
マッドマンストラテジー
人間が初めてチェスで機械に負けたのは、ガルリ・カスパロフとIBMが開発したディープブルーの対戦でした。ある局面で指した一手の意味がわからずカスパロフは戸惑いを覚えます。後年、開発者があれはエラーだったと明かします。
通常私たちは「それなりに合理的に考えている」という前提で、他人を向き合います。完全に合理的な個人という前提を変えて行動経済学は生まれましたが、それでも想定する人間像は、個人や集団の得を最大化しようという大きな目的は維持しています。
普通の交渉はどちらがより合理的かを競います。ところが、皆が合理的に振る舞う時に、非合理な行動をすると有利にことが運べる場合があります。意図的にそれを行うことをマッドマンストラテジーというそうです。
マッドマンストラテジーの基本路線は「なにをしてくるかわからない」と相手に想起させることにあります。普通に考えればこう来るはずだと考え人は対応の準備をしますが、もし何をしてくるかわからないとしたらその対応に自信が持てなくなります。
「もしかしたら」「万が一」のような不安が拭えません。頭がいい人ほど、自分と同じように相手も合理的に考えているという前提に立ちます。これは別の側面から見ると「相手のやることには理由があると考えすぎる」ことにもなります。
マッドマンはこのような局面で非常に強い力を発揮します。エリートほどマッドマンに翻弄されます。なぜならエリートは過去の経験から合理的に考えればこうするはずだというパターンが刷り込まれているからです。こうして、賢い集団は、一人の狂人に翻弄されます。その人が本当に狂人か、狂人を演じているだけかは関係なく。
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