキュラ』を鑑賞しました。本作は1897年、アイルランド人作家のブラム・ストーカーの同名の小説を基に作られた1992年の作品です。監督は『ゴットファーザーシリーズ』のフランシス・コッポラ、主演のドラキュラをゲイリー・オールドマン、ヒロインにウィノナ・ライダー、ドラキュラの宿敵をアンソニー・ホプキンスが演じております。そして昨年、回顧展が行われた石岡

華やかなカジノには現代アートが盛り沢山:韓国のパラダイスシティ

 カジノといえば、華やかな館内でバカラ、ルーレット、ブラックジャックなどに興じる、富裕層の遊びというイメージがありますね。確かにそのような一面も垣間見れますが、世界のほとんどのカジノは一般の方も入れる社交の場として認識されています。筆者はポーカーが大好きで、一時期、韓国のパラダイスシティに3ヶ月弱入り浸っておりました。そこには、エンタメ施設としてカジノ、ホテル、遊園地が併設されている他、文化施設として多目的展示スペースやアートギャラリーを設けております。そんな統合型リゾートの

【展覧会紹介】アートとサイエンスから「わかりあえなさ」をわかりあおう part.2

 六本木の東京ミッドタウンの一角にある、21_21 DESIGH SIGHTにて《トランスレーションズ展》が開催中です。本展のタイトルになっている”翻訳”という言葉は、他言語同士の意思疎通を図る為に、お互いの言語を介しコミュニケーションを取る手段として認識されていますよね。しかし、本展では単に言語の翻訳だけでなく、言語で翻訳できない感覚の共有や身体感覚を他の感覚で翻訳したり、人間以外の生物と意思疎通を図るための取り組みを通して、”わかりあうこと”を前提とし、作られた数々の

【展覧会紹介】アートとサイエンスから「わかりあえなさ」をわかりあおう part.3

 六本木の東京ミッドタウンの一角にある、21_21 DESIGH SIGHTにて《トランスレーションズ展》が開催中です。本展のタイトルになっている”翻訳”という言葉は、他言語同士の意思疎通を図る為に、お互いの言語を介しコミュニケーションを取る手段として認識されていますよね。しかし、本展では単に言語の翻訳だけでなく、言語で翻訳できない感覚の共有や身体感覚を他の感覚で翻訳したり、人間以外の生物と意思疎通を図るための取り組みを通して、”わかりあうこと”を前提とし、作られた数々の

人ごとじゃない、あなたも加害者!?:表現の現場でのハラスメント

 ”ハラスメント”と聞いて、自分の周りで起きていないし関係ない。ましてや自分が加害者ではないと感じていないだろうか。  近頃、各種メディアでハラスメントが取り上げられ、その呼称も10年前に比べて増えてきている。セクハラ、パワハラはよく知られているが、TELハラ(事務内において電話受けの強要)、ハラハラ(ハラスメントハラスメント)という聴き慣れない言葉も存在する。どんなハラスメントにせよ、当事者にとって心的外傷を負う行為は、倫理的に見逃すわけにはいかない。そう感じ、正しさをわ

芸能人アート・美術系Youtuber3選:わかりやすさとおもしろトークで学ぶ

 僕が大好き、アート美術系YouTuberは以前紹介しておりまして、その記事は多くの方に読んで頂いております。今回はその第2弾です。  動画コンテンツでアートを学び、楽しむのは2年前にはほとんどなく、我らが美術系YouTuberいとはるがその走りになってますね。(↓いとはるさんの最も再生されている動画↓)  ここ1年で多くのアート解説動画がYouTubeに投稿され、それを専門にするチャンネルが増えました。今回はその中でも芸能人の方々が投稿されているユニークな動画とそのチャ