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『僕の心のヤバイやつ』1巻全話・5行紹介+私見解釈

こんにちは。
この記事は『僕の心のヤバイやつ』1巻への導入、
および理解を深める目的で作成した。
あらすじと解釈、および考察で構成されている。

僕ヤバをザッと紹介する。
陰キャが秘めた優しさで捨て身の無茶などして高嶺ヒロインの心が動く1巻
友達感覚の肉迫で主人公に絡みまくるヒロインがやがて恋愛覚醒に至る2巻
交際未満の健全に爛れた関係性が暴発し一大カタルシスと昇華を見せる3巻
…ザッとし過ぎたと思う。以下続刊。

既刊の単行本3巻をまとめて読む形で入る事が最適だと私は思う。
私自身が3巻発売時から首突っ込んだニワカだからこそよく分かる。
私はたかが読者歴2ヶ月弱でこんなもん書いている身の程知らずだ。

百聞は一見にしかずなので、未見の方は無料で6話読んでくれ。
1話~6話まででも一本の作品として楽しめる。知るには十分な内容だ。

6話の先が気になったあなた、ひとまず既刊3巻全部読んでくれ。
私の駄文など読むよりその方がよほど有用だ。こんなもん後回しでいい。

合わないなら縁が無かった。私の駄文を読む必要など一切ない。

残った人らは私の趣味に付き合ってくれ。

まず、桜井先生による各話公開時のツイートをサルベージさせて頂いた。
7話以降は今は公開されていないが、現物がサワリだけ確認出来る。

15話までの各話紹介、基本5行なのですぐ読める。
「単行本の裏表紙に載っている内容紹介」みたいなものを目指してみた。
あえてヤマ場を言えば、6話、10話、14話、15話。
最短で理解するなら、1話→5話→6話→10話→14話→15話。
ただまぁ、段階が大切な漫画なので、本当は飛ばさない方がいい。

私見部分はあくまで私見。主に補足と解説だが、やたら長い。
まぁ話半分で聞いてくれ。普通に飛ばしてもいい。

前置きが長くなった。

主人公:市川京太郎。低身長。ぼっち。中二病。鬱屈。
ヒロイン:山田杏奈。高身長。美貌のファッションモデル。無邪気。

ぼくやばのりおDnXnkVwU8AA1dnU

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

Karte.1 僕は奪われた

「カッター回」
高嶺の花・山田杏奈。底辺の僕を見下すクソ女!いつか殺してゲットする!

……おや? 高嶺の花の 様子が……!
素顔は子供で雑な山田さん、カッターが無いのか。貸してあげる市川くん。
お前そのカッター、その子を殺すために持ってたヤツなんじゃないの!?
なぜかゴミを押し付けられたが天にも登る心持ち。ドルオタっぽくEND。

私見:
Karteはあのカルテ。中二病治療という当初のコンセプトのなごりらしい。
不穏で救いのない初期設定、ギャグ作家らしくぶっ壊してほぼ無効化。
(作者:桜井のりお先生。『みつどもえ』『ロロッロ!』など)
本作における重要拠点となる、図書室がメインの話。
1話時点で「山田を見守る親御さん」みたいになっちゃった市川と、
市川のキョドったキモメンムーブを全くキモがらない山田。

少なくともメンタル面では、この時点で2人の相性はかなりいい。
この遠巻きな関係性は、のちに掛け合い漫才的な形に発展する。
twitterでのスピンオフ(通称ツイヤバ)があるのでご参考までに。
ツイヤバ的な関係に至るのは2巻以降。

で。
謎のゴミ押し付け(捨てといて的な)行動。
のちに判明するが、実はヒロインによる親友認定に近い行為らしい。

通しで見ると分かりますが、ごく親しい仲でないとこういう事はしない。
優しい市川に早速つけ込み、ちゃっかり甘えるヒロイン山田という形。
とくに男子には割と人見知りっぽいので、作中において結構な珍事です。
ゴミが「お菓子の袋」で「中身をくれなかった」。今後類似の流れがある。
ちなみにこの主人公市川、
こんなハッピーなザマを晒していても、なお「好意」を自覚していない。

表面的な中二病など比にならない、重いものを抱えているんだろうか。
冒頭の加虐嗜好的な設定は、「自己肯定意識の代替物」っぽい印象。
この市川、なぜだか男性としての自己肯定意識が死んでいる。
元から山田に一目惚れしていたんだろうけど、恋愛という感覚が
意識の外になるほど「男性としての自分」に絶望しているんだろうか。
でも相手への恋心は死んでいないんだよな。恋だと自覚してないけど。

