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ARR461%成長の裏側② 立ち上げ時の行動は1年後のMRRを映し出す鏡である


SaaS Magazine 「ARR461%成長の裏側」の第2弾です。
前回シェアいただいた沢山の方々ありがとうございました。(第1弾はこちら)

SaaS MagazineはSaaSをさらに盛り上げたい、そしてSaaSに深い知見を持つ方々と意見交換をしたいという下心も含めた二つの意図で運営する、SaaS関連の情報を発信する週刊マガジンです。

僕自身は、株式会社SCOUTERにて、人材業界に特化した、クラウド求人データベース「SARDINE」というVertical SaaS(業界特化型のSaaS)を立ち上げ、現在は事業責任者を務めてます。


第2弾となる本記事は、SaaSの立ち上げ時に中長期的なMRR成長を見据えて、やっておくべきこと(実施して良かったこと)を2つのポイントにまとめています。(これから立ち上げるor立ち上げ中の方々に向けて書いています)


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「立ち上げ時の行動は1年後のMRRを映し出す鏡だ」

これは、本記事を書こうと立ち上げ時を振り返っていた時に、ふと思ったことである。

今振り返ると、PMF後の初年度にARR461%の成長を成し遂げることができたのは、事業の立ち上げ時に近視眼的にならずに、半年後や1年後の成長を見据えてリソースを投下することができたからだと思っている。

そして、それは今も変わらず、半年後、1年後の継続的な成長のために、中長期施策にリソースを割くことの重要性が身にしみて分かっているからこそ、事業責任者としての業務の多くは、半年以上先に継続的な成長を実現するために必要なこと、という観点でプロジェクトを発足、実行している。


事業立ち上げ時の行動が1年後のMRRを映し出す


これはSaaSに限らず多くの事業に言えることだが、SaaSの場合はより色濃く、事業立ち上げ時の行動が中長期の事業成長に反射する。

無理なアプローチやクロージングによるMRRの構築が、チャーンレートやNRRという事業の重要な変数にノイズを混ざりこませることにより、事業の成長を鈍化させるからである。つまり、短期的に、そして場当たり的に行う施策のほとんどが、本質的な事業成長に意味を為さないだけでなく、MRR成長におけるマイナス要因となるのである。

無理に動かした変数は、複雑に他の変数と絡み合い、リールの中で絡み合った釣り糸のように、修復不可能な状態を引き起こす。これは入り口(マーケ)から出口(CS)まで、全ての要素が連動するSaaSならではの特徴と言っても良いのかもしれない。

つまり、立ち上げフェーズにも関わらず、当月のMRRという近視眼的な成果目標を追うメンバーしかいないチームは、短期的に売上が伸びたとしても、継続的な成長を実現することはほぼ不可能だといえる。



情報(データ)管理設計


SaaSという事業モデルの特性上、MRRから分解される数値(データ)が事業の全てを物語ってくれると言っても過言ではない。マーケのリード獲得の段階から、CSの顧客継続やアップセルまで、全ての数値と要素は連動している。

このデータが、事業立ち上げ時点から分析ができる状態で記録され、後から取り出せる状態になっているかは、中長期の事業成長において重要である。

成長が行き詰まりそうになったタイミング、さらなる成長を目指しアクセルを踏んでいくタイミング、このような分岐においてデータがなくては、意思決定や判断は、勘やセンスなどと呼ばれる幻想によって行われていく。

データベース上に残る数値(トラフィックやログイン履歴などのサービス利用データetc)は問題なく後から取り出せるケースが多いのだが、セールスやCSにかかる数値は、対顧客とのリアルな接点において生まれるデータであり、データベース上に自動で残るものではない。接点を持った人間が適切なデータ構造とルールに基づいて記録し、それをレポートという形であらゆる切り口で分析できるようになっている必要がある。営業マンのローカルメモ、google documentやesaなどのドキュメントに記録されているだけでは、後から取り出して分析することが困難なのである。


ちなみにこれは、「軌道に乗ってきたらやればいいや」では遅い。PMFするまでの間に数値を見返して判断or意思決定をする場面は確実に訪れる。途中で管理手法を変更することは、移行コストがかかるだけでなく、MAツールのように移行できないデータ(リード顧客のweb閲覧ログetc)もあるので、管理するデータが分散してしまうというリスクも考えられる。

