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言語化のメリットデメリット

質問
「いつも興味深い内容の動画をありがとうございます。過去に熟達対談にて、高野コーチがシーズン中は選手に自分の動きをなるべく言語化してほしくないとおっしゃっていたかと思います。その選手のレベルにもよると思いますが、ため生産は選手が自身のパフォーマンスを言語化することのメリット・デメリットについて、どのようにお考えでしょうか。また、それは自身ではなく他者のパフォーマンスを言語化する場合でも同様でしょうか。ぜひご意見をいただけますと幸いです。」

回答(要約)
言語化には一般的にメリットがあるとされていますが、デメリットも存在するのではないか、という視点です。この点を深く考えるには、そもそも言語とは何かを見つめ直す必要があります。

言語化とは何か。それは、世界から何かを切り取り、要約する行為です。ただし、言葉そのものと対象が完全に対応するものは存在しません。たとえば「猫」という言葉を使いますが、「猫」にも様々な種類があります。その「猫」という分類も、人間が恣意的に作り上げたものです。言葉は世界を乱暴に切り分けているのです。

具体例を挙げると、「猫」とは何かを考えたとき、三毛猫、白猫、黒猫といった実際の猫たちをすべて包括する抽象的な概念を指します。しかし、一匹の猫と向き合うときの体験は、その瞬間だけのものであり、二度と同じものはありません。哲学者の井筒俊彦さんは、「意識と本質」の中で「名付け」について語り、「一般的な猫」と「個別の瞬間に関係する猫」を区別しています。

今目の前にいる猫と私の関係は瞬間のものであり、過去にも未来にもない、唯一無二のものです。一方で先ほどのように一般的な猫を呼ぶ際もあります。これらを私たちは「猫」と呼びますが、両者は違うものです。

言葉の本質は、世界の一部を乱暴に区切る行為です。例えば、身体の動きにおいても同じことが言えます。右手を上げる動作を考えたとき、実際には左手でテーブルを押したり、体重を左に移動させたりと、全身が関係し合っています。しかし、言語化する際は「右手を上げる」という部分だけを切り取ります。こうして膨大な情報を圧縮して伝えるのが言語の役割です。

コーチングの場面でも、この言語化の特性は重要です。選手が自然に動いているとき、「その動きがいい」と言葉で褒めた瞬間、選手はその動きを意識してしまい、自然さを失うことがあります。これは、コーチが介入しすぎることで起きる問題です。言語化は動きを一部だけ切り取るため、選手が混乱することもあります。

一方で、言語には大きなメリットもあります。言語は乱暴で不完全な道具ですが、私たちが他者とコミュニケーションを取る上で欠かせません。また、言葉を使うことで、相手に具体的なイメージ以上の豊かな想像を促すこともできます。たとえば、動画や写真を見せるより、言葉で描写するほうが、受け取る人の解釈によって多様な可能性が広がることがあります。

総じて、言語化は乱暴な部分がある一方で、非常に有用で考えるに値する手段です。コーチングにおいても、言葉の扱い方次第で選手のパフォーマンスを向上させることができるのは、非常に面白いポイントだと感じました。 


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