Karte.2 僕は憤怒した

「社会科の発表回」
一生懸命作った社会科の発表用紙…それを友達にボツにされた山田さん。
発表が終わるまで我慢してたけど、席に着くとポロポロ泣いちゃった。
それを見ていた市川、山田の気持ちを守るために行動する。

お前、その子殺すために持ってたカッターでその子助けてどうすんの?
悪目立ちのための凶行は空振り。あの子はよそ見して笑ってるEND。

私見:
語弊を恐れず言うとスカ回です。途中までカッコ良かったのにな!
内容的にも、前回と比べて新規要素は少ない。
一見、「市川の行動原理の変化」以外はそう重要でもない回…かな?
綺麗な顔が歪んでるの見たかったんじゃないの?もちろん違うよな。
で。
2点ほど、作品カラー的に重要な内容が含まれている気がする。
突然の窓の外のヘリ。
窓側への注目で山田の涙が見られる事を防ぐため、市川は
自分の班の発表終了と同時に、発表用の模造紙をカッターで切り裂く。
でも市川自身が制作担当したとはいえ、模造紙は班のみんなのもの。
「人に迷惑をかけるような悪事により益を得る事はない」という戒めか。
市川による同様の奇行はのちにも何度かありますが、悪行はこれ一度。

実際、桜井先生からも「嫌な奴は出さない」といった発言がある様子。
もうひとつ言っておくと、
泣くほどダメージを受けた友人にも遺恨を持たない山田の様子が大事。
ネガティブな面にこだわらない。好きな人は好き。そんな子です。

Karte.3 僕はお膳立てした

「ネコゲンカ回」
近くの席の男子グループ、ゲスなエロ話&好きな女子話ではしゃぐ。
それに参加していた坊主の神崎くんが、意中の原さんを呼び出した。
場所は図書室。市川と山田がいます。山田邪魔!そして市川も失態!
山田の機転で、市川とのクッソかわいいネコゲンカ開始。事態は好転。
神崎・原ペアも、市川と山田もそれぞれハッピーエンド。よかったね!

私見:
主人公格の2人より先にデキてしまう、身近なサブキャラ2人。
ぽっちゃり優しい大人女子の原さん。山田と凸凹好対照だが仲はいい。
何気に主人公顔の爽やか坊主・神崎による、性癖ハードコアが炸裂する。

市川以外の男子と山田がトークで絡む場面、作中でも割と貴重。
性癖披露にドン引く山田。自分に向かっていないから耐えられたのか。
よく考えたら、性癖直撃した原さんは引いていない…?さすが原さん。
ここから生まれた神崎・原ペア、市川と山田に対する刺激として
作用したり、原さんは今後2人の関係の理解者となる人だったりで、
展開的にも重要な回。
このあたりで話が濃くなってきた感がある。
告白じみた場の空気を乱さないため、物音立てた市川はネコにされる。
図書室にネコがいるわけないけど、まぁネコだった事にするんだよ。
ドヘタクソなので山田が協力。原さんのアシストによりネコゲンカ開始。
そこから神崎・原ペアは、ネコというトピックをきっかけに
話の花が咲く…のだけど、根本的な解決理由は笑いと安心感だと思う。
「誰かの立ち聞きは明らかだが、山田の友人なら安心」的な形。
ネタフリに乗って一緒に遊べる市川、山田にとって高ポイントだろうな。

Karte.4 僕は渡した

「イラストモデル回」
「誰がモデルでもない絵」を描く市川。わりとうまいのでモデルバレバレ。
前回に引き続き、ゲスなイキリの足立がクソくだらない行動をとります。
その余波で市川に火の粉が!オナニーしてるかって手紙を山田に渡せと?
たまたま持ってた紙切れを代わりに渡すが、それさっきの山田の絵だろ。
でもなんか山田のお気に召したみたい。なんでだろうね?よかったね!

私見:
わりと重要、というか象徴的な回。「男子に対する山田のスタンス」。
まず、「市川というキャラの比較対象としての足立」が本格始動。
言っても彼の出番そんなに無いけど、暗にだいぶ比べられるよね彼。
ゲストークを聞かれていたのか、山田の氷の目線で威圧される足立。
1話冒頭と同じ性質の目は、望まない干渉への山田のテンプレ対応なのか。
足立自身の手紙、オナニーアンケではなく、内容自体は罪のないもの。
弱そうな市川を利用したのは事実かも知れないがこいつも奥手なんだ。
イキリで凡人だけど悪い奴ではない(この作品はそういうフォロー多い)。
だけど、この内容でも印象よくないんだろうなぁ山田には。
市川の山田似顔絵について。
かわいいワンピースを着た、ちょっと幼い感じの、山田っぽい女の子。
普通、いきなりこんなもん渡したら「何だお前…」ってなると思うよ。
なぜか好反応だった理由は、次のKarte.5で暗に示されます。
この漫画は読み返し前提な側面が強い。
山田が望んでいるもの(っぽいもの)を、市川が描いてよこした。
「お前も足立と同類か」と言わんばかりだった山田の表情が、
イラストを確認したとたん、意外性を帯びてフワッと軟化します。
山田にとっての市川が「特別な男子」となり始めたのがKarte.4なのでは。
まぁ実は1話から特別ではあったんだろうけど、転機としての4話かなと。