私たちの場合は、初期からSalesforceを導入して、カスタマイズなども全て自社で設計した。正直なところ、初期の貴重な情報にも関わらず、「フリーテキスト」で記入されていたが故に、分析に時間を要するものもたくさんある。また、途中でなんども設計を見直している。ただ、初期からデータを記録できる状態の構築と、記入だけは徹底していたので、情報は残っている。

設計などが得意ではない人材でも最低限必要な数値を記録できる体制にさえしておけば、後から得意な人間を採用orアサインすれば、利便性を高める動きは後からでもできる。つまり、必要なデータが記録されていいない状態や、テキストメモなどの集計が不可能な状態だけを避ければ、最初はダッシュボードの見やすさや美しさにこだわる必要はない。

またSalesforceは1アカウントたった1.5万円ほどで利用できるので、後からの上記リスクを考えると、立ち上げフェーズとはいえ、このコストをケチる必要はないと思う。またカスタマイズができる人材がいない場合には、アウトソーシングするのも手である。(非エンジニアでも基本的な設定はできるものだが、SFを触ったことない人間であれば時間を要してしまうので)


リード獲得経路の構築


PMFへの勝ち筋が見えたタイミングで、思考すべきはリード獲得経路の構築である。PMFが見えていないタイミングでのリード獲得経路の構築は考えるべきではない。PMF前ではターゲットやプロダクトの修正や変更が十分に考えられるため、リードジェネレーションチャネルやその経路にも変更が及ぶ可能性があるからだ。

半年、1年後の安定したMRRの構築のために必要なリードを獲得する経路を生み出さなければ、アウトバウンドを繰り返すことになる。言わば、SaaSにおける薬物中毒状態である。これでは、どれだけ時間をかけても、ユニットエコノミクスやpayback periodなどの営業の効率性を測る指標において、改善を見込める要素が育っていかない。

SARDINEの場合は、人材業界に特化したVertical SaaSということで限られたマーケットでの戦いであり、いかにアウトバウンド以外の手法でリードを獲得してくるかは事業の成否を大きく分けるポイントだった。そこでプロダクト営業開始から半年したタイミングで、社内から別事業の優秀な営業マンをアサインし、私自身のリソースはマーケティング体制の構築に全投下した。

具体的には、オウンドメディアの構築というありきたりな施策ではあり、顧客フェーズに合わせたキーワードボリュームが4万/月間ほどしかない渇いたフィールドだった。しかし、全80記事ほどのオウンドメディアにも関わらず、現在では新規顧客の7割程度を安定的に生み出すメディアに成長しており、マーケティング施策の中枢に存在し続けている。

ここにおいてのポイントはコンテンツの質を妥協しないということだ。立ち上げ時期のオウンドメディアの構築においてのありがちな失敗は、記事制作をアウトソーシングし、費用対効果が合わないと嘆き半年や1年ほどで撤退するパターンである。オウンドメディアの成功の可否は、コンテンツの質が8,9割を占めると言っても過言ではないと思う。流入経路に関するSEOの観点だけでなく、記事からのCTAへの展開率という観点でも、コンテンツの質は大きな影響を及ぼす。

逆に言ってしまえば、その領域のノウハウや情報の詳しい&ライティング能力が高い人間に任せられないのであれば、オウンドメディアは作るべきではないとさえ思う。従来のキュレーションメディアのような作成方法で、SEOの上位を取れる時代は終わりに近づいており、量産で勝てる時代は終わったのだと思う。(圧倒的な量をやれば別だけど資本勝負になる)

集中してリソースを投下し、良質なコンテンツを作ることさえできれば、あとは記事を制作しなくても、安定的に売上となるタネ(リード)を生み出し続ける木になってくれる。例え社内における重要な人物の工数がかかったとしても、その投資は後から回収できる。

あと、大したリード数もない段階で、MAツールを入れることも無意味である。まずはリード獲得経路構築にフォーカスすべき。


最後に


今回も前回同様に、SaaSの立ち上げフェーズの方々、そして今からSaaSの立ち上げを行なっている方々に向けて書きました。殴り書き感が拭えないので、シェア数が前回を超えれば、次回は細部をもう少し深ぼって書いていこうと思いますm(_ _)m

僕自身ももっと多くのSaaSに関する事例をインプットしたいなと思っているので、SaaS事業運営されている方は、ぜひランチやお茶などご一緒させてくださいー

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