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東大生のノートは必ず美しい?〜はなぜ東大商法にすぎないのか。そして、受験生は読まない方が良い理由〜

東大生のノートは必ず美しい?

以前、高校でとある講演を聞かされたことがある。その講演は以前大手教育系企業に所属していた方ものだ。内容をかいつまんでいうと、「東大生のノートは必ず美しい。」というものだ。100人以上の東大生をサンプリングして、わかった事実だそうだ。学校ではその後、その講演に影響されてノートをいつも丁寧に取り始める人や生徒のノートテイキングに干渉する先生の姿が散見された。当時はこのことについて特に何も思わなかったのだが、後にわかったのは、これがいわゆるトンデモ商法であったということだ。わかったのは何年も経ってのことだった。

講演した方はその気はなく、高校生の学力向上に少しでも貢献するという善意の上での講演だったのだろうから、今後この人のことだけを殊更取り上げて批判することはしない。視点をもう少しマクロにしよう。巷にはよく、「東大生の〇〇」という本や特集がある。例えば、独自の勉強法や、子育てを紹介するもの、先のようなノート術を紹介するものだ

しかしこれらで得た知識を受験生を抱える親、教師、受験生はこの本を読んで闇雲に真似したり、人に伝えたりするのは危険だ

今回の記事は、これらの本や特集がおかしながち二つの間違いを提供することによってその危険な理由を説明するとともに、この記事をみた方を「東大商法」、「受験商法」に巻き込まれない手助けをしたい。

間違い1:特定の因子の過大評価とありふれた因子の過小評価もしくは恣意的な欠落

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上の図を見て欲しい。これは東大に合格の因子として考えられるものを並べたものだ。一番上の因子が、本や特集などでよく取り上げられる因子である派手なものである(それらが因果関係があるかどうかが定かではないので今回は一応あると過程する)。ただ、東大合格の因子は他にもあるだろう。一般的に、東大に合格するような子供を生み出す因子として、親の教育水準といった遺伝的要因、親の所得といった環境的要因が考えられる。

ここで、思い出してみて欲しい。それらの本や特集が親の教育水準や所得を取り上げることがあるだろうか?つまり、100歩譲ってそれらの本や特集が正しいとしても、親の教育水準や所得は因子としてコントロールされておらずそれらがどれだけ影響しているか、そしてそれらを踏まえた上でどれだけ因子としての効力を持つか示していないのだ。

つまり、そこにはマーケティング上派手な因子を過大評価して、背後にあるありふれた因子を取り上げない製作者の因子選択の恣意性が存在する。

間違い2:母集団が違う

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我々読者は東大生がどのような特徴を持っていて、どのような因子が我々を東大ないし、合格させるか知りたいとする。そこで上の図をみて欲しい。ここでは、「東大生のノートを100人に抽出して」東大生のノートが綺麗だと結論づけたとしよう。ここで、疑問が浮かび上がる。そもそもノートを見せてくれる東大生ってもともとノートが綺麗なんじゃないの?という疑問だ。つまり、ノートを見せてくれる100人を抽出してその全てがノートが綺麗で、東大生のノートは美しいと結論づけても、それはノートが綺麗な東大生はノートが綺麗というトートロジーにすぎない。

独自の勉強法だって、子育てだって一緒だ。ごくありふれた勉強法や子育てをしている人は本や特集に取り上げられるだろうか?取材をうけるだろうか?

つまり、「東大生の〇〇の法則」といったそれらのタイトルが想定する母集団と、実際に示している母集団が異なるのだ。それらの母集団は「もともと〇〇な東大生」という限定付きな母集団の場合がある。

タイトルを期待して、それらのコンテンツを消費した場合、損をすることにならないだろうか?

まとめと疑問〜製作者は恣意的にやっている?〜

今回は、少し批判的になったが、巷に溢れる東大本、特集のおかしがちな間違いを示した。一つ目は、マーケティング上ド派手な因子を取り上げ(一応因子としたが因子かどうかは定かではない)、遺伝的、環境的因子などといったありふれた因子を取り上げないということ(一つ目の図)。二つ目は、事例選択において特異事例だけを抽出し、それらが示す母集団とそれらのコンセプト、タイトルの示す母集団が食い違っていることだ(2つ目の図)。

受験生を持つ親や教える教師、受験生自身、これらの読むのは個人の自由として、これらの情報にことさら踊らされたり、ましてやそれを他人に教授するとなると被害者が広がるため、批判的に読んで、注意していただきたいものだ。もちろん中には、役立つものもあるだろうのでこれらの全てが間違っているとは言えないのだが。(記事の最後に一応おすすめを載せておきます。)

そして最後にこの記事を書くきっかけとなった疑問を呈して終わりたい。これらの本を書く人、売り出す編集者、ディレクターはこれらに説得力を持たせないといけないから総じて高学歴、または教育関係者だろう。そうともあろう人が、なぜ上のような統計学の基礎の教科書のはじめのページに乗っているような簡単な論理の間違いを犯すのだろうか?

恣意的でないことを祈るばかりである。

【東大生のノートは必ず美しいのリンク】


【参考文献】

久米郁男(2013)『原因を推論する。政治的分析手法のすすめ。』、有斐閣。

中室牧子、津川友介(2017)『「原因と結果」の経済学』、ダイヤモンド社。


【科学に基づいた勉強法に関するおすすめ本、記事紹介】



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