ちょっとトピック的なものを。既存読者向け。

ぼくやばのりおしょうかいDaqBZz6VQAEOPig

【山田の心のポケットについて】
何を言っているのかわからねーと思うが、山田のポケットは彼女の心だ。
結果的にそうなっている。
主にアメが入っている。アメのゴミも詰め込まれて、うっかり出たりする。
友人にアメのゴミを押し付けたりもする。
女子として大事な薬も、時にはティッシュやそのゴミなども、
何もかも押し込まれ、時にまろび出る。
もちろんスマホも。やむなく出されるスマホのシーン、わりとキツい。
入る事も、出る事も、探しものが見つかる事も、おそらく無意味ではない。
展開の小道具、暗示、あるいはエッセンスとして広く活用されている。
4話の最後のコマ。
友人にも内容を内緒にして、ポケットにイラストを突っ込んだ。
野放図な山田が故意に伏せる場合、それは大事なものである可能性が高い。
あまりにさりげない描写だが、こんなところからポケットネタが始まる。

…今気付いたのでもうひとつ。
【山田とお菓子、開封後のゴミについて】
山田のポケットから「(アメの)ゴミだけがこぼれる」場合がある。
ガサツな悪癖からくるドジとも取れるが、山田のゴミは特別だ。
故意に押し付ける事が少なくとも3回はあった。
なら、うっかりこぼれる場合も含めたゴミシーンの共通点は何か。
発動条件はおそらく、「相手から心遣いを受けた」時。
結果、山田が「心を開いた」時にゴミが出る。
ポケットはやはり「心」だという事でよさそうじゃないか?
読者には通じるだろうけど、山田には実際人見知りな面がある。
他者とのシーンでゴミが描写された例。
・まず市川。複数回ある。
(厳密には、1話と3巻オマケ1の計2回か)
・他の仲間たちがスルーした中、遊びに乗ってくれた萌子。
(萌子、察するに他の仲間より付き合いは短い)
・ボールをぶつけてしまった事を謝ってくれた金生谷さん。
(山田と同小だったが付き合いはなかった)
・カップルごっこの手つなぎに付き合ってくれた原さん。
(ここでの原さん関連、イヤホンやポケットも含め、相当に暗示的)
…どのパターンも「大切にしてくれる相手に接した時」かなと。
出てくるアメのゴミは、おそらく「信頼」でいい。
他人からの信頼というのは、場合により負担でもあるから。
萌子や金生谷さんあたりの様子を見れば、負担である事は明らかだ。

例えば、カッターで袋が開封され、お菓子を食べ、袋がゴミになる。
配慮が心の壁を開封、山田は喜びを味わい、開かれた心から信頼が生じる。
何この漫画…?
1話で市川に豪快にゴミ押し付けたのも、やっぱりそういう事か。
一見して無意味に示される様子のゴミに一貫性があったか。
優しい男に全幅の信頼を寄せて甘えたくても、諸事情でかなわず、
そんなところに身分も弁えない陰キャがカッター貸したらクリティカルか。

どれだけ男の優しさに飢えていたんだよ山田。
ラスボスの神が適性武器のチェーンソーで一撃バラバラになる感じか。
カッターで一撃バラバラにされた山田…。
え?市川の初期設定願望、ある意味、1話の中で回収済み…?
萌子はささいな事で信頼を示されても重荷だから嫌がった…?
市川は、山田の信頼の証をジップロックで後生大事に保存している…?
たまたま後ろにでっかいゴミバコがあったのは市川の度量の象徴…?
つまり、
1話ラスト、市川の優しさとでっかいゴミ箱がカブって見え、連想し、
「信頼のしるしとしてのゴミを渡したい」深層心理が現れた可能性が。

だって山田にも「校内のゴミ箱に捨てない」意識は実際にあるんだよ。
目の前で結講な量の余りまで平らげたのは有り余る喜びの表現…?
3巻、踊り場ジャージの話で似たような事してたよな…?
本当に、パシリにした「だけでは無かった」ということか…?
もちろん額面通り『捨てといて』であっても通る。
市川に渡した山田自身の認識は、確かにただのゴミだ(2巻巻末)。
しかしその上で、確実に別の意味を帯びている…。一貫性を伴う…。

信頼がゴミの形をとって現れるラブコメヒロイン…!
心を開いたあかしとしてのゴミ…!
信頼のメタファーのゴミ…!
ラブコメのキーアイテムが…ゴミ……!!!

私は何を言っているんだ…そんな漫画あるわけねえだろ…。
ポケットの話するだけだったはずなのに何これ…!!
いや本当、謎にゴミを出してくるんだよ山田。少しすっきりした。

トピック長くてごめんな。多分に邪推だし。
だがあと11話分も紹介がある。やろうぜ!

Karte.5 僕は遭遇した

「ファッションモデル回」
中2男子市川、中二病ファッションで外出。ブックオフで充実し休日終了。
本屋を見て「山田が現役専属モデルを務めるファッション誌」を思い出す。
気になって入店した後、山田本人がエントリー!でもなんか空回って退店。
仕方ないので逃した客の分を僕が買っとくか!仕方ないからな!仕方ない!
誌面で見る山田を遠い存在に感じる。縁のない人間…一回だけ使う。何に。

私見:
山田はモデル活動で認められたい・認知を受けたい様子。
なのに、専属雑誌の対象年齢が大人向けであるせいか、
同世代女子における知名度はさほどでもない。なじみの友人たちは無関心。
だからこそ、市川が山田をモデルにして服を着せた(っぽい)イラストを
渡した事は、なにやら好印象につながったのかなぁと。
端的に言えば「ファンレター的な何か」だと受け取られたのか。

…そうとも知らず、市川の心は「クラスメイトの山田」から離れます。
なんか大人っぽい、おしゃんてぃな雑誌で活躍するファッションモデル。
一方の自分は、劣等感のカタマリじみた、カースト底辺の陰キャ弱者。
住む世界が全く違う事を思い知る。もうどうでもいい山田。使うけど。

Karte.6 僕は嫌だ

「頭がおかしい回」
登校中、どうでもいい山田の隣に、彼氏らしき男が。でもただのナンパ。
…ただのナンパじゃないぞこれ。腕力により奪われる山田の自由意志。
どうでもいい。どうでもいいな。どうでもいい訳ないんだろ?
なかば無心で放たれたそれは、市川自身の運命のダイスとなった。
出目は望外、あの子の笑顔と大絶賛。お前の運命咲き乱れます。やったね!

私見:
作中きってのアクション回。読者にだけ伝わる英雄的描写。
「どっかの知らん女」になりかけた山田を、個人として再認識する回。
山田杏奈個人の価値観で最大の賛辞受けたら、そりゃ実存感もMAXだろう。
この6話までが無料公開分。作者いわくのプロローグ。
本作のヴィラン的存在、ナンパのセンパイ登場回。今後も出ます。
まぁこれからも警戒対象ではあり続けるのだが、今回ほどの蛮行には
至らないのでごあんしんください。割と優しい世界だよねこの漫画。
山田は本当、男のあしらい方とか全然慣れてない様子。
そういう意味でも、世間擦れのない子供感が強い。
足立やこのセンパイみたいのばっかり寄って来るから避け続けて来たのか。
あと、よい子のみんなは市川のマネしちゃダメ。人に当たったら最悪死ぬ。
それよりも特筆すべき点がある。
今回における、市川のトラブル対処法。
自分が泥をかぶっただけで、誰一人として悪感情を残していない。

文字通り「適当な嘘で切り抜けて誰一人傷つけない」。日曜日の使者かよ。
「山田を助けようと思った」とか言っちゃったらいろいろ面倒だもんな。
結果、加害者のナンパ野郎を責めもせず、危機はうやむやになった。
そんな美点、この時点では誰にも伝わらない。
でも後で似たような事やってお前の良さはバレてしまうから安心しろ。

★★★★ここより下、現在はマンガクロス非公開。あしからず★★★★

Karte.7 僕は練りに練った

「ねるねるねるね回」
自称「偽りだらけの世界を破壊すべく誕生した」「危険な力をもつ」市川。
図書室は危険な自分を抑える聖なる地。要するに大事な安住の地らしい。
まぁ山田は、今日もそんな場所でねるねるねるねとか作ろうとするけどな。
水汲んできてはこぼしまくる山田。市川は図書室を守るために後始末など。
なのにまたゴミ押し付けられ…トッピング残ってる!テンション爆上げ!!

私見:
市川の厚意が半分くらいは汲まれる回。
カラのポテチ袋を押し付けられるよりは可食部分が増えた。
でもこれは、あの時とは性質が違う。
「食い意地で生きてる感じの山田が、自分のお菓子を分ける」形。
暗示的に「好意の度合いの変化」っぽく、今後も要所で出てくる描写。
作者いわく「シェアで感覚を分かち合おう」という意識の現れらしい。
上記での考察からすると「感謝の気持ちを伝えている」様にも思える。
山ほどの文脈を抱えた女、山田。
コップで水飲む「お上品」市川、次の8話における小道具の前フリか?

Karte.8 僕は沸騰した

「オルタナティブ水着回」
休み時間、暑さからお互いを煽ぎ合う女子たち。結構な汗。
「距離感がつかめない山田」という象徴的シーン。ブラ透けあるかな?
足立のゲスチャレンジを人知れず食い止める市川。
かと思ったら、自分のセンスのいい扇子のおかげで、当の市川自身が
濡れ透け山田と至近距離になり…非常に特殊な水着回というオチ。

私見:
カッター平和利用、何気に3度目。今度は視姦から山田を守りました。
意図はどうあれ山田のために持っていたものが、何度も山田の危機を救う。
市川のセンスのいい扇子なら、山田が使っても顔に当たらない。
意味深。下敷きでなく団扇を使うのは対人スキルの高そうな萌子だ。

珍しく作中で明言されているが、「対人的な距離感」の回。
この作品はとにかく、明示と暗示の二重攻めで、情報量が尋常でない。
この先生、元からピタゴラスイッチ的な組み上げの鬼だったんだよな。
裏でも細工が始まった。これは大変だ。
しかも「ヒロインのモノローグ無し」という大胆な引き算まで来た。
シンプルなラブコメかと思えば、検証型ミステリーの様相を見せる。
そのミステリ的な空気感自体が、作品の演出として機能している気がする。
「読後感」という単語があるが、読後に至った気がしない。
私は何を見せられているんだ。
この作品を産み出した桜井先生に感謝。
そしてマンガクロスはじめ、関係各位にも感謝。すごいな!!

Karte.9 僕は匿った

「彼氏さん回」
高身長の山田をおんぶして歩く、ちっさい小林さん。あの市川をして、
山田の彼氏と言わしめるくらいの、いろんな意味でのイチの親友っぽい。
そんな小林さんが図書室に襲来。山田は市川でカモフラをはかり隠れる。
なぜ山田が図書室に入り浸り始めたのか、親友の口から語られます。
潜伏バレバレな山田、ホメ殺しで釣られて堂々エッヘンするほっこり回。

私見:
「恥と外聞」的なみっともなさを気にせず、親友とたわむれたい山田。
2巻以降、市川の低身長を気にせず恋愛攻勢に出るのもなんかわかる。
後に「世間体を気にする」場面はあるが、大事な相手なら度外視なのか。
陽キャ設定だが、人間関係狭く深くというコアな人物像が見える。
小林、市川の女性版ifという感あるよな。
背格好も髪型も、性格も、山田との関係性も、割とカブる。
みっともなくても結局おんぶごっこに付き合うくらい優しい親友です。

やっぱり小林も山田が大切。萌え4コマみたいだね!

Karte.10 僕は死んだ

「墓場の京太郎回」
文化祭の出し物はお化け屋敷。山田は背景画を手伝ってヘタなお墓を描く。
当然のように友人らからダメ出しされ、山田の指名は代打・市川。
…ん?市川、原さんが描いてた「山田家之墓」、自分で描いた事にするの?
ヘコむ山田。ツメる萌子。イキる足立。市川は事態収拾のひと芝居を打つ。
誤解は原さんの釈明で解かれます。すべて理解した山田のごめんねEND。


私見:
6話の顛末と同様、市川の泥かぶり自己犠牲が発動します。
その場にいない原さんの責任を自分が負う。女子たちの和を守るため。
「俺じゃねえよ原さんだろ」と言ってしまえばそれで済むのに。
陰キャとして培った中二病スキルで周囲を固まらせ、そこで原さん帰還。
もちろん原さんもうっかりミスで、よくある名字をたくさん書いただけ。
変な空気からの、肩透かしな解決。誰も悪くなかった。
表面上では何がしたかったのかわからない市川に、山田は寄り添い謝る。
他のみんなと一緒に何事もなくハケる事も出来たはずなのに。
…つまりまぁ、分かってしまったんだろ。
市川自身が語らずとも、さすがに当の山田は思い知らされてしまった。
勘違いで窮地に陥れた自分を責めもしない。
「原さんをかばった」という可能性も、おそらく見えているだろう。

市川がやっていないのは市川自身が一番よく分かっていたはずだ。
殴られそうになってまで、他人への矛先を自分に向けさせ続けた。
山田自身は、社会科発表の時、却下にいくらか反発した。それが普通だ。
市川は、無実のくせに背負い込んだ上で、誰も悪者にしない。
山田のこれまでの人生。
ズバ抜けた美貌、高身長、現役ファッションモデル。
まともな男からは敬遠されてもおかしくないスペック。
寄ってくるのは、勢いや下心にまかせた無神経なゲス野郎ばかり。
ロクな男縁がなかっただろう事は、例の氷の視線からも見て取れる。
そんな山田の目の前に、謎の優しさを秘めた変なのが現れた。
今までの「男」とは違う。
これ以降、市川を見る山田の様子に変化が現れます。

Karte.11 僕は突破した

「文化祭回」
山田は後輩ファンに囲まれてるし、ぼっちの市川、トイレでFGOでも…
ナンパイセン再び!しかし友軍による山田防衛陣が!効果は抜群だ!
とはいえ心配な市川は尾行を開始…人混みが邪魔。見失うのか?
奇策で突破するが、当の山田に見つかっちゃって尾行失敗だよねこれ。
私んちと市川んちの距離がどうとか言われたらそりゃ感無量になるEND。

私見:
突破エンカウントした時の山田の表情、どう見ても好意が含まれてる。
単なる友達というものでもない。10話での影響が見て取れる表情。
家同士の距離を言われる、つまり「学校が同じ」という以上の、
市川という人間そのものを意識に入れた事のあらわれかなぁと。

市川にしてみれば、山田という人間が私生活に介入してきたも同然だ。
「知らない女の人」どころか、「1キロ先に家がある」と教えてくる。

戦術的表現からの「地図による本陣同士の位置関係」の話という、
ほぼ全編が軍事的要素で固められた趣向の回。イクサが始まる暗示か?
この回は、単行本でのオマケ1ページ漫画がちょっと特別。
11話冒頭でファンサ的に後輩とのツーショ写真など撮っていた山田は、
「(展示物の地図を)撮っていいかな」という市川の発言を受け、
市川のスマホを勝手に取って、あっさり自分とのツーショを撮ってしまう。
4話のイラストにより、市川を「モデルとしての自分に関心がある者」と
見ていただろう事の反映だとは思うんだけど、逆に言えば、
「女性として好意を寄せられた」ものだとは捉えてないんじゃないか。

「プロのモデル」の自分が、意識の中にちゃんとある事のあらわれか。
で、そのツーショらしき写真を、山田は自分の部屋に飾ってる。
桜井先生のpixivアカウントで公開されてます(『起きろの絵』)。
いつ飾り始めたかは分からんけど、2人の初めての写真なんだよな。
1ページに込められたものが多いオマケ。

Karte.12 僕は眠れない

「保健室回」
市川は頭痛で保健室へ。とりあえず1時間休ませる保健室の先生…が?
隣のベッドのカーテンを体にひっかけて開けちゃった。病室あるある。
寝ていたのは山田。寝顔(?)見られたけど市川なのでよかったらしい。
「おなか痛い」と言ってみたり、「頭痛にも効く」という薬をくれたり。
保健室にジャージとアメを忘れた山田、アメしか意識にない。山田らしさ。

私見:
言わずもがなの生理回です。市川は気づかない。のちにもう一度ある
生理回でも、「山田の」生理に関しては何やら反応が薄い。
「山田限定で生理についての関心が生じない」?少し考えさせられる部分。
下品番長たる桜井のりおが、恋心には品性を加えようとしている…?
山田への共感の高さゆえ、生理を文字通り生理現象とのみ捉えている?
「アイドルはウンコしない」じゃないが「山田の生理には関心がない」。
毎日山田で致してるのにそこの一線はあるのか?愛が深すぎないかお前。
断言は出来ないが、今後も山田の生理で興奮したりはしなさそう。

山田は寝覚めで例の氷の視線じみた目をします。この状況なら当然か。
市川を確認し、「知らない人じゃなくてよかった」と言いつつ顔を背ける。
それもまた当然。男子にそういう場面見られるとそりゃちょっとね。
「知ってる人」でなく、「人間性を知ってる男子」なんだよな。
相手がいつもの小林あたりだったらそんな事もなかったはずなんだ。
だがそれでも男子に不慣れな山田。
市川に対し「どうしたの?」と保健室に来た理由を聞いてしまいます。
聞き返されたら自分も答えざるを得ないのに。

案の定そうなってしまって、返事に詰まった挙げ句の「おなか痛い」。
生理バレ覚悟の本音。相手が市川だから思い切って明かしたという形か。

それを経た上で、さらに「頭痛にも効く」薬を渡す。「にも」って。
バレ要素を重ねてでも薬を渡す。
市川、『お菓子じゃないとすんなりくれるな』じゃないんだよ。
半分どころか全成分優しさじゃねーか。そして一種の信頼のあらわれだ。
おそらく「市川が男性である事」への山田の意識を顕在化させるための回。
ジャージよりアメが大事な山田が、「薬と一緒に出したアメ」を忘れる。
山田なのにアメの事が頭から吹っ飛んでいた。
「色気より食い気」から「食い気より色気」に移行する分水嶺っぽい。
それがたったひとつの内容から、最大限に、自然に、暗喩的に示される。
桜井のりおは漫画の悪魔か。なんなんすかこの人。
市川はと言えば、山田の忘れ物のジャージには抗いがたい関心。
不可抗力で匂いまで堪能したせいで頭痛も治る。ありがとういい薬です。
このあたりがさりげなく重要な描写。
ジャージへの関心を「必然性がない」と言い放っています。
頭痛を起こすような「頭の中の虫」のせいなのだと。
「脳を操作して僕の体を操っている」という設定の、概念上の虫。
単にギャグ文脈で言い訳をさせている訳ではないんですよきっと。
のちの14話において、改まった形で同様のモノローグが入ります。
冗談でなく、自分の「感情」を客観視出来ていない。
好意を自覚出来ていない。好かれているという自覚も持てないだろう。
どんな非モテでも陥らない程の自己肯定感の欠落がそうさせるのか。
この点、部分的には解決されますが、作中で長く尾を引く事となります。

Karte.13 僕は捗った

「性癖ハードコア坊主が無双する回」
下ネタ起動装置足立くん、今日も山田たち女子にエロネタの騙し討ち。  オトナの心理テストで好きな体位が分かる!だがここで活躍するのは神崎。桜井のりお一流のご陽気下ネタスキルを託された爽やか坊主の独壇場。
ギャグセンスの弱い山田、大喜利と化した状況に乗り遅れてタイムアウト。
…からの、場面変わって図書室。山田の市川に対する全力騎乗位!捗るね!


私見:
前回に続き、何気に山田の「食欲」と「性の意識」が関連付いている。
食い気の強さがそっち方面の欲の強さにダイレクトで反映される暗示も。
実際、市川との関係性が深まるにつれ、支配的傾向も出て来る事になる。
で、ポケットの話だけど。
大事なミルキーを市川に取られたかと思った。
でも探したら自分のポケットにあったよ。
…ミルキーはな?
12話と14話の間でやや浮いている13話、この位置なのはそういう事か。
次の14話。山田の心から、何かが明らかに奪われている事がわかる。

Karte.14 僕は何もできない

「好きだった回」
山田を殺し自分のモノとする予定だった市川、気持ちと行動の違いに惑う。
バスケのミスで山田にボールをぶつけられ、ぶつけ返す事すら出来ない。
…山田と目が合う。様子がおかしい。ヨソ見してたら危ないよ。
そして不意に念願がかなった。結講な出血の山田。市川が望んでいた猟奇。
またも「間違った行動」を選ぶ市川…しかし行動は間違いではなかった。
自分の感情を涙という形で知ってしまう。僕は山田が好きなんだ。

私見:
「ころしてでもうばいとる」みたいな冒頭でのスタンスはつまり、
底辺から上位へのルサンチマン、人としての隔絶を感じ、
人間関係を考慮せず相手を手に入れるという事か。自己嫌悪までしてた。
要約すれば、元からそんな気持ちは無かった。本意ではなかったと。
歪んだ顔が見たいとかいうのもガキが好きな子いじめるのと同根だろう。
本当は、山田という人間と関わって、認知されたかった。そういう事か。
山田の目線が怖かったシーンの話がしたい。
マイベスト山田5本の指くらいに入るカット。プリミティブ山田いいよね。
市川が気付くまでの間、山田はあの顔で市川を見続けていたはず。
無表情に相手の様子を貪る目。

好意があろうと、関心だけで相手を観察する目に好意は反映されない。
本作冒頭で市川が山田に向けていた視線にも似た、ただ見つめる目。
その不気味さが、このシーンでは背景描写との乖離によって増幅される。
なごやかな原さんの笑顔。のんきなバスケの歓声。穏やかな授業風景。
真顔で見据える山田。
ページ差を利用しての不意討ち、しかも類似の2コマ連続で印象倍掛け。
ホラーやミステリーが好きとおっしゃるだけある。やるなあ(何目線か)。
2コマ目では視線だけ反らしている様子で、なお無意識感を醸し出す。
あるいは飛来するボールに視線だけ反応したか。いずれにせよ故意でない。
これが何を表すのか?山田も男子に関心を持つ事に不慣れなんでしょう。
視線が好意に基づくものであるという自覚もない様子。照れが伴わない。
スイッチは起動しているが好意を自覚していないというリアルな描写。
1巻2巻のあとがき、「距離・変化・気付き」「好意と自覚のタイムラグ」
そのあたりを描いていきたいとの旨があったけど…こう、何というか…
徹底してんなぁ………。
市川は、規律も自覚も合理性も放り出して、間違ったまま駆けていく。
逸る歩調が疾走となり、それに比例して、行く道の血痕が増加する。
リアル志向のこの作品では数少ない、相乗効果を含む心象風景的なシーン。
授業中だ。小林が付き添った。廊下を走ってはいけない。行ってどうする。
…他の事など知らん。山田しか見えない。いい男じゃないか。
「好き」を悟った市川が、我に返ったように教室に戻る所もいい。
安否確認が済んだ以上、自分の思考に整理をつけなければならんのだろう。
未知の感覚を処理するにあたり、落ち着いてしまうところが市川らしい。

『何故泣いたのか』については別の考察者の方が具体的に解説しているので
そちらを読んでもらった方が早いと思う。端的に言うとタイトル通り。

https://note.com/fkym_bokuyaba/n/nafa3681765cc#QQ6ln

で。
2巻でも「感情が形をとって示される」事が気付きを呼ぶ。対になる表現。
もう計算ずくだよ。そりゃ煉獄とか言われるよこの漫画。

Karte.15 僕は抱きしめたい

「山田がターゲットをロックオンする回」
ケガによってモデルの撮影予定がダメになった山田。
大人の世界で足掻いている中学2年生。涙しつつ、悔しさを口にする。
市川は山田に「大人」を見る。過去の様に上辺でなく、人格の一部として。
涙をぬぐうティッシュが無くなったか?さり気なく置いておこうな。
…まったくさり気なくない心遣いが、山田の心に火をつけた。覚悟しろ。

私見:
サブタイ『僕は抱きしめたい』。
山田の心情を受け止める小林が、市川の中で自分とオーバーラップする。
プロ意識を持ち年齢を甘えにしない、山田の気概に感じ入る。
ここ、少し解釈で引っかかったんです。
絵ヅラ的には「座った小林にだっこされて泣いてる山田」でしかない。
作者はなぜそれを、市川が「大人」を見て取る場面に選んだのか。

小林が立ってたら身長差こそあれハグに見えるのに、なぜだっこにしたか。
そのヒントは直後の足立のセリフにあるんじゃないかなと。
『座位っぽくね?』
そうだな。そうだけどさぁ。あまりにも市川の視座との落差がデカ過ぎる。
…では、このシーンの山田が子供に見えている私はどうなのか。
「山田の本質を見ようとする」市川、その強調のため、
あえての「一見して幼稚な姿勢」を山田にとらせたのだと思ったわけです。
冒頭でヴィジュアルだけに執着していた市川はもういない。

6話で山田から人格を示され、15話では上辺に流されず内面を見る。
1巻冒頭の状態を、1巻最終話で回収。成長を描きつつ恋の下地が完成。
設計と完成度に隙がないのに、ガチガチの印象がなく柔らかく自然体。
なんだこれ。リアリティ追求しているとの事ですが常軌を逸している。
で、不審物と化したティッシュ。
一見、山田は気付いていない様にも取れるが、
自分の現状と、セッティング過剰な時点で既に気付いてますよね。
過剰で隠れた心遣い、不器用な優しさ。山田には心当たりがある。
涙もおさまって、今は拭く必要もない。だがなぜ置かれているかは分かる。
ここで、こんな形で、ここまで気遣ってくれる奴なんて、一人しかいない。
答え合わせはラストのコマ。市川はよくモノローグで間違える。
2話で空振りした「涙への配慮」、ここで山田自身に届いてしまった。
つまり2話は今回の伏線だった。
空振りにも意味がある漫画…。怖い…。
不器用に溢れ続けた市川の気持ちが完全にバレてしまい1巻が終了。

2巻はどうなるか?山田も不器用なんだよ!
2巻まるまるかけて市川にヤンチャして、終盤でようやく覚醒だよ。
3巻は3巻で鬱屈と子供が好意こじらせたままイチャイチャしてまったく…。
お前ら2人大変だな!

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

【あとがき】

いかがでしたか?私は好き放題書き散らせて満足した。
こんな所まで読んでいる方おつかれさま。ありがとう。
しばしば難解だとも評されるので、この文が理解の一助となればと思う。

では。

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